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1章 魅力
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「学校とは知識を得ることが目的の場所だと勘違いをしている者がいるが、教育とは君達を自立させるのが目的だ。その為のヒントを得る一つの手段に過ぎない。君達はいずれこの学校を去り、各々の道を行く。そして、君達は学んできた知識を手掛かりに自分探しの旅に出るのだ。私はそれを人の行く道、人生と考える。さて、君達はどう生きるかという人生について考えたことはあるか? 残念ながら学校はそれを教えはしないし教わる場所ではない。それは自身で見つけなければならないからだ。世の中、全てが与えられるわけではない。得たいなら掴み取る努力をしろ。そして、その努力に近道は存在しない」
一人の生徒が挙手をした。教師はその生徒を指名する。指名された生徒は起立した。
「先生は例外がないと仰られましたが、世の中には禁断の果実というものがあります」
禁断の果実というワードにややざわつきが出たが生徒は構わず質問を続けた。
「禁断の果実はその例外になりませんか? 世の中にはそういった道があると思います。全員が同じスタートに立っているわけではない……それは運だと思います。私は努力以外にも運の要素も必要だと思います」
「否定はしない。だがな、そんな不確定要素をどう扱おうって言うんだ? そもそも禁断の果実に頼ろうと思うことが間違いだ」
「それは宗教的な意味でということですか?」
「いや、両方だ。信仰を信じる者なら知っての通りあれを口にした者は楽園から追放される。つまり、そこに幸運はないということだ。不幸しかない。例え特別な力を得ようと普通の人間とは違う者になるということは、人間を辞めるということだ。人でなくなった者が楽園にいられなくなるのも当然だ。それでも特別に憧れるのは自分が何者かを知らないからだ。自分には何もないと思うからこそ、よく分からないものでも平気で口にすることが出来るんだ。現に、果実を食べたと思われる人物は最後不幸な死を遂げている。はっきり言えばだ、そもそも普通なんて存在しない。あると思い込んでいるだけで実際に一人一人を見れば違いは幾らでもある。ただ、集団でいるとそれを実感できなくなるんだ。周りに合わせ、歩調し、同調する。個性が失われる原因だ。でもな、完全に消失したわけじゃない。問題は、自分が何者なのかを自覚出来ているかどうかなんだ。私は思春期の頃、自分が何をしたいのか分からず迷ったことがある。学校や大人達に与えられたレールではなく、自分という人生の道を考えた時、私は初めて人生について考えるようになった。それまでの私は人生について無知であり、それまでの自分を知らずに生きていた。確かに、禁断の果実に取り憑かれた大人達は数多くいる。だが、それは呪いであり神からの贈り物ではないんだ。魅力という名の呪いだ。それともう一つ。君達は禁断の果実が与える魅力にしか目がいっていないが、そもそも魅力とはなにかを考えたことはあるか? それは己を知った時、己の魅力に気づける。逆に他人にもその魅力はある。それは原石でもあり、磨き上げればより光る。だがな、禁断の果実はどんなに磨こうとも黒い石のままだ。それは闇であり、闇にのみ込まれた大勢は不幸になる。いいか、人生に近道なんてものはないんだ。それさえ分かっていれば、あんなものに頼ろうとは思わんさ。コツコツ生きる、それが例え地味に思えても大人になった時にその重要性に気づく筈だ」
春、身長2メートルと高身長な女性教師が言った言葉だ。まだ新入生の頃、右も左も分からなかった懐かしき記憶。それでも、俺は鮮明にそれを覚えていた。
「え? 禁断の果実が学校にあった? それをどこかへ投げたって言うんですか? なんでです!?」
アビーのツッコミに俺はなんであんなことをしたんだろうと思った。
「誰かが拾って口にでもしたらどうするんですか!」
「分かった、分かった。明日、投げた方向を探してみるよ」
アビーは頭を抱えため息をついた。
「だけどよ、おかしいと思わないか? なんで学校に果実が堂々と置かれてあったんだ? 誰も気づかないなんてことはあり得ないだろ」
「誰かがわざと置いたってことですか? 何の為にです?」
「さぁな」
後日。俺は投げた禁断の果実をアビーと一緒に探した。でも、その果実が見つかることはなかった。
アビーはもう先生に話すしかないと言って俺の腕を掴み職員室へ引っ張った。
そして、身長2メートル以上のカレロ先生の反応は予想通りだった。
「全く面倒なことをしてくれた……分かった。学校の方であとは探そう」
「ありがとうございます」俺とアビーは口を揃えて感謝を述べた。
「あと、くれぐれもこのことは他言無用に」
「先生、質問をいいですか?」と俺は先生に許可を求めた。
「なんだ?」
「禁断の果実は突然目の前に現れたりするものなんですか?」
「なるほど、気になるか。確かに禁断の果実がどこから現れたのかは大いなる謎だな。そもそもその果実が実る木を発見出来ていない」
「それは矛盾してます」
「そうだ。となると君の予想通り果実は突然現れたことになる。例えば禁断の果実を口にした者が木を探していたかといえばそんなことはない。だが、それでは果実は何故、どのように現れたのか? その説明が出来ない以上はその質問に答えるのは無理だ。そして、おそらく誰もが気になる謎で誰も答えられない疑問だ」
「ありがとうございます」
「なぁ、気になるのは分かるが深入りはしない方がいい。あれを狙っている連中の中には手段を選ばない者もいる。学生の君達でどうこう出来ることではない。あと、分かっていると思うが見つけても決してそれを口にしたりはするなよ」
「はい、先生」
「宜しい。もう行っていいぞ」
「失礼します」
俺とアビーは一礼して踵を返した。
この後、まさかあんなことになるなんて…… 。
一人の生徒が挙手をした。教師はその生徒を指名する。指名された生徒は起立した。
「先生は例外がないと仰られましたが、世の中には禁断の果実というものがあります」
禁断の果実というワードにややざわつきが出たが生徒は構わず質問を続けた。
「禁断の果実はその例外になりませんか? 世の中にはそういった道があると思います。全員が同じスタートに立っているわけではない……それは運だと思います。私は努力以外にも運の要素も必要だと思います」
「否定はしない。だがな、そんな不確定要素をどう扱おうって言うんだ? そもそも禁断の果実に頼ろうと思うことが間違いだ」
「それは宗教的な意味でということですか?」
「いや、両方だ。信仰を信じる者なら知っての通りあれを口にした者は楽園から追放される。つまり、そこに幸運はないということだ。不幸しかない。例え特別な力を得ようと普通の人間とは違う者になるということは、人間を辞めるということだ。人でなくなった者が楽園にいられなくなるのも当然だ。それでも特別に憧れるのは自分が何者かを知らないからだ。自分には何もないと思うからこそ、よく分からないものでも平気で口にすることが出来るんだ。現に、果実を食べたと思われる人物は最後不幸な死を遂げている。はっきり言えばだ、そもそも普通なんて存在しない。あると思い込んでいるだけで実際に一人一人を見れば違いは幾らでもある。ただ、集団でいるとそれを実感できなくなるんだ。周りに合わせ、歩調し、同調する。個性が失われる原因だ。でもな、完全に消失したわけじゃない。問題は、自分が何者なのかを自覚出来ているかどうかなんだ。私は思春期の頃、自分が何をしたいのか分からず迷ったことがある。学校や大人達に与えられたレールではなく、自分という人生の道を考えた時、私は初めて人生について考えるようになった。それまでの私は人生について無知であり、それまでの自分を知らずに生きていた。確かに、禁断の果実に取り憑かれた大人達は数多くいる。だが、それは呪いであり神からの贈り物ではないんだ。魅力という名の呪いだ。それともう一つ。君達は禁断の果実が与える魅力にしか目がいっていないが、そもそも魅力とはなにかを考えたことはあるか? それは己を知った時、己の魅力に気づける。逆に他人にもその魅力はある。それは原石でもあり、磨き上げればより光る。だがな、禁断の果実はどんなに磨こうとも黒い石のままだ。それは闇であり、闇にのみ込まれた大勢は不幸になる。いいか、人生に近道なんてものはないんだ。それさえ分かっていれば、あんなものに頼ろうとは思わんさ。コツコツ生きる、それが例え地味に思えても大人になった時にその重要性に気づく筈だ」
春、身長2メートルと高身長な女性教師が言った言葉だ。まだ新入生の頃、右も左も分からなかった懐かしき記憶。それでも、俺は鮮明にそれを覚えていた。
「え? 禁断の果実が学校にあった? それをどこかへ投げたって言うんですか? なんでです!?」
アビーのツッコミに俺はなんであんなことをしたんだろうと思った。
「誰かが拾って口にでもしたらどうするんですか!」
「分かった、分かった。明日、投げた方向を探してみるよ」
アビーは頭を抱えため息をついた。
「だけどよ、おかしいと思わないか? なんで学校に果実が堂々と置かれてあったんだ? 誰も気づかないなんてことはあり得ないだろ」
「誰かがわざと置いたってことですか? 何の為にです?」
「さぁな」
後日。俺は投げた禁断の果実をアビーと一緒に探した。でも、その果実が見つかることはなかった。
アビーはもう先生に話すしかないと言って俺の腕を掴み職員室へ引っ張った。
そして、身長2メートル以上のカレロ先生の反応は予想通りだった。
「全く面倒なことをしてくれた……分かった。学校の方であとは探そう」
「ありがとうございます」俺とアビーは口を揃えて感謝を述べた。
「あと、くれぐれもこのことは他言無用に」
「先生、質問をいいですか?」と俺は先生に許可を求めた。
「なんだ?」
「禁断の果実は突然目の前に現れたりするものなんですか?」
「なるほど、気になるか。確かに禁断の果実がどこから現れたのかは大いなる謎だな。そもそもその果実が実る木を発見出来ていない」
「それは矛盾してます」
「そうだ。となると君の予想通り果実は突然現れたことになる。例えば禁断の果実を口にした者が木を探していたかといえばそんなことはない。だが、それでは果実は何故、どのように現れたのか? その説明が出来ない以上はその質問に答えるのは無理だ。そして、おそらく誰もが気になる謎で誰も答えられない疑問だ」
「ありがとうございます」
「なぁ、気になるのは分かるが深入りはしない方がいい。あれを狙っている連中の中には手段を選ばない者もいる。学生の君達でどうこう出来ることではない。あと、分かっていると思うが見つけても決してそれを口にしたりはするなよ」
「はい、先生」
「宜しい。もう行っていいぞ」
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俺とアビーは一礼して踵を返した。
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