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只人は異世界に降臨した。

只人は異世界へ。

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 目が覚めたら、そこは草原だった。

 転移酔いとでも言うべきだろうか、ふらつく頭を休ませ手鏡を確認する。

「鏡山、聞こえるか」

『聞こえるよ!因みにアナタがそこに降りたってからまだ一時間しか経ってないね』

「そうか……ならさっさと佳乃を……!?」

 ズシリと、体が重い感覚に襲われた。

 まるで全身に重りでもつけているみたいだ、いや、違う……これは……

「あぁクソ……マジで神力使い切っちまったか……」

『え!?それって大丈夫なの?』

「全然駄目、ただの人間に逆戻りだ……ふっ……!!」

 神力、説明してなかったがざっくり言うと神様の万能の力の事だ、雨を降らすのも空を飛ぶのも神力あっての事。

 今の俺は少し鍛えただけの常人に成り下がっていた。

 よろめきながら立ち上がると近くにあった木に寄りかかる。

「ふぅ……滅茶苦茶しんどいなこれ……」

『ずっと神力に頼ってたんだねぇ』

「神力の無い生活なんて長いことしてなかったからな……ん?」

 ふと、草原に似つかわしくない甲高い音が聞こえた。

「金属音……?聞き覚えがある、これは……剣戟の音だ」

『誰かが戦闘中って訳だ!様子を見に行こう!』

「佳乃を知ってる奴がいると良いんだが……急かすな……体重いんだって……!」

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 重い体を引きずりながら音のしている雑木林に入りこむと、音の発生源はすぐ見つかった。

「そろそろ諦めたらどうだ?お前の弱っちい矢がこの俺を傷つけられると思ってるのか?」

「くっ……!」

 耳の長い女が全身鎧を付けた兵士と戦っている、どうやらあの二人以外に人はいなさそうだ

「あれは……人間……か?やけに耳が長いし髪色も緑とはも奇抜だな」

『あ、エルフじゃない?ボクこの前そういうマンガ読んでたからわかるよ!』

「エルフ?」

『え、エルフ知らないの!?マンガとか読んだこと無い!?』

「あ~……佳乃が友達からそういうの読ませてもらってたらしいけど……俺はそんなの読む暇ないし……」

『勿体ないなぁ、今度ボクのコレクション貸そうか?』

「いらねぇ……」

 俺は耳を澄ますと剣戟の中に聞こえる罵り合う声を拾う。

「帝国の兵士め!何故庇護下にある筈の私達を狙う!」

「お前に応える義理は無ぇクソエルフ!!大人しくくたばりな!!」

『うわぁ、見るからに鎧男の方が悪者だねぇ。どうする神薙サマ?』

「どうするも何もお前は何もしないだろ……後答えは『両方捕まえる』だ、情報は多い方が良い」

『じゃあこのまま傍観……あ、見て神薙サマ?戦況が変わったよ』

 言われて首をあげるとエルフの方が何かを呟くと周囲に風が集まり突風が鎧男の動きを鈍らせた場面だった。

 エルフはそのまま動けない鎧の隙間に矢を通すつもりのようだ。

「命は取らない、覚悟しろ!」

「っ……舐めんなクソエルフ!!」

「おっ?」

『わぁ、手から鎖が生えたねあの鎧男、まるで魔法見たいだ……あれ、神薙サマ?』

「……おい、鏡山……あいつの鎖から神力を感じるぞ」

 今振り返ると、この時の俺は鏡山曰く酷い顔をしていたらしい。

 鎧男が鎖でエルフを拘束した瞬間鏡山が大声をあげてしまった。

『えぇ!?あんなTHE・モブみたいな鎧が神だって言うの?』

「誰だっ!他にもまだ仲間が居やがるのか!?」

「おい、鏡山……」

『あー……これはごめん、やらかしちゃった』

 俺はため息を吐くと正面から顔を出す、鎧男はエルフの様な民族っぽい衣装が現れると思ったのだろうか、カジュアルすぎる革ジャンを羽織っている俺は奇妙に見えたのだろう。

「あぁ……?エルフの服じゃねぇな、誰だ?」

「誰だって言われたら現人神……元神って答えるが、信じないだろ?」

「元神だぁ?気でも触れてんのか?」

「これでも真実なんだよ……それよりお前ら二人に聞きたい事があるんだがいいか?」

 俺は体を伸ばしながら質問すると鎧男はいよいよ奇人を見つめる目になった……と思う、兜越しだからわからんが。

「お前……この状況分かってんのか?」

「ああ、お前がそのエルフ?を殺す前に俺が二人ともぶっ飛ばして聞きたい事を聞くだけだ」

「は!なんかよくわからんかったがやっぱりこのエルフを助けに来て……ん??」

「あぁ、二人。どっちもぶっ飛ばす、何故なら話を聞く前に逃げられたら困るからな」

 その言葉にエルフも困惑している、まぁそうだろうな、この状況で普通は襲われる方を助けるんだろうし。

 だが俺は佳乃を探さないといけない、昔の俺ならまだ余裕はあったが今の俺に佳乃以外を救う余裕なんて無い。

「……ハッ、お前もイカレ野郎って訳か」

 鎧男は何か力を入れる動作をするとエルフを縛り付ける鎖が増え、絶対に逃げられないよう雁字搦めにされた。

 そして鎧男は西洋剣を構えるとその切っ先を俺に向けた。

「命は取らない、その代わり喋れる程度にはお前を傷つけるぞ」

「舐めやがって……ぶっ殺す!!!」

 男は剣を横に構えると鎧を着た人間としては規格外の速さで突っ込んできた。

 ここで昔の話をしよう。

 これでも俺はそれなりに古い神だ、現人神になる前も、なった後も命の奪い合いは何度もあった。

 その時甲冑を着た武士とも戦ったし西洋から来た目の前の男の様な鎧騎士とも戦った事はある。

 普通西洋式の鎧は重い、物によっては成人女性を背負いながら動くのと変わらない程だ。

 つまり動きが鈍くなるのが必然なのだが……

「よっ」

「チッ、ちょこまか避けやがって!ぶっとばすんじゃねぇのか!?」

 この男、かなり早い。ここが地球と同じ法則が成り立つのならあの鎧と剣を合わせても60キロ近くはあるだろうに、それを感じさせない軽快さで暴れている。

 俺は動きを止めると何かをすると察したのか鎧男は一瞬動きを止めた。

「観念したか?大人しく首を差し出すなら痛みは与えねぇよ」

「悪いな、少し準備運動してたんだ。……だけどもういけるぜ」

 俺は拳を緩く握り軽く脱力する、これが今、力を失っている俺の構えだ。

「勝負は一瞬だ、来いよ」

「あぁ、一瞬で殺してやる!!!」

 鎧男が下から掬うように剣を振り上げる

 俺は鼻先を掠めるように体を動かし剣を避ける

 鎧男は勢いを反転させ剣を振り下ろす

 俺は、鎧男の剣の柄に手を添えるとその勢いを利用して地面に投げ飛ばした。

「ガッ……ハッ……」

 意識が朦朧とした鎧男に俺は間髪入れず鎧を手を入れると急いで外す。

「う……てめぇ何を……」

「何って逃げられないようにするんだよ……っと」

 俺は軽い口調とは裏腹に鈍い音を立てて男の足の関節を外した。

「―――――あ?」

「腕も外すぞ」

 何が起きたかわからなかった男に続けて腕の関節を外すとようやく男は痛みに気が付いた。

「があああああああぁぁぁぁぁ!!!???」

「話を聞いたら直してやる……って、気絶したか」

 その時、ふとエルフを見ると鎖が消え自由になっていた。

 俺は何故かへたり込んでいるエルフに近づくと視線を合わせた。

「さて、と……聞きたい事があるんだが、お前は外さなくていいよな?」

「ひっ……」

 俺が近づくと悲鳴を上げ後ずさるエルフ、俺は肩を掴むとエルフは見るからに動揺していた。

「いいか?俺はこの世界の情報が欲しいだけだ、お前の命とかそんなのはいらん。それさえ教えたら何もしない、いいな?」

 無言で首を縦に振るエルフに俺は立ち上がると欲しい情報を整理するのだった。





『相変わらず、身内の事になると容赦ないねぇ……』
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