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14章 名も知らぬ客
01 遺体
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「誰かが死んだみたいです。とにかく来て下さい」
ドアを開けていきなりホテルの従業員に言われたジークは首を傾げた。何故、従業員は「誰かが」と言ったのだろう。
既に時刻は夜中でこの時間帯にホテルに出入りする人はまずいないだろう。となれば、誰かは限定される。ホテルの従業員か、宿泊客か。どちらであれ、ホテルの従業員がそのどちらも分からないなんてことはない筈なのだ。
少なくとも従業員が死んでいると表現するか、お客様が亡くなっているとかだろう。
まるで、見知らぬ人物がこのホテル内で死んでいたみたいな表現に違和感があった。
その不可解が喉に小骨が引っ掛かったように気になって仕方がないのだが、今は質問を控え従業員の案内に従った。
私を呼んだのは女性で背は150程度で、金髪。名前は知らないが、制服で従業員だというのは分かる。
ジークは腕時計で時間を確認する。時刻は20時30分を過ぎている。正確には34分で、今35分になった。約35分としておこう。
階段をあがり、自分が宿泊していた一階上に行き、長い通路に従業員二人がとある部屋の前に立っていた。
「その部屋です」
ジークは二人の従業員を見た。二人とも男だ。
「ジーク様、お呼びして申し訳ありません」
「事件ですか?」
「事故なのか事件なのか……とにかく見ていただけますか?」
「分かりました」
ジークはそう返事をすると、部屋に入った。
入ってすぐ右の部屋にはバスルームがある。ツインルームにはシングルベッド二つとテーブルに椅子があり、奥は窓となっていた。窓にはカーテンが閉められてある。従業員が言う死体はベッドのそばでうつ伏せに倒れていた。顔は見えないが、体格からして男であることが分かる。
「この方は?」
「分かりません」
男の従業員が答えた。
「分からないと? 何故です? この部屋の宿泊客じゃないんですか?」
「この部屋には本来宿泊客はいません」
「はい?」
「ここは本来空室の筈でした。従業員が外からこの部屋の明かりに気づき、皆でおかしいとなり、ここにいる全員で部屋を確認しに行ったんです。すると、部屋に誰かが倒れていたんです。声を掛けたんですが、全く反応なく……まるで死んでいるようでした。どうしたらいいか分からず、それでジーク様に声をかけることにしたんです」
ジークはそっと手首を触れ、脈を確認した。
「ええ、亡くなっています。では、皆さんは誰も触れなかったんですか?」
「はい。誰も触れてません。きっと亡くなっていると思っていました。寝ているような雰囲気でもないですし、事件が起きたんだと思いました。触れない方がいいと思いましたので、皆はそのようにしました」
「部屋の中の物には?」
「いいえ、触れていません」
ジークは他の従業員に目線を向ける。全員がジークの目線に頷いた。
「分かりました。警察へは?」
「既に呼んであります。あと5分はかかると思います」
「その前に私にも確認してもらおうとしたということですね?」
「ええ。勿論、事件は警察に任せた方がいいのは分かっていますが、あなたは警察の協力者でもありますから」
「勿論、捜査には協力しますよ」
「心強い」
「では、警察が到着する前に状況の説明を具体的にお願いします」
すると、先程自分を呼びに来た女性が一歩前に出た。
「私が窓の明かりを見つけました。十分前だったと思います。正確は分かりません。だいたいです。それで、ゴミを外に出していました。業者が朝取りに来ますから。それで戻っている最中にちょうどあの窓の明かりを見たんです」
そう言って奥にある窓を指差した。
「その時カーテンは閉まっていましたか?」
「はい。僅かな隙間から部屋の明かりが見えました。それでおかしいなと思いビアードに最初に声をかけたんです」
「ゴミ捨てはいつもあなたが?」
「いえ、ビアードにお願いをされたので。特に誰とは決まっていませんでした。手のあいている人が捨てに行ってましたから」
「なるほど。では、あなたはその時間帯手があいていたんですね?」
「はい。それでビアードに部屋に誰かがいるみたいと言ったんです」
さっきの男がそれに答える。
「私がビアードです。確かに彼女から言われ、私はそんな筈はないと答えました。先程も説明した通り、その部屋は空室だったからです。それで、ここにいる全員で部屋を確認することになりました。事件かと思いましたので」
「事件?」
「従業員が清掃をして明かりを消し忘れたという可能性はないからです。部屋の清掃はお客様がチェックアウトした時でその部屋は前日も空室のままでした。ですから、誰かが忍び込んだんだろうと思いました」
「なるほど。部屋の鍵の管理は?」
「部屋の鍵は受付にお客様に渡す鍵用と従業員が使う鍵の二つで、後者は厳重に管理されています。実際、二つとも鍵は紛失しておりません。部屋の前は鍵がかかっていました。勿論、清掃後も部屋は鍵が閉まっていたでしょう。それなのに……」
「この部屋には遺体があった」
ビアードの言うとおり、五分後には警察が到着した。
ドアを開けていきなりホテルの従業員に言われたジークは首を傾げた。何故、従業員は「誰かが」と言ったのだろう。
既に時刻は夜中でこの時間帯にホテルに出入りする人はまずいないだろう。となれば、誰かは限定される。ホテルの従業員か、宿泊客か。どちらであれ、ホテルの従業員がそのどちらも分からないなんてことはない筈なのだ。
少なくとも従業員が死んでいると表現するか、お客様が亡くなっているとかだろう。
まるで、見知らぬ人物がこのホテル内で死んでいたみたいな表現に違和感があった。
その不可解が喉に小骨が引っ掛かったように気になって仕方がないのだが、今は質問を控え従業員の案内に従った。
私を呼んだのは女性で背は150程度で、金髪。名前は知らないが、制服で従業員だというのは分かる。
ジークは腕時計で時間を確認する。時刻は20時30分を過ぎている。正確には34分で、今35分になった。約35分としておこう。
階段をあがり、自分が宿泊していた一階上に行き、長い通路に従業員二人がとある部屋の前に立っていた。
「その部屋です」
ジークは二人の従業員を見た。二人とも男だ。
「ジーク様、お呼びして申し訳ありません」
「事件ですか?」
「事故なのか事件なのか……とにかく見ていただけますか?」
「分かりました」
ジークはそう返事をすると、部屋に入った。
入ってすぐ右の部屋にはバスルームがある。ツインルームにはシングルベッド二つとテーブルに椅子があり、奥は窓となっていた。窓にはカーテンが閉められてある。従業員が言う死体はベッドのそばでうつ伏せに倒れていた。顔は見えないが、体格からして男であることが分かる。
「この方は?」
「分かりません」
男の従業員が答えた。
「分からないと? 何故です? この部屋の宿泊客じゃないんですか?」
「この部屋には本来宿泊客はいません」
「はい?」
「ここは本来空室の筈でした。従業員が外からこの部屋の明かりに気づき、皆でおかしいとなり、ここにいる全員で部屋を確認しに行ったんです。すると、部屋に誰かが倒れていたんです。声を掛けたんですが、全く反応なく……まるで死んでいるようでした。どうしたらいいか分からず、それでジーク様に声をかけることにしたんです」
ジークはそっと手首を触れ、脈を確認した。
「ええ、亡くなっています。では、皆さんは誰も触れなかったんですか?」
「はい。誰も触れてません。きっと亡くなっていると思っていました。寝ているような雰囲気でもないですし、事件が起きたんだと思いました。触れない方がいいと思いましたので、皆はそのようにしました」
「部屋の中の物には?」
「いいえ、触れていません」
ジークは他の従業員に目線を向ける。全員がジークの目線に頷いた。
「分かりました。警察へは?」
「既に呼んであります。あと5分はかかると思います」
「その前に私にも確認してもらおうとしたということですね?」
「ええ。勿論、事件は警察に任せた方がいいのは分かっていますが、あなたは警察の協力者でもありますから」
「勿論、捜査には協力しますよ」
「心強い」
「では、警察が到着する前に状況の説明を具体的にお願いします」
すると、先程自分を呼びに来た女性が一歩前に出た。
「私が窓の明かりを見つけました。十分前だったと思います。正確は分かりません。だいたいです。それで、ゴミを外に出していました。業者が朝取りに来ますから。それで戻っている最中にちょうどあの窓の明かりを見たんです」
そう言って奥にある窓を指差した。
「その時カーテンは閉まっていましたか?」
「はい。僅かな隙間から部屋の明かりが見えました。それでおかしいなと思いビアードに最初に声をかけたんです」
「ゴミ捨てはいつもあなたが?」
「いえ、ビアードにお願いをされたので。特に誰とは決まっていませんでした。手のあいている人が捨てに行ってましたから」
「なるほど。では、あなたはその時間帯手があいていたんですね?」
「はい。それでビアードに部屋に誰かがいるみたいと言ったんです」
さっきの男がそれに答える。
「私がビアードです。確かに彼女から言われ、私はそんな筈はないと答えました。先程も説明した通り、その部屋は空室だったからです。それで、ここにいる全員で部屋を確認することになりました。事件かと思いましたので」
「事件?」
「従業員が清掃をして明かりを消し忘れたという可能性はないからです。部屋の清掃はお客様がチェックアウトした時でその部屋は前日も空室のままでした。ですから、誰かが忍び込んだんだろうと思いました」
「なるほど。部屋の鍵の管理は?」
「部屋の鍵は受付にお客様に渡す鍵用と従業員が使う鍵の二つで、後者は厳重に管理されています。実際、二つとも鍵は紛失しておりません。部屋の前は鍵がかかっていました。勿論、清掃後も部屋は鍵が閉まっていたでしょう。それなのに……」
「この部屋には遺体があった」
ビアードの言うとおり、五分後には警察が到着した。
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