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1章 魅力
1.5
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「いらっしゃいませ」
若い女性は入ってきた自分より遥かに大きく眼帯をした男を怖がることなく笑顔で接した。
「ヘクター様ですね。ようこそいらっしゃいました。どうぞ奥へ」
店員に案内され奥のテーブルへ向かう。その間のテーブル席ではいい歳した男が鼻の下を伸ばしながら若い女の太ももを擦っている。その手はどんどん女の股に近づいている。ヘクターはそれ以上は見なかった。逆にガン見していたらその客に睨まれ面倒なことになるからだ。だから、この店に入ったらまずキョロキョロしないのがルールだ。暗黙の了解であり、だからこそ客は安心して店に来れる。
奥のテーブル席には妖艶な女性が待っていた。
「いらっしゃいヘクター様。どうぞこちらへ」
案内されたヘクターはその女の隣を座った。そのテーブル席にはもう一人の客人がいた。まるで葬式から直行してきたかのような黒いスーツでだ。
「何故戻ってきた」
「ジェクターに会う為かな」
「あらやだ」
そう言いながらグラスにお酒を注いでヘクターの前に置いた。それは赤い色をしていた。
「冗談言ってる場合じゃないぞ。それになんだ、戻ったかと思えば悪趣味な屋敷に住むとは」
「勿論あのまま使うつもりはない。リフォームぐらいはするさ」
「そういうことを言ってるんじゃない。どうかしてるぞ」
「かもな。それよりだ、こっちの情報を出す前にそっちから出せ。まずはあのマイソンについてだ。遺体は回収し解剖されたんだろ? で、何か分かったのか?」
「まぁ、まずは飲め」
そう言われヘクターはとりあえず酒を口にした。それを見ながら聞かれた男はさっきの質問に答える。
「やはりあの男は禁断の果実を口にしていたよ。果実を口にした者は呪われる。その呪いは金を運んだが、その結果金が原因で奴は死ぬことになったわけだ。一見したら果実なんか無くてもと思うかもしれんが、奴はそもそも人見知りの性格だった」
「人見知り? あんなに派手にやりたいようにやってた男がか?」
「そうだ。果実は人を変えちまうんだ。結果、奴は本当に変わった。確かに金持ちや理想の為に変わりたいと思っている人間はいるだろうが、これは決して比喩なんかじゃない。俺は思うんだ、あれは本当にマイソンだったのかってね……」
「そりゃどういう意味だよ」
「人格を乗っ取られたんじゃないかって」
「それだけ聞いたらオカルト過ぎて信じられないな。だが、禁断の果実が実在する限り、可能性は否定出来ないわけか。そもそも禁断の果実はなんなんだ」
「それはこっちが知りたいぐらいだ。まだ分からないことだってあるんだ。さぁ、こっちは話したぞ。次はそっちの番だ」
「グラにはいなかった」
「ちゃんと探したのか」
「探したさ。それも情報屋を複数人使ってね。でも駄目だ。全くなかった。奴の生まれ育った土地も行ったさ。でも、そこはとっくに無人で民家はどれも長年放置状態。生活感は全くなかった。奴が行くとしたらそこだろうと思ったんだが」
「情報屋はあてになるのか?」
「問題はそこじゃねぇ。いっさい痕跡がないってのが問題だ。何もない方が不自然だ。いくら仮に買収を疑ってもそれはあり得ないことぐらいあんたは分かっている筈だ。それとも俺を疑うか?」
「今更疑いはせん。しかし、奴は確かにグラへ入国したんだろ」
「そうだ。それは間違いない。だからおかしいんだ。まるで神隠しのように消えちまった」
「一緒にいたあの少女はどうだ?」
「少女も行方不明だ」
黒服は舌打ちした。
「手掛かりゼロとは予想外だ」
「だから俺は一旦この国に戻ってきた。分かるだろ? グラにいないならこの国しかないと考えるのが妥当だ」
「何故だ。何故戻る?」
「さぁな」
頬杖をつきながら探している男の名を口にする。
「ティル……お前は本当にどこへ行っちまったんだ」
若い女性は入ってきた自分より遥かに大きく眼帯をした男を怖がることなく笑顔で接した。
「ヘクター様ですね。ようこそいらっしゃいました。どうぞ奥へ」
店員に案内され奥のテーブルへ向かう。その間のテーブル席ではいい歳した男が鼻の下を伸ばしながら若い女の太ももを擦っている。その手はどんどん女の股に近づいている。ヘクターはそれ以上は見なかった。逆にガン見していたらその客に睨まれ面倒なことになるからだ。だから、この店に入ったらまずキョロキョロしないのがルールだ。暗黙の了解であり、だからこそ客は安心して店に来れる。
奥のテーブル席には妖艶な女性が待っていた。
「いらっしゃいヘクター様。どうぞこちらへ」
案内されたヘクターはその女の隣を座った。そのテーブル席にはもう一人の客人がいた。まるで葬式から直行してきたかのような黒いスーツでだ。
「何故戻ってきた」
「ジェクターに会う為かな」
「あらやだ」
そう言いながらグラスにお酒を注いでヘクターの前に置いた。それは赤い色をしていた。
「冗談言ってる場合じゃないぞ。それになんだ、戻ったかと思えば悪趣味な屋敷に住むとは」
「勿論あのまま使うつもりはない。リフォームぐらいはするさ」
「そういうことを言ってるんじゃない。どうかしてるぞ」
「かもな。それよりだ、こっちの情報を出す前にそっちから出せ。まずはあのマイソンについてだ。遺体は回収し解剖されたんだろ? で、何か分かったのか?」
「まぁ、まずは飲め」
そう言われヘクターはとりあえず酒を口にした。それを見ながら聞かれた男はさっきの質問に答える。
「やはりあの男は禁断の果実を口にしていたよ。果実を口にした者は呪われる。その呪いは金を運んだが、その結果金が原因で奴は死ぬことになったわけだ。一見したら果実なんか無くてもと思うかもしれんが、奴はそもそも人見知りの性格だった」
「人見知り? あんなに派手にやりたいようにやってた男がか?」
「そうだ。果実は人を変えちまうんだ。結果、奴は本当に変わった。確かに金持ちや理想の為に変わりたいと思っている人間はいるだろうが、これは決して比喩なんかじゃない。俺は思うんだ、あれは本当にマイソンだったのかってね……」
「そりゃどういう意味だよ」
「人格を乗っ取られたんじゃないかって」
「それだけ聞いたらオカルト過ぎて信じられないな。だが、禁断の果実が実在する限り、可能性は否定出来ないわけか。そもそも禁断の果実はなんなんだ」
「それはこっちが知りたいぐらいだ。まだ分からないことだってあるんだ。さぁ、こっちは話したぞ。次はそっちの番だ」
「グラにはいなかった」
「ちゃんと探したのか」
「探したさ。それも情報屋を複数人使ってね。でも駄目だ。全くなかった。奴の生まれ育った土地も行ったさ。でも、そこはとっくに無人で民家はどれも長年放置状態。生活感は全くなかった。奴が行くとしたらそこだろうと思ったんだが」
「情報屋はあてになるのか?」
「問題はそこじゃねぇ。いっさい痕跡がないってのが問題だ。何もない方が不自然だ。いくら仮に買収を疑ってもそれはあり得ないことぐらいあんたは分かっている筈だ。それとも俺を疑うか?」
「今更疑いはせん。しかし、奴は確かにグラへ入国したんだろ」
「そうだ。それは間違いない。だからおかしいんだ。まるで神隠しのように消えちまった」
「一緒にいたあの少女はどうだ?」
「少女も行方不明だ」
黒服は舌打ちした。
「手掛かりゼロとは予想外だ」
「だから俺は一旦この国に戻ってきた。分かるだろ? グラにいないならこの国しかないと考えるのが妥当だ」
「何故だ。何故戻る?」
「さぁな」
頬杖をつきながら探している男の名を口にする。
「ティル……お前は本当にどこへ行っちまったんだ」
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