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アズ

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旅館

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 心霊現象があろうがなかろうが人類において何ら問題ではない。震撼させる程の犠牲者が出ているわけでもない以上、その被害の認識は小さいものだ。それは毎年の日本で起こる事故の死亡者数よりずっと少ない。であるならばそれは社会問題とすべきでないし、不安を煽っても何も良いことには繋がらない。むしろ、オカルトはエンタメ認識が丁度よい。本気にする程、騙されやすい。であるならば気にする事ではない。例え目撃しようが、聞こえようが、それに反応すべきでない。無いものとして捉え自分を騙すのだ。そうすれば、それが真実となる。
 だと言うのに、それが出来ない人は時々電話の相談をかけ、男を頼って訪ねに現れる。
 男がいる塩谷探偵事務所から向井という刑事が出ていったが、彼も同じだった。
 一人の刑事が帰ったのを見て男は煙草を取り出し、それを口にくわえ火をつけると、吸って、煙を吐き出した。煙草臭が壁や天井に染みつくことを気にして女は窓を開けだした。男はそれを一切気にしない。換気扇の下で煙草を吸えとか、外で吸えとか、喫煙者を世間がばい菌みたいな扱いをするのが男にとって気に食わないことであった。それを知っている事務員の女はあえて注意をしない。それよりもと、女は男に尋ねる。
「もうあの刑事は手遅れな感じですか?」
 御守だけ渡して帰したのを事務員は気にしていた。
「あの手の類はどうすることも出来ない。出来ることと言ったら連鎖を止める程度だな」
「それはどんな」
「地縛霊だよ。かつて、地震が発生した時に津波はあの旅館まで届いた。恐らくはその犠牲者になるだろう。旅館は関係ないが、あの辺りで悪戯なことをしたが為に呪われたのが始まりだろう」
「触らぬ神に祟りなしということですか」
「そうだ。見ても聞いても駄目だ。だが、見えてしまう者はどうしようもない。そしたら、見なかったことにするしかない。反応したら、それは触れたも同じだ」
「良かったです、霊感が無くて」
「大抵ある人なんていないよ。もし、霊感があると言ったらまずそいつの事は信用しないな」
「先生は無いんですか?」
「そういう意味じゃない。触れたヤツからとばっちりを受けない防御として知らぬ存ぜぬを突き通すんだ。いないものとして捉えるとはそういうことだ。だから、お前も誰かにそう言われたら決して信じるな。でなきゃ、そいつから貰うことになるぞ」
「先生はいいんですか?」
「俺? 俺も信じていないさ。あの辺りにいた複数の地縛霊が一人の霊感の強かった女に一つになって更に化け物になったなんて、誰が信じる? そんなイレギュラーがあってたまるか」
「そういうもんなんですね」
「そうさ。海の事故っていうのはたちが悪くて人魚とかの怪談を生み出してしまう程に厄介だが、なに、普通は起きるもんじゃない。気にするな」
「分かりました」
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