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旅館
02
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暫く俺は自分のスマホを取りに行けずに遠ざかっていたが、数分待っても何か起きる気配も無いと分かると、俺は床に転がるスマホを拾い始めた。画面は今ので割れてしまったが、まだ使うことは出来た。スマホから中田に電話を掛ける。
中田は肝試しに参加しなかった筈だ。だとしたら、呪われたとしてもそれは例の二人であって中田は違う筈だ。中田は電話に直ぐに出た。
「もしもし、大丈夫か?」
少し間があってから中田は「あの二人の声がまたした」と言いだした。どうやら中田も同じだったようだ。
「中田、二人はあの旅館に入って何かあったんだと思う。それが理由で二人は戻って来ずあの旅館に囚われたままなんだと思うんだ」
「どうしよう……警察に言う?」
「言えるのか?」
「いや……」
どう説明すべきか二人は思いつかない。
「とりあえず俺達はあの旅館に近づかない方がいい。それでもし、まんまと旅館に行けば余計犠牲者を増やすだけだ」
「だよね……」
「二人のことは警察に任せるしかない」
中田は最終的にそれに納得した。それ以外に俺達にとれる選択肢はなかったのだから。
◇◆◇◆◇
仕事のない休日。俺は画面の割れたスマホを何度も不安そうに確認していた。外からは選挙カーが走り投票を呼びかけていた。与党政府による金の不祥事で勢いをつけたい野党が必死に街中、特に駅前での街頭演説に力を入れているのは、時々駅前を通過すると分かる。だが、与党であれ野党であれこの少子化を止める有力な政策を公約にあげているのかと考えるとどちらも当てはまらない。この街もどんどん少子化が進み、更に寂しい街となるだろう。そこに巨大なショッピングモールでも出来たりすれば、人はそこにだけ集まり、それ以外は空洞化するだろう。そうと分かっていてもその流れを止める手立てがない。あの旅館だけでない。廃墟はこれからも増えて広がり、村や町が廃村と化すだろう。学校の併合が各地で起こり、医療福祉が財政の負担となり、人はいずれ生まれ育った場所を捨てなければならなくなる。
そして、各地で思い出だけが沈殿した場所が各地に残るようになる。
……ふと、我に返る。何故、俺はこんなことを考えていたんだろうか。あぁ……選挙カーで政治とこの国の社会問題を考えていたんだ。でも、思い出の沈殿……本当にそこには思い出だけしか残っていないのだろうか。そこには良からぬものも一緒に混在し、それがあの場所に心霊現象を引き起こす起因になっているのではないのか。
俺は鼻で自分を笑った。
くだらないことを考えた。らしくない。心霊現象にいちいち原因を考えること事態無意味じゃないか。理由なんて所詮は後付けに過ぎないんだから。
すると、割れた画面に明かりがつく。初期設定のままの着信音が鳴り始める。俺はその電話に出た。
「中田か、どうした?」
「俺、やっぱり二人が心配だからあの旅館に行ってみるよ」
「おい、やめとけって。警察に任せておけばいいんだ」
「ううん、ごめんねなんか。関係ないのになんか巻き込んじゃって」
「いや、そんなのどうでもいいって。それより旅館には絶対に行くな。行ったらヤバいって分かるだろ? なのに何で行くんだよ」
「いや、昼間なら大丈夫かなって」
俺は窓の外を見た。今日は快晴で太陽がよく見える。幽霊が夜しか出ないなんて考え方は妥当じゃないだろう。
「駄目だ。行くな。絶対に行くな」
「大丈夫だって。ちょっと行って見てくるだけだからさ」
何故こういう時に限って急に頑固になるんだよ。
「いいから行くな! 警察に任せておけって。分かったな?」
「……うん」
歯切れの悪い返事だったが、これで分かってくれただろう。俺は安堵して「それじゃあな。行くなよ」
「あぁ」
だが、中田が俺の忠告を無視してあの旅館に行った。それを知ったのは夜中の10時で、連絡がとれないことに気づいた中田のお母さんが俺に連絡してきてからだった。
中田は肝試しに参加しなかった筈だ。だとしたら、呪われたとしてもそれは例の二人であって中田は違う筈だ。中田は電話に直ぐに出た。
「もしもし、大丈夫か?」
少し間があってから中田は「あの二人の声がまたした」と言いだした。どうやら中田も同じだったようだ。
「中田、二人はあの旅館に入って何かあったんだと思う。それが理由で二人は戻って来ずあの旅館に囚われたままなんだと思うんだ」
「どうしよう……警察に言う?」
「言えるのか?」
「いや……」
どう説明すべきか二人は思いつかない。
「とりあえず俺達はあの旅館に近づかない方がいい。それでもし、まんまと旅館に行けば余計犠牲者を増やすだけだ」
「だよね……」
「二人のことは警察に任せるしかない」
中田は最終的にそれに納得した。それ以外に俺達にとれる選択肢はなかったのだから。
◇◆◇◆◇
仕事のない休日。俺は画面の割れたスマホを何度も不安そうに確認していた。外からは選挙カーが走り投票を呼びかけていた。与党政府による金の不祥事で勢いをつけたい野党が必死に街中、特に駅前での街頭演説に力を入れているのは、時々駅前を通過すると分かる。だが、与党であれ野党であれこの少子化を止める有力な政策を公約にあげているのかと考えるとどちらも当てはまらない。この街もどんどん少子化が進み、更に寂しい街となるだろう。そこに巨大なショッピングモールでも出来たりすれば、人はそこにだけ集まり、それ以外は空洞化するだろう。そうと分かっていてもその流れを止める手立てがない。あの旅館だけでない。廃墟はこれからも増えて広がり、村や町が廃村と化すだろう。学校の併合が各地で起こり、医療福祉が財政の負担となり、人はいずれ生まれ育った場所を捨てなければならなくなる。
そして、各地で思い出だけが沈殿した場所が各地に残るようになる。
……ふと、我に返る。何故、俺はこんなことを考えていたんだろうか。あぁ……選挙カーで政治とこの国の社会問題を考えていたんだ。でも、思い出の沈殿……本当にそこには思い出だけしか残っていないのだろうか。そこには良からぬものも一緒に混在し、それがあの場所に心霊現象を引き起こす起因になっているのではないのか。
俺は鼻で自分を笑った。
くだらないことを考えた。らしくない。心霊現象にいちいち原因を考えること事態無意味じゃないか。理由なんて所詮は後付けに過ぎないんだから。
すると、割れた画面に明かりがつく。初期設定のままの着信音が鳴り始める。俺はその電話に出た。
「中田か、どうした?」
「俺、やっぱり二人が心配だからあの旅館に行ってみるよ」
「おい、やめとけって。警察に任せておけばいいんだ」
「ううん、ごめんねなんか。関係ないのになんか巻き込んじゃって」
「いや、そんなのどうでもいいって。それより旅館には絶対に行くな。行ったらヤバいって分かるだろ? なのに何で行くんだよ」
「いや、昼間なら大丈夫かなって」
俺は窓の外を見た。今日は快晴で太陽がよく見える。幽霊が夜しか出ないなんて考え方は妥当じゃないだろう。
「駄目だ。行くな。絶対に行くな」
「大丈夫だって。ちょっと行って見てくるだけだからさ」
何故こういう時に限って急に頑固になるんだよ。
「いいから行くな! 警察に任せておけって。分かったな?」
「……うん」
歯切れの悪い返事だったが、これで分かってくれただろう。俺は安堵して「それじゃあな。行くなよ」
「あぁ」
だが、中田が俺の忠告を無視してあの旅館に行った。それを知ったのは夜中の10時で、連絡がとれないことに気づいた中田のお母さんが俺に連絡してきてからだった。
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