ジョンの歴史探求の旅

アズ

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1週目 巨樹ユグドラシルと炎の剣

11 人間の条件

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 快晴の空の下、ジョンとグレンは繁華街の門の前に立っていた。
「行くのか?」
「はい」
「死ぬんじゃねぇぞ」
「はい。行ってきます」
 ジョンはそう行って一人、繁華街の門を潜る。朝、店は全てシャッターが閉まり、左右に人々が集まりが出来ていた。そして、中央で待ち構えるのはクラーカ本人だった。
 ジョンをクラーカが確認すると、街灯にいたカラスが飛び立った。
「まさか、自分からノコノコと現れるとはな?」
「あなたは自分の闇にかかり、それによって真実が見えなくなっている」
「真実が見えなくなる……か。確かにそうかもしれない」
「?」
「ジョン、既に人は判断力というものを失っている。共通世界は破壊されイデオロギーによって支配される。その世の中で人間は判断力を失っていくものだ。君も、君の仲間も、シギンも、最初から社会という闇に飲まれていたのだ。ジョン、君は世界が過ちを選択してきたこれまでの歴史を見て、まだ人は正しい道を選択出来ると信じているのか?」
「クラーカ、あなたは自分の持つ能力によって迫害を受けたんじゃありませんか? 僕も経験があります。そして、あなたはそれを抱え込み遂には幻を見た。ありもしないものにまで追われ続け、あなたの心は壊れ、それは破壊衝動に向かった。僕はそんなあなたが企む世界をぶち壊す馬鹿げた計画を阻止しに来たんです」
「随分ナメられたもんだけど、あなた状況分かってる?」
 クラーカの周りには沢山の協力者が物騒な武器を持って集まっていた。協力者はクラーカが手をあげると、それを合図に一斉に銃を構えた。だが、その銃口は何故かジョン達ではなくクラーカに向けられた。
「なんで!?」
 自分に向けられた銃口にクラーカは戸惑った。そこにシギンは鼻で笑う。
「そいつらは既に私の言いなり。よくも裏切ってくれたわね、この魔女め」
「シギンの毒をクラーカの協力者に仕込ませ、僕達の味方になれば解毒すると約束したんです。あなたが僕達にしようとしたことを今度は利用したんです」
「ざまぁないわね」
「お前が言うか」とグレンはシギンにツッコミした。
「ともあれ、これで形勢逆転だな」
 クラーカは自分の爪を噛んだ。ジョン達の行動はずっと監視していた。だが、ジョンがホテルから出てくる様子はなかったし、仲間は何やら情報収集をしていたし、自分に歯向かってくる様子はなかった。それが此方の油断を誘う罠だった。
「シギンに興味を無くしたあなたは一人だけマークをしなかった。シギンは少なくともあなたの仲間で情報を僕らよりあるし繁華街の土地勘があるのは大きい。僕達にとってはシギンにマークがなかったのは好都合だった」
「繁華街の監視は続けていたわ」
「そこは変装したに決まっているでしょ」
「認めるわ。あなたがジョンと組むなんて流石に想定しなかった。どうせあの後殺されたとばかり思っていたから」
「えぇ、どうせそういう女だって分かっていたよ」
「あら、嫉妬?」
「違うわ!」
「それでもやはり分からないわ。あなたがジョンに協力するなんて。そこまで私が裏切ったのが許せなかったの? あなたが信じようとしたのが魔女だと言うのに」
「はいはい、私が愚かだったのは今更ながら知ったわよ」
「まるで子どもね、シギン。いえ、あなただけじゃなくジョン、君達もね。これで私に勝てるって思ってしまった時点で詰が甘いわ」
 カラスが次々と現れ、街灯や屋根の上にとまり始めた。
「やはり人間は駄目ね。戦う前から死ぬことを恐れている。死は地獄や終わりを意味するのではない。戦って死ぬことは神の住む館に行くことで、死は無駄ではない。なのに、このザマは何かしら……本当にクズしかいないのね」
 突然、狼の遠吠えが聞こえた。それも一つではない。複数…… 。
「知っていた? 魔女には使い魔がいるってことを。私の使い魔がカラスだけだと言った覚えがないわ」
「狼だって!? でも、この国に狼なんて」
「他所の国から狼をここへ運ばせたのよ。私に忠実な狼はとても賢く、腹をすかせ、あなた達人間を丸呑みするでしょう」
 突然の宣告に動揺しだした魔女の協力者だった人々は恐れ、その場から逃げ始めた。
「ほら、結局武器を持たせても人間の中身なんてそう変われはしないわ」
 その時だった。一発の銃声が響いた。
 クラーカの背後で銃口を構える一人の男性が立っていた。その銃口から放たれた弾はクラーカに命中し、そこから出血が始まっていた。
「馬鹿にしてんじゃねぇよ、魔女が」
 クラーカは倒れ、うつ伏せの状態から頭をあげ後ろを向いた。そのまま自分を撃った男を見る。
「馬鹿はあなたよ……私が死ねば狼はもう誰も止められなくなる。あなた達は本当に食い殺されるだけになる」
「ただで殺されてたまるか。お前を殺してから俺は逃げ延びてみせる。あばよ、魔女」
「待って」
 だが、男は無視をして残っていた弾を全て倒れているクラーカに向けて撃ち続けた。その度に魔女の赤い血が飛び散った。最後は撃ちきったのか、男がいくら引き金を引いてもカチカチとだけ音がなり、男は弾が無くなった銃を投げ捨てた。
「魔女のくせ血は人間と同じ色なんだな」
 男はそう言ってクラーカが死んだのを確認してから、今度はシギンの方を向いた。
「魔女はこれで死んだぞ。約束通り俺を解毒しろ」
「分かったよ……」
 シギンは嫌そうにしながらも、魔女を殺したばかりの男に近づき、その男にキスをした。自分の唾液を男に与え、男はそれを飲み込む。その直後、シギンの腹が熱くなった。見ると、男がナイフで腹を刺していた。
 メアリーは悲鳴をあげる。
「お前ら能力者はいるだけで罪だ。この世に生まれたことを後悔してから死ね」
「シギン!」
 ジョンは倒れるシギンを直前で抱えた。グレンは男がジョンを狙おうとしたところを自分の銃で撃ち殺した。
「シギン、しっかりしろ」
 ギリングは近づき、シギンの状態を見た。
「致命傷は避けているな。直ぐに病院へ運べばまだ助かる。この女は俺に任せろ。お前はグレンと一緒に狼をどうにかしろ」
「分かった」
 ギリングはシギンを抱き上げると、メアリーと一緒に繁華街の出口へと向かった。
「で、どうするんだ? 俺達も逃げなくていいのかよ」
「狼が街中で人を襲えば犠牲者が増える。それに街の人はこのことをまだ知らない」
「お人好しで死んだら承知死ねぇからな」
「あぁ!」
 その時だった。撃たれて死んだ筈の魔女クラーカが起き上がってきた。
「おい、死んだんじゃなかったのか!?」
「死んでなかったってことだね……」
「あら? あなたは魔女の不死の話しを知らないわけ? あの話しは本当よ」
「恐らくは防弾チョッキと血糊だと思いますけど」
「どうして分かるんだ?」とグレンは訊いた。
「最初の一発はそもそも致命傷だった。あの距離でそれを外す筈がない。なのに、あなたは耐えてしまった。死んだフリは最初の一発で既にミスをおかしていた」
「あら、だとしたら何故シギンに解毒をさせたわけ? あなたは結果から推測しただけでそこまで分かっていなかった筈よ」
「僕はそもそもあなたを殺すつもりはありません。あなたが起き上がるとしたら裏切った協力者が逃げた時。ギリングは分かっていたから僕達を残したんです」
「おい、俺だけか? 分かってなかったのは」
「全く……あれだけされて私を殺すつもりはないとか……単なるお人好しではないのでしょ」
「はい」
「認めるのね。そして、あなたの目的は情報」
「はい」
「それも認めるのね」
「僕がわざわざあなたに隠す必要はありませんから」
「そして、あなたは狼を私に止めて欲しいとも思っている」
「はい」
「そこまで認められると流石に馬鹿だと思うわよ」
「馬鹿で結構。それも認めています」
 魔女は笑った。
「私があなたに従うとでも? 私には従う理由なんてないわ。でも、そうね……あなたがあの場で私がまだ死んでいないと言わなかったことは感謝なくてはね。かわりにあなた達が逃げ出しても私は追わず見逃してあげるわ」
「それで他の人達は見捨てろと言うのか」
「本当に馬鹿ね。あなたが私から引き出せるのはせいぜいそれぐらいだと分かりなさい」
「一般人に罪はないだろ」
「あるわよ。あなたが言ったことじゃない。連中は私達を人とは見ていない。魔女、化け物、なんでもいいわ、呼び名なんて。結局、あなたも私も普通ではないんだからね。連中にとって私達が悪魔だろうが、魔王だろうが、なんであろうが間違っても神だと思うことはない。能力者が賢者と呼ばれるのは、能力者が自らそう呼んだことから始まる」
「!?」
「知らなかったようね。第一世代緑の賢者が始まりなのよ」
「まさか、緑の賢者を知っているんですか?」
「えぇ。私達第一世代はお互いを知っている。第二世代からはそうじゃないみたいだけどね。勿論、仲が良かったことはなかったけど。炎はアレだし、光は私を嫌っていたし、水は引きこもりだし、嵐だけは違ったけど……とにかく嵐以外の全員は基本人間を嫌っていたわ。私もなんだかどうでもよくなってね、開き直りに聞こえるかもしれないけど人間扱いされないことにも慣れちゃって。逆に私達は特別なんだって思えるようになった。水が嵐が名乗りだした賢者の呼び名を気に入るように、私は魔女と呼ばれることで人とは違う特別な存在と感じるようになった。最初は親からも化け物扱いされた自分の力を嫌ったのに、今では自分以外の人間を虫けらのように感じることができる。だから、この力が私に宿った以上、私はこの力を利用する。この闇の力で、全てを闇に沈める」
「あなたは間違っている」
「言っとくけど私は自分の闇に惑わされているんじゃないわ。この闇は私の一部なんだから当然それは私の意志よ」
「僕はそんなあなたの意志を止めたい」
「あら、それじゃ戦うしかないわね」
「本当は、あなたとは戦いたくはない。あなたがあの狼を止めさえしてくれれば」
「それは諦めなさい。私は私を撃ったもの、私を殺そうとした者を許しはしない」
「ジョン、覚悟を決めろ。どうするんだ?」
「……」
「まだ迷いがあるならやめることね。戦っても死ぬだけ。あの連中のように逃げればいい」
「いや、僕は止める。その為に戦うことになっても」
「何故? 正義感のつもり? あいつらに何故同情出来る? あいつらがお前に何かしたのか?」
「同情じゃないし、正義感でもないよ。ただ、僕は例え人と違っても人間を捨てたつもりはない。君と違ってね」
「いいわ。根性あるだけ連中よりマシよ。あいつらよりずっと男らしい。そして、あなたが本物の人間よ。それはこの私が認めてあげる。だから覚悟しなさい。その選択をした以上、私の大嫌いな人間で、私の完全な敵になるってことを」
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