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鈴の音
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居酒屋で一人男はカウンター席でこんにゃくが串に刺さった赤味噌が乗ったおでんをつまみにしながらビールを飲んでいた。それ以外にも幾つかおかずを口にしたが、少食である男はそれで充分に足りた。店は閑散としており、中々客は現れない。店主が言うには、最近は会社での飲み会も減ったりして、全然客が来ないと嘆いていた。それでも、もう少し後になればお客さんは入ってくると言い切っていたが、男はその前に勘定を済ませて店を出た。外は雨が降るのか降らないのか分からない天気をしていた。傘を持ってこなかった男は雨が降る前に家に戻ることにしたが、その前に雨がポツポツと降り始めた。仕方なく男は近くのタクシー乗り場へ走ると、丁度タクシーがタイミング良く来たのでそのタクシーに乗り込んだ。
「どちらまで?」
運転手は中年男性で黒縁の眼鏡を掛けていた。男は自宅の住所を答え、タクシーは方向指示器を出しながら交差点角を曲がって家の方角へ走り出した。
運転手とは会話もなく車内は静かな時間が続いた。ドラマのようなラジオが流れているとかもなかった。男は料金メーターをちょくちょく見ながら外に目線をやった。
徐々に交通量が減っていき、街並みは民家に変わっていく。ふと、タクシー運転手が方向指示器を出してきた。
「運転手さん、そこ真っ直ぐですよ?」
「いえ、曲がった方が近道なんですよ」
タクシーの運転手ともなればそういったことも詳しいんだろうが、一方で料金目当てでわざと遠回りされないかと疑心も少しはあった。だが、タクシー運転手と揉めるのも面倒なので信じることにした。その分かれ道こそが、これから起こる不運だとは知らずに。
◇◆◇◆◇
交差点を曲がって暫く直進していくとトンネルが現れてきた。古そうなトンネルで照明が幾つか切れていた。そのトンネル手前近くには公衆電話がある。タクシーは一本道をそのまま進みトンネルへと入っていった。この道は男も知らない道だった。
夜のトンネルと聞くと何故こうも不気味に感じるもんなのか。トンネルはそれなりに長かったが、トンネルを出るとまた民家が現れ出してきた。ボタン式信号機の交差点を通過し、更にタクシーは進んだ。
運転手は車のワイパーを一段階上げた。
それから暫く男が知らない道をタクシーが進み、また、交差点が見えてくると、少し広い道路と繋がっており、その道を見て男はようやく運転手の言う近道を知った。普段男は広い道を走っていたので、次からはこの道を使おうかなと思っているうちに、タクシーは男の自宅前に辿り着いた。
運転手は男の家を見て「新築ですか」と言った。
「えぇ、まぁ」
「羨ましいですね」
男は苦笑した。運転手との初めての会話はそれで終わり、会計を済ませた男はタクシーを降りた。今、妻と息子はママ友と旅行中で不在だった。出迎えもなく寂しく帰宅した男は暇な時間をスマホで費やした。いや、本当なら帰ってからやることがあったのだが、気が乗らずスマホに時間をとられ、時間に気づきハッとして慌てて家事をし始めた。
終わった頃には夜遅くになっていて、男はスマホを充電させると一人ベッドに入った。
その日の夜中のこと。男はパッと突然目が覚めた。時計を見ると四時だった。こんな時間に目が覚めることなんて暫くずっとない。というより朝が苦手な自分が尿意とかでもなく目が覚めるなんて。それから二度寝しようとするも、中々寝つけなかった。
眠れない夜が暫く続くと突如どこからか、
チリン……チリン……
と音がした。鈴の音? そう思って体を起こそうとした時、男は金縛りにあった。身動きがとれない時間が数分続き、その間にも
チリン……チリン……
あの音がした。
部屋に何かいると感じたのはその時で、その影は徐々に男の眠るベッドに近づいてくる。男は目を瞑りじっとしていると、その気配は消え、あの鈴の音も聞こえなくなっていた。
◇◆◇◆◇
気づけば男は二度寝をしていた。あれは何だったのだろうか。夢……だといいが。男はスマホを充電から外すとホーム画面に着信が一件あることに気づいた。スマホを確認すると、あの四時の時間帯から数分間通話していたことになっていた。しかも、その表示には『公衆電話』とあった。
「どちらまで?」
運転手は中年男性で黒縁の眼鏡を掛けていた。男は自宅の住所を答え、タクシーは方向指示器を出しながら交差点角を曲がって家の方角へ走り出した。
運転手とは会話もなく車内は静かな時間が続いた。ドラマのようなラジオが流れているとかもなかった。男は料金メーターをちょくちょく見ながら外に目線をやった。
徐々に交通量が減っていき、街並みは民家に変わっていく。ふと、タクシー運転手が方向指示器を出してきた。
「運転手さん、そこ真っ直ぐですよ?」
「いえ、曲がった方が近道なんですよ」
タクシーの運転手ともなればそういったことも詳しいんだろうが、一方で料金目当てでわざと遠回りされないかと疑心も少しはあった。だが、タクシー運転手と揉めるのも面倒なので信じることにした。その分かれ道こそが、これから起こる不運だとは知らずに。
◇◆◇◆◇
交差点を曲がって暫く直進していくとトンネルが現れてきた。古そうなトンネルで照明が幾つか切れていた。そのトンネル手前近くには公衆電話がある。タクシーは一本道をそのまま進みトンネルへと入っていった。この道は男も知らない道だった。
夜のトンネルと聞くと何故こうも不気味に感じるもんなのか。トンネルはそれなりに長かったが、トンネルを出るとまた民家が現れ出してきた。ボタン式信号機の交差点を通過し、更にタクシーは進んだ。
運転手は車のワイパーを一段階上げた。
それから暫く男が知らない道をタクシーが進み、また、交差点が見えてくると、少し広い道路と繋がっており、その道を見て男はようやく運転手の言う近道を知った。普段男は広い道を走っていたので、次からはこの道を使おうかなと思っているうちに、タクシーは男の自宅前に辿り着いた。
運転手は男の家を見て「新築ですか」と言った。
「えぇ、まぁ」
「羨ましいですね」
男は苦笑した。運転手との初めての会話はそれで終わり、会計を済ませた男はタクシーを降りた。今、妻と息子はママ友と旅行中で不在だった。出迎えもなく寂しく帰宅した男は暇な時間をスマホで費やした。いや、本当なら帰ってからやることがあったのだが、気が乗らずスマホに時間をとられ、時間に気づきハッとして慌てて家事をし始めた。
終わった頃には夜遅くになっていて、男はスマホを充電させると一人ベッドに入った。
その日の夜中のこと。男はパッと突然目が覚めた。時計を見ると四時だった。こんな時間に目が覚めることなんて暫くずっとない。というより朝が苦手な自分が尿意とかでもなく目が覚めるなんて。それから二度寝しようとするも、中々寝つけなかった。
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チリン……チリン……
と音がした。鈴の音? そう思って体を起こそうとした時、男は金縛りにあった。身動きがとれない時間が数分続き、その間にも
チリン……チリン……
あの音がした。
部屋に何かいると感じたのはその時で、その影は徐々に男の眠るベッドに近づいてくる。男は目を瞑りじっとしていると、その気配は消え、あの鈴の音も聞こえなくなっていた。
◇◆◇◆◇
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