エレベーター

アズ

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旅館

06

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 身動きがとれないまま三人が固まっていると、更に不運がやってきた。空からポツポツと降り始め、それは一気に強まった。中田は「どうする?」と小声で二人に頼って訊いたが吉川は「分からないよ」と弱音を吐いた。それは俺も同じだった。
 暗闇でよく見えない森からはあの女が森を移動しているのか、カサカサとあちこちで音が鳴った。その度に俺達三人はビクッとする。
 その時だった。中田を呼ぶ声が遠くから聞こえ始めた。それは中田の母だった。
「お母さん!?」
「中田? 中田?」
「おかあっ!?」
 俺は叫ぶ中田の口を急いで塞いだ。
「馬鹿、あの女に気づくだろ」
「でも、なんで中田のお母さんがいるんだよ」と吉川は言った。
「俺と中田のお母さんは捜索の為に連絡し合ってたんだ。その時にあの波の音が聞こえだしたんだ」
「それで中田のお母さんもか!? だけどそしたら、どんどん電話で被害が広がってくんじゃないのか!?」
 確かにそうだ。でも、なんだろうこの違和感は……いや、どうみても変だ。
「なんでお母さんはお前のことを苗字で呼ぶんだよ」
「!?」
「俺はお前を苗字で呼んでいた。だから、はお前の下の名前を知らないんだ」
「それじゃ……あの声は」
「あの女だ」
「っ!」
 それからも中田を呼ぶ声が続いた。中田は泣き始め、本当に母親を呼びそうになるのを俺の手で必死におさえた。
「中田、冷静になれ。しっかりしろ」
 その時だった。吉川の真上から白い腕が吉川を捕まえると一気に引き上げて吉川を連れ去った。吉川は悲鳴をあげたがそれは一瞬だった。俺と中田は悲鳴をあげながらその場を離れ走って逃げ出した。足場の悪い森の中を雨と強風と恐怖が襲う。




 そして、気づいた頃には俺は中田と離れ離れになっていた。俺は小声で中田を呼んだ。
「中田? 中田?」
 その時、中田の悲鳴がした。
「中田っ……」
 悲鳴は消え、また静かになった。俺は辺りを見回した。



 俺は遂に暗闇の森の中で一人になってしまった。
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