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第一章 魔法の剣
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二つ目の山を越えた先にある落雷が続く森には軍服を着た集団が列になって進行していた。軍服の色は統一され、グレーで全員男性だった。いや、正確には機械人間にまで性別をつけるべきかは議論の余地はあるだろう。しかし、外見上人間に似せる為に男性で統一されていた。だが、一人を除いては全員が同じ顔のかたちをしていた。つまり、それら全てが機械人間である。人工的につくられたものであり、主人の命令に忠実に従う奴隷である。
その主人こそが唯一違う顔をした若い青年である。金髪にオールバックの彼の瞳はブルーで、髭はない。ハンサム顔の彼は周囲を機械人間に警戒させ、自分は余裕そうに歩いていた。
その集団に一匹のカラスが空の上を飛んできた。
カラスは徐々に高度を落とし集団に近づくと、カラスは突然黒色のフード付きローブの人型へと変身した。
顔はフードを深く被っていてよく見えず、薄いピンク色の唇しか見えない。
変身魔法でカラスになっていたその人物の背は低く、身長が160もなかった。
「ローレンス、あなたの言っていた通り近くに魔女がいたわ」
「まさか、君以外にもまだ魔女の生き残りがいたとはな」
「多分、魔女メーデイアの弟子よ。魔剣を手にした魔女を封印した魔女よ。その弟子ならば生き延びていてもおかしくはない」
「そうか。その魔女は我々に気づいているか?」
「ええ。魔法を使ったのだから、気づいた筈よ。多分、あちらも警戒するでしょう。軍服を着たあなたと、機械人間を連れている時点で、此方の様子を伺うでしょうね」
「我々の目的を知ったら邪魔してくるかな」
「さぁ……そこまでは分からないわ。でも、私達の目的を連中が気づくとは思わないわ」
「邪魔するようなら、消すしかない」
「本気? 人間を相手にするならまだしも、魔女を相手にするのは」
「相手にするのはなんだ?」
「……」
「怖いわけないだろう。我々一族が魔女の血を多く流してきたことは君でも理解しているだろう。そして、君を従えさせている。もし、敵対するならその魔女も従わせるさ。優秀な駒が増えることはむしろ歓迎するよ。そしたら君も少しは話し相手ができるんじゃないのか?」
男はそう言って魔女の顎を無理やり持ち上げた。
魔女の顔が微かな日の光りに当たる。
まだ幼さが見える童顔といっていい顔の瞳には美しいグリーンが宝石のように輝いている。
その顎の下、首には頑丈そうな首輪が見える。彼女の足元を見ると、素足の足首に同じ枷が両足にかけられており、鎖で両足は繋がれてあった。
「服従の呪い。君にかけられた魔法の呪いは私から逃げることも逆らうこともさせない。そうしようもんなら、君の心臓部辺りに刻まれた呪いの刻印が君に苦しみを与えるだろう。君はそれに耐えきれない。君だけじゃない。魔女は全てそうだ。君以外に生かしておいた残りの魔女はあっさり自害してしまったが、魔女が呪いから解放される方法はまさにそれしかない。君もお友達は欲しいだろ?」
その質問に彼女は答えなかった。答えずとも、彼の次の命令はだいたい予想がついたからだ。そして、彼が言う通りそれに逆らうことが出来ない。
「連中の行動を見張れ。その間、我々は三つ目の山へ向かう」
そうローレンスが魔女に向かって言った直後、機械人間は右に回れすると、ライフルを構えた。
「誰だ」
ローレンスが言うと、木の影からサイモンが両手をあげた状態で出てきた。
「おやおや、旅人か。よく、ここまで一人で来れたもんだ」
すると、魔女は「こいつは魔女と一緒にいた男」とローレンスに警告する。
ローレンスの表情が感心から警戒に変わる。
「見世物じゃないんだ。さっさと用件を言え」
「確かにそのお嬢さんが言う通り俺はさっきまでその子より小さい魔女と一緒にいたが、クビになったばかりなんだ。それで、あんたらについていきたいと思ってな。協力できることならあると思うが? その魔女についてとか」
「そうか……可愛そうに。仲間はずれにされたんだな」
そうローレンスはサイモンに同情するような態度を見せながらピストルを引き抜き、一瞬で彼の額を撃ち抜いた。
穴があいたサイモンは目を開いたまま後ろへ倒れた。
「クビにされた男をわざわざ連れていくかよ。無能は無能らしく散ればいいんだ。ああ、もう命を散らしていたか」
ローレンスはそう言いながらピストルをしまう。
素早く正確な早撃ちだった。あれを初見で避けられる人間を魔女は見たことがなかった。
ローレンスは人間を殺すのに躊躇なんてなかった。
当然だ。戦争を長く経験してきた兵士にとって、人殺しを躊躇することなんてとっくに失っている。
戦争は人を狂わせ、人としての心を壊してしまう。
ローレンスは完全に壊れた人間だ。
しかし、ローレンスのような兵士は人間世界では英雄視される。どんなに非情な性格をしてようと、敵を沢山倒せば勲章もんだ。
正義のかたちは様々だが、ローレンスのように国の為に戦えば、どんな残酷な一面を持とうと、敵に対して残酷なことをしようとそれは正義だ。誰も彼の国の民はローレンスを責めたりはしない。
戦争というものを嫌悪しようとも、戦場で勇敢に戦った兵士に責任はない。彼らは称えられるべきである。過去の政治に過ちがあれば、その責任は政治家にある。
しかし、魔女はローレンスを嫌っていた。この男に魔法の剣を握らせてはならない。決してこの男だけには。
だが、自分では彼の計画を阻止することは出来ない。むしろ、強制的に従わされてしまう。この、呪いがある限り。
その主人こそが唯一違う顔をした若い青年である。金髪にオールバックの彼の瞳はブルーで、髭はない。ハンサム顔の彼は周囲を機械人間に警戒させ、自分は余裕そうに歩いていた。
その集団に一匹のカラスが空の上を飛んできた。
カラスは徐々に高度を落とし集団に近づくと、カラスは突然黒色のフード付きローブの人型へと変身した。
顔はフードを深く被っていてよく見えず、薄いピンク色の唇しか見えない。
変身魔法でカラスになっていたその人物の背は低く、身長が160もなかった。
「ローレンス、あなたの言っていた通り近くに魔女がいたわ」
「まさか、君以外にもまだ魔女の生き残りがいたとはな」
「多分、魔女メーデイアの弟子よ。魔剣を手にした魔女を封印した魔女よ。その弟子ならば生き延びていてもおかしくはない」
「そうか。その魔女は我々に気づいているか?」
「ええ。魔法を使ったのだから、気づいた筈よ。多分、あちらも警戒するでしょう。軍服を着たあなたと、機械人間を連れている時点で、此方の様子を伺うでしょうね」
「我々の目的を知ったら邪魔してくるかな」
「さぁ……そこまでは分からないわ。でも、私達の目的を連中が気づくとは思わないわ」
「邪魔するようなら、消すしかない」
「本気? 人間を相手にするならまだしも、魔女を相手にするのは」
「相手にするのはなんだ?」
「……」
「怖いわけないだろう。我々一族が魔女の血を多く流してきたことは君でも理解しているだろう。そして、君を従えさせている。もし、敵対するならその魔女も従わせるさ。優秀な駒が増えることはむしろ歓迎するよ。そしたら君も少しは話し相手ができるんじゃないのか?」
男はそう言って魔女の顎を無理やり持ち上げた。
魔女の顔が微かな日の光りに当たる。
まだ幼さが見える童顔といっていい顔の瞳には美しいグリーンが宝石のように輝いている。
その顎の下、首には頑丈そうな首輪が見える。彼女の足元を見ると、素足の足首に同じ枷が両足にかけられており、鎖で両足は繋がれてあった。
「服従の呪い。君にかけられた魔法の呪いは私から逃げることも逆らうこともさせない。そうしようもんなら、君の心臓部辺りに刻まれた呪いの刻印が君に苦しみを与えるだろう。君はそれに耐えきれない。君だけじゃない。魔女は全てそうだ。君以外に生かしておいた残りの魔女はあっさり自害してしまったが、魔女が呪いから解放される方法はまさにそれしかない。君もお友達は欲しいだろ?」
その質問に彼女は答えなかった。答えずとも、彼の次の命令はだいたい予想がついたからだ。そして、彼が言う通りそれに逆らうことが出来ない。
「連中の行動を見張れ。その間、我々は三つ目の山へ向かう」
そうローレンスが魔女に向かって言った直後、機械人間は右に回れすると、ライフルを構えた。
「誰だ」
ローレンスが言うと、木の影からサイモンが両手をあげた状態で出てきた。
「おやおや、旅人か。よく、ここまで一人で来れたもんだ」
すると、魔女は「こいつは魔女と一緒にいた男」とローレンスに警告する。
ローレンスの表情が感心から警戒に変わる。
「見世物じゃないんだ。さっさと用件を言え」
「確かにそのお嬢さんが言う通り俺はさっきまでその子より小さい魔女と一緒にいたが、クビになったばかりなんだ。それで、あんたらについていきたいと思ってな。協力できることならあると思うが? その魔女についてとか」
「そうか……可愛そうに。仲間はずれにされたんだな」
そうローレンスはサイモンに同情するような態度を見せながらピストルを引き抜き、一瞬で彼の額を撃ち抜いた。
穴があいたサイモンは目を開いたまま後ろへ倒れた。
「クビにされた男をわざわざ連れていくかよ。無能は無能らしく散ればいいんだ。ああ、もう命を散らしていたか」
ローレンスはそう言いながらピストルをしまう。
素早く正確な早撃ちだった。あれを初見で避けられる人間を魔女は見たことがなかった。
ローレンスは人間を殺すのに躊躇なんてなかった。
当然だ。戦争を長く経験してきた兵士にとって、人殺しを躊躇することなんてとっくに失っている。
戦争は人を狂わせ、人としての心を壊してしまう。
ローレンスは完全に壊れた人間だ。
しかし、ローレンスのような兵士は人間世界では英雄視される。どんなに非情な性格をしてようと、敵を沢山倒せば勲章もんだ。
正義のかたちは様々だが、ローレンスのように国の為に戦えば、どんな残酷な一面を持とうと、敵に対して残酷なことをしようとそれは正義だ。誰も彼の国の民はローレンスを責めたりはしない。
戦争というものを嫌悪しようとも、戦場で勇敢に戦った兵士に責任はない。彼らは称えられるべきである。過去の政治に過ちがあれば、その責任は政治家にある。
しかし、魔女はローレンスを嫌っていた。この男に魔法の剣を握らせてはならない。決してこの男だけには。
だが、自分では彼の計画を阻止することは出来ない。むしろ、強制的に従わされてしまう。この、呪いがある限り。
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