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「妖精にはいい奴も悪い奴もいる。でも、その認識が間違っている時もあったりする。そう、悪い面もいい面も両方持ち合わせている妖精。願いを叶えてくれるいい面と、拐ってしまう悪い面みたいにね。それは同じ妖精なんだ」
まるで専門家であるかのように解説しだす社長だが、信憑性がありそうに聞こえてしまう。
現在、和也は佳代子の中学校で佳代子と同学年の女子が行方不明になっている情報を耳にして、社長のところまで来ていた。
とは言え、それは一般にニュースで報じられていることだ。
そのニュースに出遅れたことに社長は俺に怒ってもいた。当然だった。なにせ、それ以上の情報を持ち帰ることが出来なかったからだ。せめて、持ち帰れたとすれば、及川という子が本当に公衆電話の中で消えたことだ。それは近くの防犯カメラの映像で確認とれている。勝手に鳴り出す公衆電話の受話器を取った及川が突然、受話器の耳あたりから吸い込まれていく姿を。
「で? 電話に吸い込まれた及川がその後どうなったかも分からず、及川の戻し方も分からないと」
「まぁ、そんなところです」
「君はクビになりたいのか? まさか、こんなに使えない奴だとは思わなかったよ」
「いや、仮設ならあるんですが、確証が取れないだけです」
「言い訳か。まぁ、とりあえず聞いてやろう」
「まず、及川が公衆電話に吸い込まれてからあの電話は警察によって封鎖されています。あれから変化はありません。したがって、及川はまだ吸い込まれたままであるということ。もう一つ、あの公衆電話はあの世と繋がることから及川が吸い込まれた場所はあの世ではないかという噂がある点。それは少し可能性はあると思います。あと、この公衆電話の一件ですが、社長のお兄さんが社長に会いに来た当日に行方不明になってるんです。社長はお兄さんがこの事務所に来たことを僕に教えませんでしたけど、それぐらいは情報手に入れられるんで。どうして僕に教えてくれなかったのは聞きませんが」
「お前に私の兄が事務所に来たことを伝えなかったのはお前に関係がないと私が判断したからだ。あれは私との問題だ。だが、その考えが甘かったようだ。いや、分かっていた。もう、これから七不思議に関することは全てあいつが関与していると疑っていった方がよさそうだな」
「それで、どうするつもりですか? 多分ですが、普通の方法ではその及川を取り戻すことは出来ないかと」
「ああ、分かっている。それが奴の狙いだということもな」
「まさか、佳代子にあの妖精を食わせるつもりですか」
「気は進まないよ。あいつの望み通りになるんだからな」
「お兄さんは地縛霊に七不思議を食わせてどうするつもりなんですか」
「あいつのことだ。その後にとっておきの楽しみがあるんだろう。私達からしてみれば、それはなんであれろくでもないことだ」
「あの子にはなんて言うつもりですか」
「君の同級生が妖精に襲われた。助けるには君しかいないと言うしかないだろう」
本当にそれで来てくれるとは思っていなかったが、なんとあの子は純粋なのか、此方の話しを本当に信じて事務所来てくれた。
「よく来てくれた」
「あの、でも私もう夢遊病とか出ないんです。例の夢も見なくなってしまって。出来るかどうか分からないですよ」
「確かに、君が返事をくれるまで我々もそれなりに案を考えてみたが、これっぽっちも思いつかなかった。でも、考える必要もないかもと君が来て思ったんだ」
「どういうことですか?」
「いやね、君はなにもしなくても君の中にある地縛霊が反応さえしてくれれば、地縛霊が妖精を食らってくれるんじゃないかって思ったんだよ」
「つまり、私があの公衆電話に近づけばいいんですね」
「そういうこと」
「でも、地縛霊が反応して妖精を取り込んだとして、それで及川さんが戻ってこれるんでしょうか」
「うーん……正直に言えばやってみないとこればかしは分からないかな」
「あの、お寺の人に言った方が」
「君の同級生のお父さんだっけ? その人がこのニュースを知らない筈がないだろ? でも、解決の糸口を見つけられていないから、未だ彼女は行方不明のままなんじゃないのか」
「確かにそうかもしれないですが……」
「前回のこともある。これは強制できることじゃない。最終的には君が決めてくれ」
そう言って、答えるのを社長はじっと待った。
佳代子は考えると、暫くしてから顔を上げた。
「分かりました。協力します」
「そうか」
社長は思った。兄はどこまで見込んでいるのかと。
あいつに未来でも見れる能力があるのか? いや、それはないか。あいつが嫌いそうな能力だ。未来が見えてはあいつが嫌いなつまらない人生になっていただろう。だが、それが平和でもある。あいつの望まない結果がどれほどいいことなのか。しかし、それは同時に私の退屈にもなる。この町にも用はなくなる。否定したいが、兄と私は似ている。でも、私は兄ではない。兄のように興味本位で人を焼いたり、親を殺そうとしたり、誰かを誘拐したりはしない。兄の興味本位には私もドン引きしているぐらいだ。それでいて兄はうまいこと直接ではない為、中々捕まらなかった。あの一件をのぞいては。あれが初めて兄が敗北を知った一件になる。兄に敗北を、黒星を与えたのは小田刑事だった。
私は佳代子にそれではと言って準備を促す一方で、私は携帯電話で電話帳を開く。
小田刑事の名前を探し、電話をかけた。
コール一回で繋がった。
「もしもし、お久しぶりです」
「お前の兄貴がそっちにいるんだな」
察しよすぎ。まぁ、それ以外の用で私がこの人に電話することはないんだが。
「ええ、この町にいます」
「分かった」
私にとって七不思議より面白いこと、それはあの兄貴がまた敗北するところを間近で見れることだ。
まるで専門家であるかのように解説しだす社長だが、信憑性がありそうに聞こえてしまう。
現在、和也は佳代子の中学校で佳代子と同学年の女子が行方不明になっている情報を耳にして、社長のところまで来ていた。
とは言え、それは一般にニュースで報じられていることだ。
そのニュースに出遅れたことに社長は俺に怒ってもいた。当然だった。なにせ、それ以上の情報を持ち帰ることが出来なかったからだ。せめて、持ち帰れたとすれば、及川という子が本当に公衆電話の中で消えたことだ。それは近くの防犯カメラの映像で確認とれている。勝手に鳴り出す公衆電話の受話器を取った及川が突然、受話器の耳あたりから吸い込まれていく姿を。
「で? 電話に吸い込まれた及川がその後どうなったかも分からず、及川の戻し方も分からないと」
「まぁ、そんなところです」
「君はクビになりたいのか? まさか、こんなに使えない奴だとは思わなかったよ」
「いや、仮設ならあるんですが、確証が取れないだけです」
「言い訳か。まぁ、とりあえず聞いてやろう」
「まず、及川が公衆電話に吸い込まれてからあの電話は警察によって封鎖されています。あれから変化はありません。したがって、及川はまだ吸い込まれたままであるということ。もう一つ、あの公衆電話はあの世と繋がることから及川が吸い込まれた場所はあの世ではないかという噂がある点。それは少し可能性はあると思います。あと、この公衆電話の一件ですが、社長のお兄さんが社長に会いに来た当日に行方不明になってるんです。社長はお兄さんがこの事務所に来たことを僕に教えませんでしたけど、それぐらいは情報手に入れられるんで。どうして僕に教えてくれなかったのは聞きませんが」
「お前に私の兄が事務所に来たことを伝えなかったのはお前に関係がないと私が判断したからだ。あれは私との問題だ。だが、その考えが甘かったようだ。いや、分かっていた。もう、これから七不思議に関することは全てあいつが関与していると疑っていった方がよさそうだな」
「それで、どうするつもりですか? 多分ですが、普通の方法ではその及川を取り戻すことは出来ないかと」
「ああ、分かっている。それが奴の狙いだということもな」
「まさか、佳代子にあの妖精を食わせるつもりですか」
「気は進まないよ。あいつの望み通りになるんだからな」
「お兄さんは地縛霊に七不思議を食わせてどうするつもりなんですか」
「あいつのことだ。その後にとっておきの楽しみがあるんだろう。私達からしてみれば、それはなんであれろくでもないことだ」
「あの子にはなんて言うつもりですか」
「君の同級生が妖精に襲われた。助けるには君しかいないと言うしかないだろう」
本当にそれで来てくれるとは思っていなかったが、なんとあの子は純粋なのか、此方の話しを本当に信じて事務所来てくれた。
「よく来てくれた」
「あの、でも私もう夢遊病とか出ないんです。例の夢も見なくなってしまって。出来るかどうか分からないですよ」
「確かに、君が返事をくれるまで我々もそれなりに案を考えてみたが、これっぽっちも思いつかなかった。でも、考える必要もないかもと君が来て思ったんだ」
「どういうことですか?」
「いやね、君はなにもしなくても君の中にある地縛霊が反応さえしてくれれば、地縛霊が妖精を食らってくれるんじゃないかって思ったんだよ」
「つまり、私があの公衆電話に近づけばいいんですね」
「そういうこと」
「でも、地縛霊が反応して妖精を取り込んだとして、それで及川さんが戻ってこれるんでしょうか」
「うーん……正直に言えばやってみないとこればかしは分からないかな」
「あの、お寺の人に言った方が」
「君の同級生のお父さんだっけ? その人がこのニュースを知らない筈がないだろ? でも、解決の糸口を見つけられていないから、未だ彼女は行方不明のままなんじゃないのか」
「確かにそうかもしれないですが……」
「前回のこともある。これは強制できることじゃない。最終的には君が決めてくれ」
そう言って、答えるのを社長はじっと待った。
佳代子は考えると、暫くしてから顔を上げた。
「分かりました。協力します」
「そうか」
社長は思った。兄はどこまで見込んでいるのかと。
あいつに未来でも見れる能力があるのか? いや、それはないか。あいつが嫌いそうな能力だ。未来が見えてはあいつが嫌いなつまらない人生になっていただろう。だが、それが平和でもある。あいつの望まない結果がどれほどいいことなのか。しかし、それは同時に私の退屈にもなる。この町にも用はなくなる。否定したいが、兄と私は似ている。でも、私は兄ではない。兄のように興味本位で人を焼いたり、親を殺そうとしたり、誰かを誘拐したりはしない。兄の興味本位には私もドン引きしているぐらいだ。それでいて兄はうまいこと直接ではない為、中々捕まらなかった。あの一件をのぞいては。あれが初めて兄が敗北を知った一件になる。兄に敗北を、黒星を与えたのは小田刑事だった。
私は佳代子にそれではと言って準備を促す一方で、私は携帯電話で電話帳を開く。
小田刑事の名前を探し、電話をかけた。
コール一回で繋がった。
「もしもし、お久しぶりです」
「お前の兄貴がそっちにいるんだな」
察しよすぎ。まぁ、それ以外の用で私がこの人に電話することはないんだが。
「ええ、この町にいます」
「分かった」
私にとって七不思議より面白いこと、それはあの兄貴がまた敗北するところを間近で見れることだ。
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