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旅館
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何故、中田は一人であの旅館へ行こうとしたのか。それを考えたところで仕方がない。俺はパソコンでまずできるだけあの旅館の心霊について調べることにした。それらによると、幾つかの動画サイトから多くないものの■■■■旅館についてふれた動画が複数あり、そのほとんどが心霊スポットランキングの4位ぐらいとの紹介程度で、本当に心霊スポットであの旅館に入った動画は8年前の動画一件のみ。再生数は百幾つと少ない。動画を視聴してみると、昼間の明るい時間帯による撮影みたいで、古びた建物の全体像から始まり、そこから移動して駐車場、更に建物の周辺を一周回った後で動画は終了していた。何も異変らしきものは見当たらなかった。因みに、■■■■旅館から海まではそれなりの距離があり、そこから海の波の音が聞こえてくるのは流石にあり得ない。
その後も動画を探してみたが、これだけ心霊スポットとして有名だというのに、その動画は見当たらなかった。やはり違法行為もあってほとんどは動画削除されたりするということなのか。近隣住民からしてみればそんな動画が流行るだけ迷惑だろうが、これでは頼りにしていた情報が入りそうになかった。ネット上でのコメントも噂話しばかりで、その中に人が行方不明になるという記述はなかった。
やはりアテにはならなかったか…… 。
それから暫くして、中田の母親から連絡があり、中田が行ったであろう■■■■旅館へこれから向かってみると言い出した。母親の方は心霊とかそういったオカルトを信じるタイプではなく、そういった心配より純粋に息子の命の方を優先していた。俺はそれを聞いて迷ったが、中田探しに同行することにした。
◇◆◇◆◇
旅館の前には既に人がいた。マスコミ、警察、ボランティア、それに行方不明になった吉川と高橋の友人と家族が集まっており、俺と中田のお母さんはその集まりに加わった。警察が「それじゃ捜索を始めたいと思います」と号令し、全員が旅館の正面玄関から入っていく。辺りは散らかっており、物は旅館にまだ残されたまま放棄されてあった。それから一階ロビーから皆散り散りになって捜索を始める。旅館の窓ガラスは幾つか割れたままになっていて、床には埃が積もっている。時が止まったというより、忘れ去られた場所、そんな雰囲気だった。
電気が通っていない為、日当たりの悪い部屋には懐中電灯を使用したりした。流石に警察が念入りに一度調べ終わっただけあって手掛かりらしきものが中々見当たらない。ほとんど一階を見回ると、皆階段を登り始めた。エレベーターは使えないからだ。
今のところ体が重いとか薄気味悪いとか悪寒がするとか、そういった異変らしきものは何もない。霊感がそもそもないと思う自分にとって感じるかどうか分からないが、正直なところここは単なる廃墟な気がする。それか夜にしか心霊現象は現れないのか? だとしたら何故中田は昼間に行ったまま戻ってこない?
それからも順に下から上へ隅々まで調べ回るが特に何か発見することもなく時間だけが過ぎていった。
結局成果と呼べるものを一つもあげられないまま捜索は終了となった。皆が肩を落とす中、中田の母親は俺に今日はありがとうとお礼を言った。何もしてやれなかったのに。
◇◆◇◆◇
家に戻ると一気に体がかったるくなった。気分が落ち込んでいるせいだろう。テレビを一度つけるが、つまらなくて直ぐに消した。俺は画面の割れたスマホで新たな書き込みがないか調べてみた。
すると、画面が急に切り替わり着信音が鳴った。
俺はビクッとした。
それは中田からだった。俺は急いで電話に出た。
「もしもし、中田か!」
だが、返事はなかった。
「おい、中田?」
すると、遠くから波の音が聞こえてきた。
「中田?」
今度は恐る恐る訊いた。すると、波の音が徐々に大きくなっていく。そして、
お い で
俺は思わず自分のスマホを投げつけた。スマホは通話が切れて、静かになった。
その後も動画を探してみたが、これだけ心霊スポットとして有名だというのに、その動画は見当たらなかった。やはり違法行為もあってほとんどは動画削除されたりするということなのか。近隣住民からしてみればそんな動画が流行るだけ迷惑だろうが、これでは頼りにしていた情報が入りそうになかった。ネット上でのコメントも噂話しばかりで、その中に人が行方不明になるという記述はなかった。
やはりアテにはならなかったか…… 。
それから暫くして、中田の母親から連絡があり、中田が行ったであろう■■■■旅館へこれから向かってみると言い出した。母親の方は心霊とかそういったオカルトを信じるタイプではなく、そういった心配より純粋に息子の命の方を優先していた。俺はそれを聞いて迷ったが、中田探しに同行することにした。
◇◆◇◆◇
旅館の前には既に人がいた。マスコミ、警察、ボランティア、それに行方不明になった吉川と高橋の友人と家族が集まっており、俺と中田のお母さんはその集まりに加わった。警察が「それじゃ捜索を始めたいと思います」と号令し、全員が旅館の正面玄関から入っていく。辺りは散らかっており、物は旅館にまだ残されたまま放棄されてあった。それから一階ロビーから皆散り散りになって捜索を始める。旅館の窓ガラスは幾つか割れたままになっていて、床には埃が積もっている。時が止まったというより、忘れ去られた場所、そんな雰囲気だった。
電気が通っていない為、日当たりの悪い部屋には懐中電灯を使用したりした。流石に警察が念入りに一度調べ終わっただけあって手掛かりらしきものが中々見当たらない。ほとんど一階を見回ると、皆階段を登り始めた。エレベーターは使えないからだ。
今のところ体が重いとか薄気味悪いとか悪寒がするとか、そういった異変らしきものは何もない。霊感がそもそもないと思う自分にとって感じるかどうか分からないが、正直なところここは単なる廃墟な気がする。それか夜にしか心霊現象は現れないのか? だとしたら何故中田は昼間に行ったまま戻ってこない?
それからも順に下から上へ隅々まで調べ回るが特に何か発見することもなく時間だけが過ぎていった。
結局成果と呼べるものを一つもあげられないまま捜索は終了となった。皆が肩を落とす中、中田の母親は俺に今日はありがとうとお礼を言った。何もしてやれなかったのに。
◇◆◇◆◇
家に戻ると一気に体がかったるくなった。気分が落ち込んでいるせいだろう。テレビを一度つけるが、つまらなくて直ぐに消した。俺は画面の割れたスマホで新たな書き込みがないか調べてみた。
すると、画面が急に切り替わり着信音が鳴った。
俺はビクッとした。
それは中田からだった。俺は急いで電話に出た。
「もしもし、中田か!」
だが、返事はなかった。
「おい、中田?」
すると、遠くから波の音が聞こえてきた。
「中田?」
今度は恐る恐る訊いた。すると、波の音が徐々に大きくなっていく。そして、
お い で
俺は思わず自分のスマホを投げつけた。スマホは通話が切れて、静かになった。
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