夏の夜に見た夢

outside,こぼれ話

26.密室と計画

　
　故意か偶然か。偶然に混ぜ込まれた故意。
　街の西の岩切場に監査が入った。しかし調べれば調べるほど、不自然。巧妙に仕立て上げられた事故。疑惑が疑惑を呼ぶ。



「ああ、いい具合だ」
「んっ……くぅ……ああっ……」
「ん？ こうかな？」

タン、タン、

「ああっ、あぅ……くぅ…はっ、はっ」
「はは、感度いいね、エスメラルダ」
「うっ…ふっ…く」
「無理しなくていいよ。演技しても、どうせバレるから。カラダは正直だよ？」

タンタンタン……

「くっ、はっ……あっ、ああ……」
「ほら、もうグズグズ、奥が吸い付いてくる。」
「…はっ、はぁ…くっ…ぅう」

タン、タン、タン……

「ああ、声、我慢しないでいいよ？ ここ防音だけはしっかりしてるしね。」
「うっ…あっ、なら、そう……なるくらい、に、してみれ、ば？」
「ん、そうしてみようか」

タンタンタンタンタンタン……

「あ、……あ、あああっ～～～！」
「ははは、イイね、エスメラルダ、ハニートラップ仕掛けてたなんて、本当だったんだ？」

……タン、タン、タン

「くっ、何が、言いたいんだ？」
「だって、こんな簡単に気をやっちゃって、男の精抜く前に情報抜けんの？」
「得意げになって気持ちよくなったところで、抜いてくのさ」
「本当？ そんなんでもつの？」
「何かい？ あんたは、……そんだけイイモノ持ってるって、……自慢、したいのかい？」
「とんでもない。感度の良さに惚れ惚れしてるところさ。」
「当たり前だ、娼婦じゃないんだ、自分の道具は磨くだけじゃなくて、鍛えてるからね」
「へえ、鍛えるって、自分で？ 誰かに鍛えてもらうの？」

タン、タン、タン……

「くうっ、企業秘密だよ」
「そうか。なら、」

ちゅぶ……

「あ……」
「……なあ？ エスメラルダ、そんなお道具まで持ち出して、今更僕に色仕掛けなんて、何企んでる？」
「…ふぅ……何だい、何かを仕掛けられるような理由でもあるのかい？」
「それこそ裏があると言っているようだぜ？ 仲間内で腹の探り合いなんて止そうや」
「仲間？ ただ、同じパーティを組んだことがある間柄ってだけだろ？」
「まあ、確かにパーティ登録はないね。でも何度となく顔突き合わせてる。虫の好かない奴ってわけでもない。」
「……いい根性してるね。あたしはあんたのその甘ったるい顔で次々と女を落としてる、その面の皮の下に隠してるもんが気に入らない」
「だからって別に敵対してるわけでもない。聞きたいことがあるなら、聞けばいいだろ？」
「……そうだねえ、あんたがどうやって街中の女を落とすのか、かな？」
「あははは、そんなことが知りたかったの？ 言ってくれれば、勿論、エスメラルダには教えてあげるよ、喜んで。たっぷりサービスつけてね。……全く、強情だなあ」

ちゅぶ……タン、タン、タン……

グチュ、グチョ、グジュ……

「ふあっ…！！……ああ」
「ん～、イイね。予想以上、ああ、もっとイケよ」

タンタンタンタンタンタン……

「あああああっ」
「まだだよ、落ちるなよ、教えて欲しいんだろ？ ちゃんと感じてろよ、覚えろよ、」

タンタンタンタンタンタン……

「んんんっ…………アアアアーーッ！！」


　目を開けると、見慣れぬ天井。人の気配を感じ横を見れば、白いガウンを羽織って、優雅にラタンチェアに座って書面を眺める金髪の男。

「カルロ」
「ん？ やあ、起きたね」
「……あんた、自分はちゃっかり服を羽織って、女にシーツの1枚もかけてやらないのか？」
「だって、勿体無いじゃないか。絶世の美女が、股おっ広げて秘所から自分の放った白濁を垂らしながらオチてんの、眺めないなんて」
「んなっ！」
「今更恥ずかしがるなよ。どうせ、避妊薬飲んでんだろ？」
「……バースコントロールができなきゃ、傭兵なんかやってらんないからね。当たり前だ。」
「そうかい」
「……あー、もう。あたしの負けだ！」
「ん？ 何か賭けてたっけ？」
「あんた、こんなの味合わせるだけ味合わせてほっぽるなんて。こんなの知っちゃったら、その女はどうなるんだ？ 一夜限りなんて酷いことするねえ」
「なんだ、エスメラルダ僕のコレ、気に入っちゃった？」
「……あんた、絶対死因は失血死。女に刺されて死ぬよ。」
「防弾チョッキには防刃性はないなあ。まあ、そんな女は殺気満々で十分対処できるよ。エルメラルダクラスの傭兵でもなきゃね。」
「その余裕綽々のところが腹立たしい。」
「まあ、取り敢えず、湯、使ってきたら？ エルメラルダのメスの香りならともかく、自分の精臭を嗅ぎ続ける趣味はない。」


「で、あんたは、あたしの見え見えの色仕掛けにのって、何を知りたかったの？」
「そりゃ、もちろん、チーム内にハニートラップの名人がいるなら、せっかくなんだから一度くらい試してみたいじゃないか。」
「ちっ……」
「おかげでスッキリ、イイね。最高だったよ？」
「わかったよ、だからあたしの負けだって。……情報を集めてるんだよ。」
「蒼月ちゃんの？ 残念だけど、あの子はがっちりリーダーがついてるから手は出せなくて僕も知らない。」
「玄さん含め、それとなく探りいれるしかないだろうさ。」




「どう思う？」
「何がさ。あんた、もっとはっきり言ったらいいだろ。この部屋、防音なんだろ？」
「蒼月ちゃんがしばらく休んで、リーダーはどこか上の空。キレがない。」
「蒼月は、アンネマリーがついてみっちり勉強を教え込んでたんだろ？」
「そう聞いてるね。でもその後さ。リーダーはなんか吹っ切れちゃったような、で今まで話してこなかった過去を打ち明けるし。そこへきて西の件。なんの因果だい」
「週末にはあの子も復帰するらしい、で、西の腐敗の一掃。そこで怪しい動きをすりゃ、一緒にひっ捕らえればいい。白黒つく。」

　偶然か故意か、どこまでが偶発的なもので、どこからが意思のあるものか。
　西の落石事故後、崖の上に潜んでいた、例の犯罪奴隷を見つけた。即枷を付けられ捕縛した。異例の速さで裁かれ158年の刑期の真っ最中。
　あの駐屯地を追い出された奴隷は約50人。国境警備兵が双眼鏡で認めたのは、その屈強な体躯を持った犯罪奴隷、それぞれ怪我人を抱え、自身もかろうじて歩いている二人と、担がれている二人。計5人だった。
　西の崖の上で見つけたのは、すでに冷たくなった二人と、もう動く体力が残されてはいないが、目だけは意思の力を感じさせたソイツだけだった。死なない程度に食が与えられ、動けるようになったそいつは、枷をはめたまま労働につくことになった。
　しかし、男を裁くと同時に、当然また国境を越えてからの事を調べられる。
　落石はこいつがやったものなのか？ 設備のほころびが見つかった。当然、即修繕した。
　さすがに裏社会でのさばってきただけはある、その男は徐々に囚人を手中に収め、掌握した。一人、脱走者が出る。威嚇発砲のつもりが、跳弾で岩崩れを起こし、脱走犯が死ぬ。そんな簡単に崩れ落ちるような状態ではないし、砕けるものでもない。事故と事件続きの西に調査団が入った。
　外部の監査が入れば出てくる出てくる、内部の汚職。そこにつけ込む囚人のしたたかな悪意。奴が掌握したのは囚人だけでなく、看守も含まれ、近々暴動が起きるところまで計画が練られていた。



「これ使う？」

　蒼月が見せたのは、このあたりの住人ですら見間違えることもある、ドクゼリ。

「ちょっとなら眠るだけ。いっぱいだとそのままあの世行き。」
「食事と水に混ぜる？」
「それだと、岩切場にいない上層部、非番の看守陣が逃げる。」
「監査人が招集すればくるんじゃね？」
「なら、決行日に休みになるやつって、事前に調べられるだろ？」
「なるほど？」

　必要悪。
　西の腐敗を一掃すると、奴らに傅かしずいていた連中が、暴れ出した。それが、リビエラ・ラパン間に根城を張った盗賊の正体だ。