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そんなもん
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朝目が覚めれば晴天で窓の外でシーツがはためいている。
「葵ちゃん、そろそろ起きて。」
「……ん~」
「せっかくの洗濯日和なんだから。」
ぐいっと起こされた。そのままの姿勢でぼーっと吏作さんの作業を眺めた。掛け布団をどかし、布団乾燥機のマットを伸ばす。腰の下にはバスタオルがあった。私のところで布団乾燥機のマットは止まった。
「せめてソファでゴロゴロして。乾燥機かけられない。」
素っ裸にワンピースの部屋着を被せられ、ぽいっとソファへ転がされた。
ひどい
「パンツが欲しい…」
「え~…なに? 何か言った?」
布団乾燥機のスイッチを入れたおかげでつぶやきは音にかき消されたようだ。
動いたおかげでどろりと流れる出る感触に慌ててバスルームに駆け込む。
「あれ、残り湯は洗濯に使っちゃったよ。」
「シャワーだけでいい。」
「そう……」
「……なに?」
「いいおっぱい」
「……」
無言で脱衣所との境の戸を閉めた。バスチェアに座り込む。座り込んだら動けなくなった。
裸になった吏作さんが入ってくる。
「何してんの?」
「それはこっちのセリフ。」
「シャワー浴びに来たに決まってるだろ。なんでお湯も出さず座ったままなの?」
「ぼうっとしてた。」
「見りゃわかる」
シャワーのお湯を出し、足元からゆっくりお湯をかけられる。洗ってくれるらしいのでおとなしくしている。
「シーツはどうやって剥いだの?」
「一旦葵ちゃんをソファに寝かせた。全然起きてくれないんだもん。」
むくむくに泡立った海綿のスポンジでゆっくり体を洗われる。シャワーで泡を流され肌を撫でられる。
中までしっかりかき出すように指を入れられ洗われる。
「そこはいいってば!」
「いいんでしょ?」
「つ、つかささん…」
くすりと笑われて、耳たぶを舐めれる。
「もっとしたくなっちゃった?」
「…しません! 本気で体力限界です!」
「そっか、限界まで付き合ってくれたんだ、嬉しいな。」
「そこは、ごめんねじゃないの?」
「なんでさ」
「……悪気はないってことね。」
「悪いことしてるわけじゃないだろ?」
ぼうっとしたまま、ゴウゴウとやかましいドライヤーの熱風を受けていた。結局「葵ちゃん可愛い」ととろりとした笑顔にほだされて、しっかり可愛がられた。さすがに昨夜から何度も気をやり続ければ起きてられない。HPも空っぽどころかマイナスへ振り切ってる。わたの抜けた人形のようにくったりソファにもたれた。ただただ休みたい。吏作さんが何事もなかったかのように、キッチンに立ち、鍋を火にかける。
湯気とともに、出汁と柚子の香りが漂ってくる。
大好きな柚子の効いたにゅうめんも香りだけで十分。食べやすいものをとせっかく作ってくれたけど、食べられなかった。口を動かし摂食、消化活動にエネルギーをあてるくらいなら回復に充てたい。食べられる? 聞かれたけど、首を横に振るのさえ億劫だった。
「食べないと回復しないよ~?」
「食べるエネルギーを回復に回したい。」
吏作さんの食事が終わり、しばらくすると鼻先にいい香りが近づいた。目を開けると吏作さんが大きめのマグカップを持って来てくれた。中身は少しだけとろみのあるかき玉汁だった。
「せめてこれだけでもお腹に入れて? 水分と塩分補給が必要だから。」
「うん…ありがとう。いただきます。」
出汁と柚子の香りのきいた美味しいスープだった。一口ずつゆっくり味わった。
「吏作さんって、こんな料理どこで習ったんですか? もしかして家事は吏作さんの方が得意?」
「いや、にゅうめんは子どもの頃、風邪引くと定番だったんだ。」
「そうなの?」
「喉が痛くてもつるんと入る。柚子で鼻がスッキリする。」
「そっか。」
「葵が子どもの頃は風邪の引き始めって言うとどんなもの飲んでたの?」
「リンデン? タイムとかエルダーフラワーとか。」
「えーっとハーブティ?」
「そうそう、菩提樹のお茶。」
ゆっくりスープを飲み干し、吏作さんがカップを洗いに行く。戻って来ると、隣に座り私の頭を抱えお腹を撫でた。
「早く欲しいな」
「だからって、初めから飛ばしすぎです」
「賑やかなのがいいな」
「そうですね…」
吏作さんが連想ゲームを始める。
「犬か猫飼う?」
「それもいいですね。」
「犬猫を飼ってると子供の情操教育に良いっていうな」
「そうですね」
「あ、性格は個体差あるから、やんちゃな子だと大変かな。」
「うん…」
「犬だとお腹が大きい時に散歩は大変だな…生まれてから飼うとなると、赤ちゃんと犬の世話両方は大変だし」
「え」
「飼い始めてから、赤ちゃん迎えると犬ってやきもち焼くっていうな。赤ちゃんの使ってたものを渡して匂い嗅がせておくといいとか言うから…」
「ちょっと、ちょっと」
連想ゲームのノリが彼のお母さんのおしゃべりを彷彿とさせた。吏作さんを止める。にこ~っととろりとした笑みを浮かべられる。
「でも、その前に葵ちゃんが子どもの頃過ごした町って見てみたいな。行くなら飼い始める前かな。」
「……もうあんまり覚えてませんよ。」
「……葵ちゃん? 新婚旅行の話だよ。どこ行きたい?」
やっぱり結婚しても流されるんだな、と思った。
一人で寂しい? むしろ、寂しく過ごす夜なんて当面願っても来ないんだろうな、幸せのため息をついた。
「葵ちゃん、そろそろ起きて。」
「……ん~」
「せっかくの洗濯日和なんだから。」
ぐいっと起こされた。そのままの姿勢でぼーっと吏作さんの作業を眺めた。掛け布団をどかし、布団乾燥機のマットを伸ばす。腰の下にはバスタオルがあった。私のところで布団乾燥機のマットは止まった。
「せめてソファでゴロゴロして。乾燥機かけられない。」
素っ裸にワンピースの部屋着を被せられ、ぽいっとソファへ転がされた。
ひどい
「パンツが欲しい…」
「え~…なに? 何か言った?」
布団乾燥機のスイッチを入れたおかげでつぶやきは音にかき消されたようだ。
動いたおかげでどろりと流れる出る感触に慌ててバスルームに駆け込む。
「あれ、残り湯は洗濯に使っちゃったよ。」
「シャワーだけでいい。」
「そう……」
「……なに?」
「いいおっぱい」
「……」
無言で脱衣所との境の戸を閉めた。バスチェアに座り込む。座り込んだら動けなくなった。
裸になった吏作さんが入ってくる。
「何してんの?」
「それはこっちのセリフ。」
「シャワー浴びに来たに決まってるだろ。なんでお湯も出さず座ったままなの?」
「ぼうっとしてた。」
「見りゃわかる」
シャワーのお湯を出し、足元からゆっくりお湯をかけられる。洗ってくれるらしいのでおとなしくしている。
「シーツはどうやって剥いだの?」
「一旦葵ちゃんをソファに寝かせた。全然起きてくれないんだもん。」
むくむくに泡立った海綿のスポンジでゆっくり体を洗われる。シャワーで泡を流され肌を撫でられる。
中までしっかりかき出すように指を入れられ洗われる。
「そこはいいってば!」
「いいんでしょ?」
「つ、つかささん…」
くすりと笑われて、耳たぶを舐めれる。
「もっとしたくなっちゃった?」
「…しません! 本気で体力限界です!」
「そっか、限界まで付き合ってくれたんだ、嬉しいな。」
「そこは、ごめんねじゃないの?」
「なんでさ」
「……悪気はないってことね。」
「悪いことしてるわけじゃないだろ?」
ぼうっとしたまま、ゴウゴウとやかましいドライヤーの熱風を受けていた。結局「葵ちゃん可愛い」ととろりとした笑顔にほだされて、しっかり可愛がられた。さすがに昨夜から何度も気をやり続ければ起きてられない。HPも空っぽどころかマイナスへ振り切ってる。わたの抜けた人形のようにくったりソファにもたれた。ただただ休みたい。吏作さんが何事もなかったかのように、キッチンに立ち、鍋を火にかける。
湯気とともに、出汁と柚子の香りが漂ってくる。
大好きな柚子の効いたにゅうめんも香りだけで十分。食べやすいものをとせっかく作ってくれたけど、食べられなかった。口を動かし摂食、消化活動にエネルギーをあてるくらいなら回復に充てたい。食べられる? 聞かれたけど、首を横に振るのさえ億劫だった。
「食べないと回復しないよ~?」
「食べるエネルギーを回復に回したい。」
吏作さんの食事が終わり、しばらくすると鼻先にいい香りが近づいた。目を開けると吏作さんが大きめのマグカップを持って来てくれた。中身は少しだけとろみのあるかき玉汁だった。
「せめてこれだけでもお腹に入れて? 水分と塩分補給が必要だから。」
「うん…ありがとう。いただきます。」
出汁と柚子の香りのきいた美味しいスープだった。一口ずつゆっくり味わった。
「吏作さんって、こんな料理どこで習ったんですか? もしかして家事は吏作さんの方が得意?」
「いや、にゅうめんは子どもの頃、風邪引くと定番だったんだ。」
「そうなの?」
「喉が痛くてもつるんと入る。柚子で鼻がスッキリする。」
「そっか。」
「葵が子どもの頃は風邪の引き始めって言うとどんなもの飲んでたの?」
「リンデン? タイムとかエルダーフラワーとか。」
「えーっとハーブティ?」
「そうそう、菩提樹のお茶。」
ゆっくりスープを飲み干し、吏作さんがカップを洗いに行く。戻って来ると、隣に座り私の頭を抱えお腹を撫でた。
「早く欲しいな」
「だからって、初めから飛ばしすぎです」
「賑やかなのがいいな」
「そうですね…」
吏作さんが連想ゲームを始める。
「犬か猫飼う?」
「それもいいですね。」
「犬猫を飼ってると子供の情操教育に良いっていうな」
「そうですね」
「あ、性格は個体差あるから、やんちゃな子だと大変かな。」
「うん…」
「犬だとお腹が大きい時に散歩は大変だな…生まれてから飼うとなると、赤ちゃんと犬の世話両方は大変だし」
「え」
「飼い始めてから、赤ちゃん迎えると犬ってやきもち焼くっていうな。赤ちゃんの使ってたものを渡して匂い嗅がせておくといいとか言うから…」
「ちょっと、ちょっと」
連想ゲームのノリが彼のお母さんのおしゃべりを彷彿とさせた。吏作さんを止める。にこ~っととろりとした笑みを浮かべられる。
「でも、その前に葵ちゃんが子どもの頃過ごした町って見てみたいな。行くなら飼い始める前かな。」
「……もうあんまり覚えてませんよ。」
「……葵ちゃん? 新婚旅行の話だよ。どこ行きたい?」
やっぱり結婚しても流されるんだな、と思った。
一人で寂しい? むしろ、寂しく過ごす夜なんて当面願っても来ないんだろうな、幸せのため息をついた。
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