ジョンの歴史探求の旅

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2週目 影の亡霊と『死』を宣告する殺人者

09 VS『円卓』の船長

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 ジョンは仮想世界にフルダイブした。人間がつくりし人間の為の世界。それが果たして神がつくりし世界と比較した時、それはどう見えるのだろうか。人間が望んだ通りに叶う世界、そのようにつくられた世界、それは現実逃避であり、神がつくりし世界程美しいものではない。つくられた自然はどれも表面的でありそこに感動が湧き上がらない。やはり、人が神の真似事をしても神になれないことはある種実験的に示された気がした。
 さて、本来ジョンがこの世界にログインする場合最後にこの世界でログアウトした場所からになるのだが、ジョンは帆船の甲板の上に立っていた。波に揺れる船、その上空をカラスが飛び回り、ジョンを見るなり急降下した。そして地面に落ちる手前でそれは人の姿となり着地した。それは魔女、クラーカだった。正式には本名はそうではないのだが、この世界での彼女はそう呼ばれていた。
「あなたが何故ここに?」
「それはローズという女に呼ばれたからよ。でも、私が来るのが遅かったのか犯人は自滅して終わっていたわ。残念」
「いや、まだ終わっていない」
「スルトが宇宙から攻撃をされたから?」
「そうだ」
「でも、影は現れなくなり事態はなんとか収まったわ。もう世界を滅ぼす必要がなくなったのよ。それでいいじゃない」
「クラーカ……何か知っているのか?」
「あら、もうそこに気づくわけ? まぁ、いいわ。そうね……なにから話すべきかしら。やはりスルトを攻撃した正体かしら?」
 ジョンは頷いた。
「簡単に言えば擬人の仕業よ」
「擬人?」
「つまり、仮想世界に生まれ、仮想世界に生きる仮想人間。人間のように振る舞うように『ツリー』によって生み出された存在。普通、神に生み出された擬人の存在のくせに何で神に歯向かうんだって話しだけど、彼らからしてみれば世界が滅びて自分達が消滅するのが嫌だったからってことになるかしら。そして、それがたまたま出来る力を持っていた擬人がいて、そいつらの仕業でスルト、この世界の不死鳥が攻撃され、負傷したスルトは各地に散らばったってわけ。でも、私達賢者が現れたことで再びスルトは賢者に反応し復活を果たすでしょう。問題は、スルトの受けたダメージが回復出来るものなのかということかしら。この世界にあるものを消しゴムで消すかのようにあらゆる頑丈なものでさえ消滅を可能にさせる殺人光線、あれを受けた以上はいくらスルトでも致命傷になった筈よ」
「そこは僕の能力でなんとかなる筈だ」
「そう……あなたが自ら望んだ力の使い道がその理由だったものね。えぇ、あなたが頼りなのは間違いないわ。でも、またあの光線が宇宙から放たれる以上、スルトの復活前にすべきことがあるのは決定的ね」
「宇宙か……」
「因みに、宇宙にいる円卓の席に着く大臣と呼ばれる擬人は他の擬人とは違うから気をつける必要があるわよ」
「円卓? 大臣?」
「人間の欲望を叶える為に生まれた各大臣達はそれを叶える為の力を『ツリー』から与えられているの。つまり、擬人達にとっての賢者みたいなものね」
「なるほど、能力者というわけか……」
「それよりどうするわけ?」
「巨人のパーツに関してはどこにあるかは分かっている。ニールを追いかける時に目を手に入れたんだ。それでね。ただ、問題はクラーカの言う通りスルトは致命傷を負っていて動ける状態じゃないってことだ。特にその殺人光線とやらがスルトを動かしていたビフレスト石を貫いてしまったんだ」
「つまり、新たなビフレスト石が必要というわけね」
 ジョンは頷いた。
「それならなんとかなりそうよ」
「心当たりがあるの?」
「実は宇宙にいるソレは同じビフレスト石で動いているからよ」
「つまり、目的が同じ場所にあるというわけか」
「ただ、私達には宇宙へ行く移動手段がない。例え見つけたところで、宇宙から光線攻撃されて蒸発するのが目に見えるわ」
「随分と詳しいんだね」
「あら、疑われてる? 言っとくけど私が敵対してた時は博士に記憶が操作されていたからであって今は違うから」
「そうだったね……それじゃとりあえずローズとこの世界で合流することになっているから、まずはローズに会いに行こう。それでなんだけど、この船の船長は誰になるわけ?」
「あら、あなたのよく知る人物よ」
「え?」
 その時、二人に近づく足音がした。ジョンが振り向くと、そこに懐かしの顔がいた。
「グレン!?」
「おい、何で俺の名を知ってるんだ?」
「え? 何を言って」
「無駄よ。あなたと一緒に旅をしていた彼は擬人。本物ではないわ」
(なんとなく予想はしていたけど……そうだったのか)
「彼は世界が再生された時に全てを失っている。残酷に思えるけど、それが擬人の運命よ」
「なんだかよく分からないが、とにかく行きたいところがあるなら言ってくれ。で、もう決まってるのか?」
「あぁ……ローズの場所なら『食料庫の街』だ」
「分かった。任せな。おい、メアリー。行き先が決まったぞ」
「メアリー……彼女もいるのか」
「しかし、まさかいきなり『食料庫の街』とはね」
「?」
「そこは円卓の一人、食料大臣ガルトが主に管轄している街よ」
「ガルト……」
「別名、暴食のガルト。この世界の食料の生産、供給を『ツリー』に任された大臣よ。一方でもう一つの能力はその真逆の『飢饉』よ」
「強いのか?」
「さぁ? そこまでは知らないわ。私がカラスを飛ばして知れる情報はそこまでよ」



◇◆◇◆◇



 グレンは新たな世界で自分の船を手に入れ船長としてやっていた事に、ジョンはなんだか感動した。記憶がないというのは寂しいものだが、メアリーと一緒にやっているならそれは良かった。
 帆船は目的地『食料庫の街』へ向け航海が始まり、かつての船旅を思い出す。仮想世界とは言え、その世界は広く航海も時間がかかる。その間にジョンはクラーカから円卓について詳しく聞き出した。
 それによると円卓の大臣達は七人いるということで、全員が賢者と同じくなにかしらの能力を得ているということだ。
「そもそもどうして『ツリー』は円卓や大臣なんかをつくったんだ?」
「元々は博士が生み出したものよ。博士はその円卓の一人で『歴史大臣』だった。でも、外部による干渉で起きたエラーのせいで各大臣の機能が働かなかった」
「なるほど……で、今は機能しているというわけか。でも、もし僕達がその大臣を倒していったら」
「また機能を失うか、『ツリー』に権限が渡るか、どちらかね。まぁ、世界をリセットするならそれも関係なくなるんだけど」
「しかし、AIが生み出された擬人が抵抗するなんて」
「本当に人間みたい?」
 ジョンは頷いた。
「そういう風に生み出されたからでしょ。まぁ、驚くのは無理もないわ。私もそんなことある!? って思ったくらいだもの。 ……さて、そろそろ見えてきたわよ」
 クラーカの言う通り、船の行く先前方に港が見えてきた。



◇◆◇◆◇



 その頃白い軍服姿に軍帽を深く被った『宇宙船船長』は炎の賢者と雷の賢者の目の前に現れ両者は向かい合っていた。そこは宇宙エレベーターがあった場所。あったというのは、それは『宇宙船』から殺人光線によって落とされていた。
「なんだ、やる気か?」とデントが言う。
「何故問う。元からその気であろう」
 二人の賢者を前にしても船長は平静としていた。
「まるで俺に勝てるみたいでいるようだな」
「俺達だろ」とマグニが指摘した。
「どちらとも私には勝てない」
 二人はピキッと怒りを顕にすると、能力を発動させた。地上は炎が立ち上がり、空は雷鳴が轟き始めた。天と地の両方からそれは船長へ襲いかかる。だが、船長は全く微動だにしなかった。
「!?」
 空からの雷、地上からの炎が船長に迫るその手前、突然それは不自然に曲がり出し炎はマグニに、雷はデントへと向かって勢いよく飛んできた。マグニとデントは咄嗟に自分の能力でそれをぶつけ相殺して防いだ。
「ほぉ……」
 マグニは「なんだ今のは……」と冷や汗を垂らした。
「俺達の炎と雷を操ったのか?」
「いや、違う。運命は君達の敗北を示し、私は無傷のまま勝利する……私に勝てないとはそう言うことだ」
「はぁ? 運命だ? 何言ってるんだコイツは」
「ようは、それが奴の能力ということだろう」
「なんだよそれ……ありなのか?」
「流石だな炎の賢者よ。そう言えばまだ自己紹介がまだだったな。私は宇宙船の船長をしている」
「やはり、空にあるアレはお前の仕業か」
「あぁ。だが、本来の私はあのちっぽけな宇宙船でなく、この仮想世界の宇宙船地球号の船長として生み出された擬人。この世界の運命を導くのが本来の使命。残念ながら前回の世界はハイボトム博士の役に立てなかったが今回はその役目を果たすことが出来る」
「これが運命だと? お前の言っていることがどれだけ傲慢か分かってるのか? 何でお前が人間の運命を決めてるんだ?」
 マグニは手からバチバチと電気を発生しだした。
「そんなものはお断りだぁ!!」
 マグニは高エネルギーを手から放出させた。それはまさに閃光。だが、その閃光という速度をもってしてもそれは船長の手前で曲がり、デントへと向かって落ちだした。デントはそれを炎の柱で防ぐが、それはいとも簡単に貫かれデントは直撃した。
「すまねぇ! 大丈夫か?」
 砂煙が立ち上がる中、そこから炎が吹き荒れる。
「あとで殺す! てめぇ少しは学習しろ」
「無駄な事だ。人間が私に勝てる可能性はゼロだ」
「人間もどきの偽物がよう吠える」
「むしろ、人間でないからこそだ」
「何?」
「人間は弱い。私はそれを見てきたし知っている。お前達は脆く直ぐに壊れる。だから、現実世界から逃避するのだろう? 分かるとも。現実世界での君達の情報は我々の脳にインプットされているからな。君達より沢山の情報をだ。これは人間にはできないことだろ?」
 船長は両手を広げた。
「さぁ、人間よ。全力でかかってくるがいい。そして与えよう。完全敗北を。そして、偽物に負けた屈辱を味わうといい。君達の世界にもそういう癖がいるのだろ?」
 二人は同時に「ナメるなぁ!!」と怒号をあげながら船長へ飛びかかった。
 それから暫く、雷鳴が続いた。



 ……それは以外にも長い戦いであった。それは船長にとっても予想外の展開であった。
「やはり、運命を導くにしてもここまで長引く未来までは予見出来なかった。やはり、未来を見れるのは『予言姫』だけだろう」
 その船長のそばにはボロボロの姿となった二人が膝をついた状態でいた。
「よく健闘した。いくら仮想世界とはいえ、痛みという感覚はリアルに伝わっている筈だ。それでも逃げずに戦うとは、私の知る人間とはやはり選ばれし賢者は一味違うな。だが、それも既に堪能した。もう飽きる頃だろう。どうだ、降伏し大人しく引き下がるか。それならばそれで構わない。だが、抗うなら仕方ない。お前達を捕らえるまでだ。ついでに、光の賢者が囚われる監獄と同じ場所にしてやろう」
 マグニは立ち上がり「偽物のくせに生意気なこと言ってるんじゃねぇ」と、デントの手を掴み立ち上がらせる。
「やれやれ……往生際が悪いな。だが、何故か嫌いじゃない。むしろ、私の中で何かが込み上げてくるような気分だ。それは炎のように。そうか、これが興奮か! 楽しいか! ふふふふ……いいだろう、人間。私もとことん付き合おう」



 そして、両者の決着がつくまま戦いは続いた。



「君達のおかげでまた少し人間を知れたよ」
 決着がつき、敗北した二人はそのまま監獄へと送られた。



【現在監獄には


 炎の賢者デント
 雷の賢者マグニ
 光の賢者


 の3名】


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