楽園の外の住人

アズ

文字の大きさ
上 下
7 / 8
1章 魅力

02 美の魅力

しおりを挟む
 私は綺麗なものが好きだった。最初は艶々の石だった。それから綺麗な夜空。キラキラと光るお星さま。その内、周りの人達は私を見てとても私を可愛がってくれた。べっぴんさんにきっとなるだろうって。それからは綺麗なものは自分のものになった。やがて、大人達が持っている宝石にも興味を持つようになった。色んな男子に声がかかるようになった。私は幸せだった。
 でも、私より綺麗な人が転校してくると事態は変わり、男子の一部はその子に目がいくようになった。ほとんどの男子は私を見てくれるのに、その転校生は他の女子からも人気があった。私はそれが許せなかった。
 私はじっと鏡を見て自分に足りないものを探す時間に多くを費やした。
 そのうち、男子の一人が私や転校生ではない、そこまで可愛くない女子に惚れていた。私には全く分からなかった。
 そんな私をおばは心配するようになった。独占欲は不幸しかないとおばは言った。男の心を全て奪える美は魔性として恐れられ、美を求め振り向いてもらう為に男は殺し合ってしまうのだと。そんな美があるのかと私は聞いた。おばは嘘つきだった。そんな見たこともないのに想像だけで語るなんて信用出来ない。でも、もしおばの言う通りなら私はそれを手に入れたいと思った。
 そこへ、私のところに果実が転がり込んできた。禁断の果実と呼ばれたその名とは裏腹に綺麗な赤色をしていた。私はそれを口にした。
 するとどうだろうか。私以外に綺麗で美しいものはいなくなった。ただ、最近突然強い睡魔に襲われることが起きるようにもなった。多分、果実の副作用かもしれない。でも、生活に支障がでる程ではなかった。
 気がつくと私は鏡の前に立っていた。鏡の前で私は血だらけになっていた。頬にも手にも髪にも服にも。私はそれを見てなんだか可笑しくて笑ってしまう。とても気持ちが良かった。
 やがて私はモデルになった。私の名は世間に広まった。社長は「お前なら世界をとれるぞ」と言ってくれた。私は「余裕よ」と答えた。だってそうだ、私は禁断の果実を口にしたんだから。
 モデルには沢山のライバルがいた。でも、何故か突然そのライバルは姿を消した。私にはどうでもいいことだった。だってそうでしょ? 私には都合がいいことなんだもの。
 私はいつものようにメイクさんに綺麗にしてもらい、私は美しい状態でステージの上に立つ。
「社長がお呼びです」
 社長からの突然からの悲報。
「残念だがもう雇うわけにはいかない」
「どうして? どうしてなの? 私に世界をとらせてくれるんじゃなかったの?」
「お前のマネージャーが見てしまったんだ。お前が鏡の前でずっと笑っているのを。まるで取り憑かれているようだって。他にもお前の奇行を他のメンバーや同業者から聞いてるぞ」
「なによ、ライバルが私に嫉妬して蹴落そうとしているだけよ。本気にしないで。私なら世界は取れる。そうでしょ? 社長」
「あぁ。お前は美しい。だが、モデルが精神に問題があるとしたら契約は難しい。お前には治療が必要だ」
 私は勢いよくテーブルの上を叩いた。振動で灰皿がズレた。
「分かってるでしょ! それは私に引退しろって言ってることになるって」
「だからそう言っている」
「どうして……信用してたのに」
 何故こうなるの? 何故分かってくれないの? 私はもっと輝きたいだけなのに。
「お、お前……」
 社長は腰を抜かして私を指差した。私の顔になにかついているのか? 私は社長室にある鏡を見た。するとそれはまるで別人かのようにしわくちゃなシワだらけの青白いおばあちゃんの姿になっていた。
「あああ!! 私の顔が……私の美しい顔がぁ!!」
 社長は這いずりながら逃げようとした。
「だめぇー!!」
 私は社長に跨り捕まえると、社長の首を絞めた。
 社長は私の両手の中で息を止めた。
「あぁ……私……社長、社長!」
 しかし、社長は返事をしなかった。
「そんな……死んでる。なんで……」
 ふと、あの鏡に映る自分を見た。顔は元に戻っていた。美しい自分が。
「あれ? あれ?」
 それはいつもの私だった。
 私はなにを恐れていたのか? あの時に映った姿はなんだったのか。
 それからというもの、最近鏡を見るのが怖くなった。また、自分の顔が年老いた姿になったんじゃないかって。私は怖くて怖くて怖くて怖くて……あれ?
 私は鏡の前に立った。いつもの顔。ホッとしてから急に怒りを感じた。
「そうよ! 私は美しい。なのに、鏡のせいで私の人生は滅茶苦茶よ!」
 私は鏡を割った。砕けた鏡の破片が洗面台に落ちる。
 チャイムが鳴った。
 ドアを開けると、スーツ姿の警察数名が立っていた。
「殺人容疑の逮捕状が出ている」
 警察は手錠を出してきた。私はそれを見て刑事を押し倒した。
「抵抗するな!」
 他の警察が逃げようとする女を取り押さえようとした。だが、女の必死な抵抗に警察達と押し合いになった。そして、女が押し出され三階から外へ落ちると、顔面からその真下の塀に落下して。



「なぁ、ソフィー。お前が美人だと褒めてたモデル、亡くなったそうだぞ」
「知ってるわよ。まさか殺人だなんて……」
「人は見た目によらないな」
 記事によれば逃亡しようとしたそのモデルは三階から落ち顔面から着地。顔はぐちゃぐちゃで原形がなかったそうだ。
「確かそのモデルも禁断の果実を口にしたんじゃないかって噂だったな」
「噂でしょ」
「だが、もし本当ならそのモデルは美に取り憑かれ呪われ死んだってことになる」
「美を追求するあまり周りが見えなくなったって? それってまるで」
「あぁ。マイソンの時と同じだ」
「ねぇ、魅力はそんなに悪いの?」
「これは善とか悪とかじゃない。それだけを求めても駄目だってことさ。もっと本質的なものを追求しないといけないんだろ」



 放課後。
 今日は珍しく俺は一人で帰ることになった。ソフィーは今日は当番だった。その帰り道のベンチに赤い林檎がポツンと置かれてあった。わざとらしく堂々と。
「誰がこんなものを置いたんだ?」
 俺は林檎を手に取って持ち上げた。綺麗な赤色だった。
「禁断の果実……まさかな」
 俺はそれを思いっきりフルスイングして遠く彼方へと投げ飛ばした。
「ふん、あんなものに頼ろうとするなんてどうかしてる」
 俺はそう言って校門を出た。



 その頃、エマが投げ飛ばした林檎は転がり、形は全く崩れていなかった。そして、偶然通りかかった通行人がその林檎を見つけて、それを拾い上げるとそれを開けた口の中へ…… 。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...