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第二章
03 作戦
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サヤカはコナーズから言葉、国の通貨、文化、暮らしに必要な日常的知識、歴史を教わっていた。最近は殺しをしておらず勉強ばかりだが、退屈はしなかった。例えば歴史で言えば、地理的に周辺国よりかは早くに独裁から民主主義へと変わっている。それによる変化の違いは経済で明らかになっている。独裁国家での投資より、民主主義であるこの国の方が投資が高く、成長もその分早い。一旦は成長が鈍化したものの、周辺国に比べれば裕福さは上位に位置する。問題は周辺国との貿易より更に遠い国での貿易の利益分は高いものの輸送コストを考えると、この世界はまだ飛行機や沢山のコンテナが乗る貨物船のない技術ではまだどうしようもなさそうだ。新しい大統領就任でも当面は厳しい状況だと思うが、政治的には大きな失敗をしているという感じは実のところしない。新たな技術、産業の投資に対する成果にまだ時間がかかっているといったところではないのか。
今後は輸送のスピード、生産性をどれだけ上げるかにかかっている。大量生産が可能になれば、再びこの国は成長していけるかもしれない。その上で新しい大統領は手腕が試される。正直、経済や国の貧富は政治次第だ。
ただ、一つだけ不確定要素をあげるとしたらやはり能力者の存在だろう。国を滅ぼす力はそれだけで脅かす。国が、世界が能力者の確保に力を入れるのも無理はなかった。
アメリカのようなヒーロー映画にある能力者の登場はその存在だけで治安を脅かすのだ。
だからこそペック大統領はイノベーション政策(新しい技術、考えの取り入れ強化)や、不正や癒着に対する潔癖、能力者に対抗する新たな部隊の新設に力を入れている。その実効性によって下院の選挙結果に左右される。
私は政治とか得意というわけではないから、個人的に気にするのはやはり自分に直接関係する能力者対抗の新たな部隊だろう。能力者の首に爆弾を付けて支配する。なんて酷いと思ったが、彼らはそれだけ能力者を憎み、恐れているのだろう。
私にはどうにも出来ないレベルだ。しかも、よりによって滅ぼしたのが同じ日本人なのだから。
それから2時間くらい勉強した。その後で一旦トイレ休憩をし、再び部屋に戻る途中で蜘蛛の巣野郎のアール・リップに会った。彼の元にはおかしな銃や武器ばかりが集まる。実戦はともかくコレクション集めの趣味ということらしい。一週間前なんかはソードピストルが届いていた。勿論、コレクションとしてだろう。
彼は私の顔を見るなり何か喋ってきたが、意味が通じないので日本語で「は?」と言って通り過ぎた。
幹部になってから、私はミケルセンの『主なき城』の一室に住み着いている。部屋が多すぎてたまに迷子になる。雑用の使用人の他、護衛も住み込みだ。
今は本部から来た能力者対抗部隊が私とミケルセンを狙っていることから、ミケルセンも私をそばに置いておきたいのだろう。これが終わったら、城から離れて住みやすい家に住みたいところだ。
◇◆◇◆◇
その日の夜は静かだった。不気味な程に。その暗闇に忍び寄る死を宣告に来た目出し帽に全身黒色の男女5人が城へ近づく。城周辺には見張り台に銃を持ったミケルセンの部下達がいる。そいつらが次々と森の方から狙撃される。
5人は裏口に回り込み、扉の鍵穴部分を銃で撃ち抜き、鍵を破壊すると扉が開き、5人全員が中へと侵入しだした。
夜中の奇襲、ターゲットが眠りについている内であれば能力が使われる心配がない、そう判断したのだろう。本当ならスパイを潜り込ませ隊員が使用人に扮し毒を仕込むという案も考えたが、ミケルセンを騙すのは難しい。奴に気づかれでもしたら、むしろ利用して人質にするなり情報を吐き出させる為に拷問を仕掛けるだろう。ウインチェスター警部は最終的に能力者を使い夜中に奇襲をしかけることにした。
そして、侵入した5人はターゲットの部屋を探し回る。
探し回りながら一人の男が異変に気づいた。
「おかしい……」
城の中は誰も護衛らしき人が見当たらなかったからだ。
その直後だった。
城のそこら中仕掛けられてあった爆弾が遠隔操作で起動した。
城は爆発し、燃え盛った。
その様子を警察はウインチェスター警部に報告する。
「突然、城が大爆発しました」
「何をやっているんだあいつらは。これじゃ遺体の確認が出来ないじゃないか」
「待って下さい。5人が城に潜入してまだ10分もしていないのにあれだけの爆発」
「最初から仕込まれていたのか!? だが、何故作戦がバレた?」
ウインチェスターは部下達をマジマジと見渡した。裏切り者を探し回る獣のように鋭い眼光を向け、だがいないと分かると、考えられるのはサヤカの能力ということになる。だとしたら俺達はどうなる?
「撤退だ」
ウインチェスター警部がそう命令を下した直後、テントの外で銃声が聞こえた。その中に混じってミニガンの独特の音が聞こえてきた。
「マジか……」
ミニガンの乱射にテントはズタズタに穴をあけ、ウインチェスターの全身に弾を受け血が飛び散った。
即死だった。
ミニガンを撃ったのはリップだった。
実のところ奇襲はサヤカの殺してきた能力者の過去の追体験から作戦は知られていた。だからこそミケルセンにとって都合が良かった。連中は自分達を襲いに自ら現れに来る。それを狙う。それがミケルセンの作戦だった。
作戦は見事に上手くいった。能力者はあの城ごと爆殺した。サヤカのように不死身でなければだが、そもそも不死身なら爆弾を恐れたりはしない筈だ。その時点で連中は負けが確定していた。サヤカは不死身だから。
◇◆◇◆◇
「海を見るとサーフィンをしたくなる。サーフィンはしたことは?」
スケルトン署長は首を横に振った。
今、署長とミケルセンは浜辺にいた。ミケルセンの新たな隠れ家が近くにある。
「まさか、あの城を爆破させるなんて。良かったのか?」
「『主なき城』と呼ばれた時点であの城の目的は失っていた。俺が住むことで、あの城は裏社会の象徴になると思ったが、やはり違った」
「そうなのか?」
「それより、残りの女警部はどうした? 何故一緒じゃなかった?」
「それなら今度こそ本部に戻っていったよ。ウインチェスター警部が殉職した以上本部は彼女に戻るよう命令するしかない。任務は失敗となる。女性の方は必死に本部相手に説得していたが、警察というのは命令遵守だ。命令には逆らえんよ」
「能力者の遺体は見つかったか?」
「分からない。丸焦げで判別不可能だ。今度遺体を確認したいなら火はよしてくれ。あと顔はな」
「ああ。それで、おたくらは今回で懲りたのか?」
「暫くは何も起きないだろう。言えるのはそれぐらいだ」
「……分かった」
◇◆◇◆◇
……数日前。
『主なき城』で爆発の衝撃で吹き飛ばされ気を失って、それから意識を取り戻した黒髪の女は瓦礫をどかしながら起き上がった。名は美玲という。首輪が外れていることに気づき、自分は自由になったと気づいた。他の四人は死んでいる。自分だけがまた生き残ったんだ。
なら、なんとか生き延びなきゃ。まだ、死にたくない。
彼女はその後、『失楽園の湿地帯』と呼ばれる地へ向かった。
今後は輸送のスピード、生産性をどれだけ上げるかにかかっている。大量生産が可能になれば、再びこの国は成長していけるかもしれない。その上で新しい大統領は手腕が試される。正直、経済や国の貧富は政治次第だ。
ただ、一つだけ不確定要素をあげるとしたらやはり能力者の存在だろう。国を滅ぼす力はそれだけで脅かす。国が、世界が能力者の確保に力を入れるのも無理はなかった。
アメリカのようなヒーロー映画にある能力者の登場はその存在だけで治安を脅かすのだ。
だからこそペック大統領はイノベーション政策(新しい技術、考えの取り入れ強化)や、不正や癒着に対する潔癖、能力者に対抗する新たな部隊の新設に力を入れている。その実効性によって下院の選挙結果に左右される。
私は政治とか得意というわけではないから、個人的に気にするのはやはり自分に直接関係する能力者対抗の新たな部隊だろう。能力者の首に爆弾を付けて支配する。なんて酷いと思ったが、彼らはそれだけ能力者を憎み、恐れているのだろう。
私にはどうにも出来ないレベルだ。しかも、よりによって滅ぼしたのが同じ日本人なのだから。
それから2時間くらい勉強した。その後で一旦トイレ休憩をし、再び部屋に戻る途中で蜘蛛の巣野郎のアール・リップに会った。彼の元にはおかしな銃や武器ばかりが集まる。実戦はともかくコレクション集めの趣味ということらしい。一週間前なんかはソードピストルが届いていた。勿論、コレクションとしてだろう。
彼は私の顔を見るなり何か喋ってきたが、意味が通じないので日本語で「は?」と言って通り過ぎた。
幹部になってから、私はミケルセンの『主なき城』の一室に住み着いている。部屋が多すぎてたまに迷子になる。雑用の使用人の他、護衛も住み込みだ。
今は本部から来た能力者対抗部隊が私とミケルセンを狙っていることから、ミケルセンも私をそばに置いておきたいのだろう。これが終わったら、城から離れて住みやすい家に住みたいところだ。
◇◆◇◆◇
その日の夜は静かだった。不気味な程に。その暗闇に忍び寄る死を宣告に来た目出し帽に全身黒色の男女5人が城へ近づく。城周辺には見張り台に銃を持ったミケルセンの部下達がいる。そいつらが次々と森の方から狙撃される。
5人は裏口に回り込み、扉の鍵穴部分を銃で撃ち抜き、鍵を破壊すると扉が開き、5人全員が中へと侵入しだした。
夜中の奇襲、ターゲットが眠りについている内であれば能力が使われる心配がない、そう判断したのだろう。本当ならスパイを潜り込ませ隊員が使用人に扮し毒を仕込むという案も考えたが、ミケルセンを騙すのは難しい。奴に気づかれでもしたら、むしろ利用して人質にするなり情報を吐き出させる為に拷問を仕掛けるだろう。ウインチェスター警部は最終的に能力者を使い夜中に奇襲をしかけることにした。
そして、侵入した5人はターゲットの部屋を探し回る。
探し回りながら一人の男が異変に気づいた。
「おかしい……」
城の中は誰も護衛らしき人が見当たらなかったからだ。
その直後だった。
城のそこら中仕掛けられてあった爆弾が遠隔操作で起動した。
城は爆発し、燃え盛った。
その様子を警察はウインチェスター警部に報告する。
「突然、城が大爆発しました」
「何をやっているんだあいつらは。これじゃ遺体の確認が出来ないじゃないか」
「待って下さい。5人が城に潜入してまだ10分もしていないのにあれだけの爆発」
「最初から仕込まれていたのか!? だが、何故作戦がバレた?」
ウインチェスターは部下達をマジマジと見渡した。裏切り者を探し回る獣のように鋭い眼光を向け、だがいないと分かると、考えられるのはサヤカの能力ということになる。だとしたら俺達はどうなる?
「撤退だ」
ウインチェスター警部がそう命令を下した直後、テントの外で銃声が聞こえた。その中に混じってミニガンの独特の音が聞こえてきた。
「マジか……」
ミニガンの乱射にテントはズタズタに穴をあけ、ウインチェスターの全身に弾を受け血が飛び散った。
即死だった。
ミニガンを撃ったのはリップだった。
実のところ奇襲はサヤカの殺してきた能力者の過去の追体験から作戦は知られていた。だからこそミケルセンにとって都合が良かった。連中は自分達を襲いに自ら現れに来る。それを狙う。それがミケルセンの作戦だった。
作戦は見事に上手くいった。能力者はあの城ごと爆殺した。サヤカのように不死身でなければだが、そもそも不死身なら爆弾を恐れたりはしない筈だ。その時点で連中は負けが確定していた。サヤカは不死身だから。
◇◆◇◆◇
「海を見るとサーフィンをしたくなる。サーフィンはしたことは?」
スケルトン署長は首を横に振った。
今、署長とミケルセンは浜辺にいた。ミケルセンの新たな隠れ家が近くにある。
「まさか、あの城を爆破させるなんて。良かったのか?」
「『主なき城』と呼ばれた時点であの城の目的は失っていた。俺が住むことで、あの城は裏社会の象徴になると思ったが、やはり違った」
「そうなのか?」
「それより、残りの女警部はどうした? 何故一緒じゃなかった?」
「それなら今度こそ本部に戻っていったよ。ウインチェスター警部が殉職した以上本部は彼女に戻るよう命令するしかない。任務は失敗となる。女性の方は必死に本部相手に説得していたが、警察というのは命令遵守だ。命令には逆らえんよ」
「能力者の遺体は見つかったか?」
「分からない。丸焦げで判別不可能だ。今度遺体を確認したいなら火はよしてくれ。あと顔はな」
「ああ。それで、おたくらは今回で懲りたのか?」
「暫くは何も起きないだろう。言えるのはそれぐらいだ」
「……分かった」
◇◆◇◆◇
……数日前。
『主なき城』で爆発の衝撃で吹き飛ばされ気を失って、それから意識を取り戻した黒髪の女は瓦礫をどかしながら起き上がった。名は美玲という。首輪が外れていることに気づき、自分は自由になったと気づいた。他の四人は死んでいる。自分だけがまた生き残ったんだ。
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