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俺は元相方から逃げたい

雪と瞬の動向

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 ぽつりぽつりと綾人が話し終わる。
 ふたりの反応を見るため、顔をあげると

 ニコニコッと二人は黒い笑みを浮かべていた。

ーーあっ、俺この笑顔知っている。


「それはクソ野郎だ」と光が笑顔から一変、唸るように言った。「いろいろと拗らせすぎだろ、あいつ」

「ひどい目にあったね、綾人」と衛さんは黒い笑みを崩さずに優しく言った。「今後はあの辺りには近寄らないほうが良い」

「はい」と俺は頷いた。「雪も忙しいと思うので、きっともう会わないはず・・・」



 俺が歌い手活動をし始めたころに、雪も既にある程度ファンがついていた歌い手だった。
 その後、ミュロボPとして作曲をし始め、ダイダスそしてサマサイのオリジナル曲も作るようになった。

 そして大学3年時に大きな転機が訪れた。
 
 雪のオリジナルミュロボ曲がバズったのだ。

 『ラブミー・シンドローム』という曲だ。

 新人から有名歌い手までが雪の曲の「歌ってみた」を投稿した。
 その期間、俺のおすすめも雪の曲の歌ってみたしか表示されないぐらいネット界隈が彼の音楽で盛り上がった。

 そこからは雪の活動は波に乗ったように、オリジナル曲を出せば100万再生は当たり前。
 歌提供の依頼も殺到し、彼と一緒に歌ってみたのお誘いも急増した。

 そして・・・彼の相方の koroとの活動も始まったのだ・・・。


 ーーうっ、思い出したくない。


 俺の顔色が悪くなったのか、隣の光が優しく背中をさすった。

「それで衛さん、最近の雪の動向ってどうなんですか?」と光が俺を支えながら衛さんに聞く。「正直忙しいと思うんですけど、新宿の繁華街でうろついていたのを見ると、もう創作活動をやめて広告収入と作詞作曲印税で暮らすことにしたんですか?」

「そんなことはないと思うよ」と衛さんは首を振った。「私の界隈でも雪くんがこなす仕事の量が通常の人の3倍と言われているほど、彼は常に曲も歌も出し続けているよ。この3年間の彼の活動は凄まじいね」

 ーー3年。ちょうど、俺の活動休止時期か・・・。

 俺はそれを聞いて沸々とわきあがる感情に対して押さえるように唇を押さえた。
 悲しみか?嫉妬か?なんだ?

「・・・あの、」俺は静かに声を上げ、衛さんに目を向けた。「koroさんとは最近、歌出していないんですか?」

「出してないよ。3年前?2年前ごろが最後かな」

「・・・そうなんですか」と俺は驚きで少し目を見開きながら答えるしかなかった。

 どうして?
 仲違い?
 
 だから昨日、koroさんの名前を出したらあんなに雪は怒ったのか?

「雪くんは色々な仕事をしているけど、最近はアニメのキャラクターソングもよく作っているね。特に声優の涼風スズカゼ 瞬のキャラクターソング」

 光の動きが一瞬固まる。
 すると鼻で笑うように冷たく言った。
「へぇ、そうですか」

「どうした?前回は瞬くんと仲よさそうだったのに?」と衛さんが不思議そうに問う。


 衛さんはダイダスはもちろん、サマサイのこともよく知っている。
 なんと言ったって四人で歌うときのダイサイのオリジナル曲は衛さんが手がけたものも多い。

 サマサイの「フウマ」は瞬であることも知っている。


「瞬とどうしたんだ、光?そういえば、金曜日に雪も言っていたよな?瞬が会いたいとか」と俺は思わず光に問い詰めるように質問攻めにしてしまった。

「落ち着いて、綾人。僕はよくも悪くもあいつと関係は特に変わっていない。ただ、あいつに振り回されているのに疲れたからそっけなくしているだけ」と光は説明する。

 
 そうだ、瞬も雪がミュロボPとして人気が出始めたころ、彼も人気漫画のクールキャラの役を勝ち取った。
 もともとアイドル声優として有名だった彼だが、そこからは立て続けに作品に出始めた。
 
 そして・・・その時期、大学三年からダイダスと同じく、サマサイの活動が減ったのだ。


「こっちは深刻じゃないから大丈夫だよ、綾人。あいつといつも遊ぶ予定を立てるけど、すぐに仕事が入ったとかでドタキャンが続いているんだ。もうこっちが会う気がいま無くなっているんだ。いま声掛けられても知らん!」光は強気に言った。

「まぁ、確かに。前回会ったのはいつだっけ?」と質問する衛さんに「5ヶ月前!」と光が噛みつく勢いで答える。


 光の様子も見て、いやでも痛感する。
 本当に、本当に、前みたいな4人の関係は無いんだなぁ・・・。

「綾人くん」

 俯く俺に衛さんが優しく声を掛けると頭を撫でる。
 まるでお兄さんが弟の頭を撫でるような優しい手つきだ。

「私は、君が元気でいてくれたら嬉しいよ。正直、君の歌声が好きだから。もしまた歌い手として活動するなら、そのときは喜んでオリジナル曲をプレゼントするよ。困っていることがあったらいつでも頼ってね」

「どっ、どうしてそんなに優しくしてくれるんですか?」
 
 俺は思わず声が詰まる。

 成功している衛さん、俺に関わってもメリットがないのに。
 最初にお会いした日から変わらず接してくれるこの人に、いつも安心していた。
 
 でも活動をやめた俺と関わっても意味がないのに、どうして?

「どうして?そうだね、それは・・・君は私のミューズだから」

 衛さんはそう言うと、スマートにウィンクした。
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