つぎはぎだらけの異世界

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02 無知であること

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 もし、地球にいるホモ・サピエンスが地球で生まれたヒトではなかったらどうなるのか? 実はホモ・サピエンスは宇宙人であり、地球に元からいた他のホモ属を駆逐し、生き残ったホモ・サピエンスが今の地球を支配している俺達と繋がるとしたら。そんな仮説は学者から、いや、色んな人物からバカにされるだろう。だが、何故ホモ・サピエンスなんだろうと思うのだ。結果だけを見て色々説明出来ても、結局のところ、で、何でホモ・サピエンスなの? という疑問にぶち当たる。そこに理由はなく、ただそうなっただけと考えを終わらせることは出来ても、それでは理由律の否定に繋がる。どんな出来事にも理由が必ずあるわけではないのなら、何故俺達はこうも理由を求めているのだろうか?
 どうしてそう思ったのかというと、異世界と、それを行き来している人がいることを知り、更にその世界でも人は成長、進化を遂げていることを考えると、ホモ・サピエンスの起源に実は謎ではないのかと思ってしまったからだ。つまり、地球外の可能性、自分達が宇宙人である可能性だ。もし、この世界が起源で、一部のホモ・サピエンスが地球に俺達と同じ理由、原因で飛ばされたとして、その地球で進化を遂げ、両者の世界で別々に成長する過程でユエの言うとおり見た目では判断しずらい違いがあったとしたらどうだ? とは言え、それは確かめようのない事で想像に過ぎない。
 結局、俺は何も分かっていなかった。



◇◆◇◆◇



 ユエが行方不明になったと分かった俺達は観察管にユエの捜索をお願いした。観察管側もまだ監視対象であるユエがいなくなったことを問題視しており、此方が依頼をするまでもなく捜索は行われた。だが、それから時は過ぎていくばかりで、手掛かりはゼロだった。
 そもそも、観察管側はユエは本当にその街へ向かったのか、それ事態を疑っていた。仲間を騙し監視の目から逃亡した反逆行為だったのではないのかと。実際、その線で最後に会っていた俺に何度も呼び出しては取り調べが行われた。
 俺にはどうしてユエがそんな事をするのか分からなかった。別にユエを信じていないわけではない。だが、事実としていなくなった理由が分からない。誘拐か事故か……その可能性だってないわではない。ただ、観察管の話しではその街の出入りは軍によって規制されている。軍人からもユエの目撃情報がないことから、ユエが街へ行ってないのはそれだけで証拠になる。となればやはりユエは俺に嘘をついたんじゃないかと。
 でも、やはり俺にはどうしてもユエが行方をくらます動機が分からないし、あの時はそんな雰囲気じゃなかった。
 とはいえ、ユエの立場はまずい状況だ。今では逃亡者扱いだ。俺も捜索に加わりたいところだが、ユエが見つかるまで街から出ることを禁じられてしまった以上、今の俺に出来ることは何事もないことを祈るしかない。
 また、自分は無力だ…… 。何一つ出来ない。
 だが、それはコミニティに参加する皆も同じだった。だからとりあえずユエのこれまでの行動、言動を振り返ってみようと俺達は考えた。
 そこでまず俺は皆に最後にユエと会話した内容を話した。それは人だけが突然移動する対象なのか? という点と、あと、地球人とこの世界の人達の違いについてだ。
 すると、オリバーが後者にまず反応した。
「実はユエから地球人とこの世界の人々が見た目では判断出来ない違いがあると聞かされた時、そしたらここの医療はどうなんだろうとふと思って調べてみたんだ。例えば、人に合わせて調合された薬は俺達には合わないかもしれないだろ? でも、驚いたことにこの世界の人々は病気にならないんだ」
「え!? そんなことあるの?」
「いや、普通はないだろう。でも、俺達よりも物凄い抵抗力を持っていたとしたら納得出来る。この世界の医療は病気より怪我人の方が割合として多いんだ。でもさ、よく考えたらこの世界の人達は地球人に比べて塩も砂糖も大量には摂取しないだろ? 生活習慣病にまずかからないだろうなって思ったんだよ。実際、俺達より健康的だし、年寄りですら筋肉質で風邪なんてひかなそうだしな。
 あと、もう一つユエが言っていた人以外の移動は興味深いね。だが、どれもユエの失踪とどう関係するかは分からないな」
 次はジュエンが発言した。
「私はユエとはタイミングが合わなくて中々彼女とは会えなかったわ。私は毎日はコミニティに参加していなかったし。それと、オリバーと同意見でその二つの話しとユエの行方不明に繋がるかは分からないわ。でも、ユエが本当にその街に向かっていたんだとしたら、ユエは一人で行動していた筈よ。他のコミニティも彼女と一緒に行動した人はいなかったみたいだし。だとしたら、誘拐はあり得るかも……」
「その可能性は俺も考えてたよ」とオリバーはジュエンに賛同する。そこはコミニティに参加した皆も同じ反応だった。
 すると、ノーマンが「ちょっといいかな」と言い出した。
「こうも考えられないかな? ユエは元の世界、地球へと戻った」
 暫く沈黙が流れた。
「突然俺達はこの世界に来た。だから、突然戻ってもおかしくはない。もし、そうだったとしたらだけど」とオリバーは言った。
 そして、結局いくらその後話しを続けても彼女の手掛かりとなる情報は出なかった。
「やはり俺達が街を出れない以上ユエの捜索は無理だ」とオリバーが最後に言う。それは実際その通りだった。



◇◆◇◆◇



 忽然と現れ、忽然と消える。捜索隊があれだけ探しても見つからず、目撃者もゼロとなれば、噂されるのが神隠し。ユエの行方不明はまさに俺達がこの世界に来たのと同じ不可解な出来事。そんなオカルト現象が果たして起こるものなのか? だが、その現象を実際体験してしまった身として否定出来ない。オカルトだからこそこの世界でも神隠しと呼ばれたりするのだろう。だが、世界を行き来していれば、地球側には何故それが伝わっていないのだろう? もしかしたら、地球人の発明は此方の発明の技術が元だったかもしれない。
 どちらが先で、何がなんだか分からないというのが正直なところだ。
 この現象を科学的に説明出来る程の頭脳は残念ながら自分にはない。だから、科学的視点ではなく、別の角度でもっと状況を見ていく必要がある。
 もっと刮目すべきものは何だ?
 この世界。だが、それだと範囲が広すぎる。では、この世界の住人か? その点でいえば俺達と非常によく似ているし、見た目による区別は難しいだろう。だが、見た目にはあらわれてこない違いがある可能性は否定出来ない。いや、むしろあると思った方がいい。
 では、この社会はどうだろうか? 戦争はなく平和でやっていて人と物の交流が激しい。それは国が陸続きで繋がっているからだろう。そして、この世界の文明の発展を見れば進んでいるとまず見ていいと思う。だが、どれだけかはまだ不明だ。
 そういえばこの世界の人口はどうなっているんだろう? 病気になりにくい程に体内に抗体があるとして、平均寿命が長いとしたら、当然人口は増えていきそうだ。それとも日本や先進国に見られるように少子化へと向かっているんだろうか? 人口が増加しているんだとしたら食料の問題は起きそうだが、食料の需要による供給はうまくいっているように思う。となればそれは技術的なものが食料を安定させているのか?
 あと、注目すべき点は……俺達? 異世界人と呼ばれる俺達の存在。でも、俺達よりもっと前から異世界人はこの世界にいる筈だ。おそらく方法は俺達と同じで原因は不明。まさか原因を神隠しと表現するには抽象的過ぎて………神隠し……神……あれ!?おかしいぞ! だってこの世界には宗教はないんだろ? それじゃ何で神なんだ? いや、待てよ……神隠しの単語を使っていた人物は絞られる……住人は正確には神隠しとは言ってなかったな。最初に聞いたのは収容所だ。取り調べの時に連中の一人が言っていたから、この世界の住人でも神隠しを噂してるもんだと思った。だが、正確には未解決の行方不明事件であって……そうか! 看守? はこの世界の住人であると装っていたけど、気づかないうちに地球での生活がまだ抜けきれてなくて、あんなボロを出してしまったんだ。そう考えれば辻褄が合う。あの看守? はこの世界の住人じゃない! 俺達と同じ異世界人だ!
 だが、そうなると疑問が残る。何故看守なのか? 俺達のような異世界人の情報を得る為の潜入か? それとも別の理由が? ともあれあいつは看守なんかじゃない。
 そして、これは直感的なものだけれど、もし、俺達のこれからの行く末に障害となって立ちはだかるとしたら、それは同じ地球人かもしれない。



◇◆◇◆◇



 三日後、久しぶりの腹痛に襲われた。最初はここの食事を食べるようになってからだ。変なものを食べさせられ、胃が受け付けなかったんだろうと思った。実際、食べる食事が違うのだから当然だと思った。だが、暫くして腹痛も頻度が減っていった。自分の胃がこの世界の食べ物に適応してきたのかと思った。人間の適応力に自分自身驚かされながらも、忘れた頃に腹痛がやってくる。だが、それも短時間で過ぎる。今回の腹痛もそうだった。まるで、僅かに毒があって、だからあんなに不味く、それを摂取し続けることでこの世界の住人達は抵抗力を高め、俺も慣れだした……とは流石にないだろう。ストレスかな?
 まだ、時々地球の頃の夢を見るのだ。忘れたくても忘れられない。そもそも、忘れたいわけでもなかった。ただ、地球のことを考えるのを出来るだけ避けたい自分がいた。恋しく感じるからだ。ここではコミニティに参加しているとはいえ、孤独を感じる。実際、周囲に日本人は俺だけだ。
 だが、それは単なる俺の弱音だ。俺は問題解決の方法を知らないだけで、考えたり探ることは出来る。そして、少なくとも俺は他の人と会話ができるし、実際この世界のこの国の支援にも救われている。
 SF物語でよくある話、突然未来か宇宙の彼方から自分達より優れた技術が出現した時、人はそれに恐怖しつつも、それを自分達にも取り入れられないかと考えるだろう。それが素晴らしいものであればある程に。その技術を解明しようとする筈だ。地球で起こる問題を解決する一つの道具として利用する為に。それは言ってしまえば他力本願なのだ。本来、地球人の問題は地球人で解決すべきことなのだ。だが、それが出来ないと途端に人は神にすがるのだ。絶体絶命の時、都合よく神が出現するわけではないことを理解していても。
 だが、一方で自分達で解決出来ない問題を誰かが解明することで、人間社会はあらゆる問題を解決してきた。全ての問題が自己で解決出来るわけではない。例えば国レベルで考えれば、戦争が始まりそれが泥沼化した時、間に入り仲介する役が必要となるだろうし、個人のレベルでいえば、自分一人で生きる為の全てをやっているわけではない。人は生きる為に誰かの力を借りて生きている。今も昔も。そして、未来もまた変わることはないだろう。
 今起きている問題に果たして何の意味があるのか、それを考え、むしろ利用出来るものなら利用する。それが人間の強みだろう。



「腹痛はおさまったの?」とマルテンターサラン観察管は俺に訊いた。
「はい」と返事すると、いつものように現金を渡してきた。俺は手を出してその包を掴むと「マルテンターサラン観察管」と彼女を呼んだ。
「あなたにお願いがあります。街の外へ出る許可をいただきたいです」
 観察管はため息をついた。
「その話しは前回申したと思いますが、行方不明のユエが見つかるまでは許可は出ないことになっています」
「許可を出しているのは観察管の判断だと聞きました」
「そうです。そして、その私が判断した結果です。ユエの担当していた観察管は責任を追求され、今は収容所行きです。多分、長い刑期になると思います。このまま見つからなければですけど。それだけ私達には責任を背負っているんです。次あなたが消えれば私が責任を負うんです。あなた達には身分保証人がいません。だから、私達観察管の判断であなたを収容施設へ戻すこともできるんです。分かりましたか?」
「では、マルテンターサラン観察管も同行して下さい」
「馬鹿を言わないで。どうして付き合わなきゃならないの。まさか、馬鹿げたことを考えているのなら、施設に戻しますよ! 私にはその権限があるんですからね」
「マルテンターサラン観察管は同僚が長い刑期になっても何とも思わないんですか? あなた自分で言いましたよね? 見つからなければって……なら、一緒に探しませんか?」
「悪いけど、リスクは負いたくないの。捜索隊があれだけ探して見つからなかった以上、私達が行ったところで何も変わらないわ。それともあなたが行ったら見つかる根拠でもあるわけ?」
「ユエは、例の焼け落ちた街を気にしていました。俺はそこにヒントがある気がするんです」
「その話しなら前回聞いたわ。当然、捜索隊はその街へも探したわ」
「本当ですか?」
「どういう意味?」
「その街は現在軍以外立入禁止されてますよね」
 観察管はそれを鼻で笑った。
「その捜索隊は軍人よ」
「軍人がグルで何かを隠しているならユエが見つからないのは説明がつきますよ。よく考えて下さい。ユエが突然この世界から消えていなくならない以外に軍人相手でも痕跡を消せる程に姿を消すのがそう簡単でないことは素人の俺でも想像くらいはつきます。問題は、ユエがあの街に向かった。そして、何かまずいものをユエは見つけてしまい、それを軍は隠しているとしたらユエが見つからないのは説明がつきます。ユエが無茶なことをしたのならですが」
「あなたの知るユエはそういうことをするの?」
 俺に塩を高値で売ったり、その塩を入手するルートを持っていたり、この街以外のコミニティにも参加したり……それを説明はしないが、俺は短く「否定は出来ません」とだけ答えた。
「全く……だとしても、軍相手なら尚更私達だけでは何も出来ないわよ」
「マルテンターサラン観察管は気にならないんですか?」
「興味本位で軍を敵対するわけないでしょ。それにあなたも無事では済まされない。おとなしく諦めることね。私も同僚は諦めることにするわ。あなたの考えた物語が本当だったとしたらね」
 そう言ってマルテンターサランは踵を返し、途中で立ち止まり振り返る。
「お願いだから余計なことはしないでよね。でなきゃ、本当に戻すから。脅しじゃないわよ。それと、あなたがユエと最後に会話した炎が空に出現した仮説だけど、それは間違いだと思うわ。人だけでなく炎や自然まで世界を跨げるなら、この世界に地球の動物がいてもおかしくはないでしょ? あなたの目にその動物はいたかしら? 虫でもいいわ。多分だけど、その答えは否。だとしたら、あなた達の仮説は否定される。人間が限定で世界を跨いで行き来できる理由は不明でも、あなた達の仮説を裏付ける根拠はない。となれば別の現象として考えるべきよ。実際、その可能性は否定されていない」
「では何だと思いますか?」
「分からないわ。専門じゃないもの。でもね、そもそもこの世界がどのように構成されているのか私達は分かっていない。宇宙の誕生すら不明だし、この世界にはまだ私達の知らない未知の物質は存在するでしょう。宇宙はまさに私達の知らない情報に満ち溢れている。それを宇宙に比べればずっと小さない人間の脳みその中に、宇宙の情報がおさまるものだとは私は思わない。むしろ、人間が理解しているのは本当に人間の脳みそ程度のサイズしか把握してないんじゃないかしら? 宇宙という巨大な脳みそとして比較したら…… 。宇宙での出来事、現象は宇宙に訊いてみるしかないわ。まぁ、無理でしょうけど」
「まるで宇宙が創造主みたいな例えですね」
「それはあなた達がいう神にあたるのかしら?」
「多分」
 俺は信仰心とやらはないんで。
「まぁ、とにかくおとなしくしていなさい。いいわね?」
 俺は頷いた。流石に誰かを巻き込むのは望んでないことだ。観察管にも人生があり、家庭がある。どんな家庭か、未だ想像はつかないが。



 これで、ユエの捜索はほぼ不可能となった。本当にこのままなのか? そう思いかけた数週間後、観察管から衝撃の連絡を受けることになる。
 それは、ユエが見つかったという連絡だった。
 まさに諦めかけた時に奇跡はやってきた。
「それで、ユエは今どうしてますか?」
「当然だけど、収容施設へ戻されたわ。そこで色々と取り調べを受けている。言っとくけど、面会は無理よ」
「ユエは何て言ってましたか?」
「……」
「それぐらいは構いませんよね?」
「まぁ、いいわ。話しによれば、ユエは見つかった時混乱している状態だったそうよ」
「混乱?」
「えぇ。あり得ないとかなんとかって……話せるのはそれぐらいね」
「ありがとうございます。それで……面会はいつから可能になりそうか分かりますか?」
「難しいんじゃないかしら。ユエが何を企んで行方をくらましていたのか分からない以上、誰かと接触させるとは思えないわ」
「そうですか……」
「確認はしてみるわ。でも、期待しないで」
「はい。お願いします」



 大抵は期待通りにいかないものだ。それは頭では理解しているつもりだった。そう都合よくは回ってはくれない。
 観察管のその後の返事はやはり面会は許可出来ないという内容だった。ただ、かわりに観察管が彼女と面会したそうだ。その時、最後に彼女に日本人の彼に伝えたいことはあるかと質問したところ、こう答えたそうだ。
「私はあいつの国の、日本に突然いた。スカイツリーがあったから間違いない。だけど、それじゃおかしい……」



「おかしい? ユエはそう言ったのですか?」
「えぇ。私には意味が分からなかったけど彼女はそのスカイツリーはまだ建設途中で完成していなかったそうよ」
「完成していなかった!?」
「それがどうかしたの?」
「俺のいた日本ではとっくにスカイツリーは完成していました。だから建設途中というのはおかしいんです。でも、だからといって彼女がそんな嘘をつくとも考えられない……」
「もしかして時間がバラバラとか?」
「まさか!? ……いや、それはないと思います。コミニティで地球での話しになった時に時間差があるようには感じませんでした。念の為、後でコミニティの皆には確認をとりますが」
「では、彼女は過去へ飛んだってこと? それじゃ単なる世界を跨ぐ移動じゃなく……」
「タイムトラベル……時間移動だ。でも、そうなるとこの世界についての説明がつかない。タイムトラベルではないと思うんだけど……そうか……枝分かれした分世界があるように、俺達はその分岐した幾つもの世界を行き来している……だから、そこには人間がいた。ユエが見たのは何かあって建設の遅れたもう一つ世界とか?」
「でも、この世界と地球の世界はだいぶ違ってるわよね? 私もタイムトラベルではないことには賛同だけど、あなたの仮説だとかなり遠い分岐の世界での行き来って……まぁ、それはそれでちょっと無理があるかな」
「確かに……」
「でも、面白い仮説だとは思うわ。私も少しは考えてみるわ」
 そう言って観察管は玄関の外へと出ていった。閉まるドアが部屋に響き渡る。
 一人になった俺は頭を使って考え始めた。
 勿論、ユエの見たものについてだ。
 枝分かれからのパラレルワールドは多世界解釈として登場する説だ。それは科学に疎い人でも聞いたことがある程に話題になるテーマだ。
 だが、そもそも時間については普段の日常では当たり前に感じているそれは、学者の中では認識がわかれている。未来や過去はあるのか? そもそも時間とは何か? 時間はあるのか? 実際のところこの時間について俺達はよく分かってはいない。
 もし、時間が存在し、過去と未来が存在するなら、ユエの見た世界とは時間の方向性がバラバラで、故にユエは混乱したのではないのか。
 基本、パラレルワールドを考えた時、枝分かれによる分岐で時間の流れ、方向性は同じものだと考える。だから、AとBの二つの世界で例えると、林檎を口にした現在と、林檎を口にしなかった現在と分岐し、その後の未来が流れるが、その時間の流れ事態はその両者に違いが発生するわけではない。片方の世界がいきなり時の流れが早くなったり遅くなったりしないということだ。
 だが、ユエが実際に見たその世界の時間の方向性は同じではなかった……ユエが見たのは過去であり、現在でも未来でもなかった。
 もしくは、俺達は現在という瞬間を経験し、それは連続しているから時間を感じることができ、しかし、多世界はその瞬間がバラバラにあって、ユエが見たのはそのバラバラの世界の一つであるという仮説も考えられる。
 俺はそこまで考えたところでため息をついた。
 ため息ぐらいつきたくなる。これが神による悪戯、遊びだと考えたら俺達は被害者ってことで、とっとと諦めもつくんだろうが。しかし、もし、因果があるのならそれを突き止め、場合によっては俺達は元の世界へ、そして世界を人が間違って飛ばされる現象も防げるかもしれない。だが、俺はそんなヒーローもんじゃない。救世主に俺は成りえない。それは俺が一番よく知っていることだ。
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