異世界で『殺し屋』

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第二章

01 本部

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 最近、ミケルセンの新たな拠点『主なき城』に来客が訪れるようになった。どうやら前回のフレッチャーとの抗争から調子のついたミケルセンは更に他のファミリーを攻撃しては縄張りを拡大してからというもの、ミケルセンに逆らおうという組織はめっきりいなくなり、むしろミケルセンに気に入って貰おうという連中がわざわざ足を運び新たな拠点祝いと拡大を祝しに高い酒やプレゼントを持って現れに来ていたのだ。そんな中には市警の署長の姿もあった。サヤカが言うには署長はミケルセンが裏社会に目を光らせているおかげでむしろイカれ野郎が激減し、警察の捜査協力にも情報を流し、関係はむしろ密接になっていた。署長にとってミケルセンは話しの分かる男だと思っているようだが、ミケルセンに上手いこと利用されていることを署長はまだ気づいていないとのことらしい。ミケルセンのことだから、署長の弱みを既に掴んだに違いない。それ以外の汚職警官も何人かはミケルセンが手を回し証拠隠滅に協力しているし、違法捜査はミケルセンの部下がやって警察はその情報を得る。犯人逮捕なら手段を選ばなくなってきている。だが、ミケルセンは更に姑息で、金持ちの坊っちゃんがやらかして身代わりを求め大金をミケルセンに回し、身代わりを警察に引き渡されているとは、恐らくはまだ気づいていないだろう。気づいたとしてミケルセンにどう足掻く? 署長は既に真っ黒だ。身代わりと分かったまま送検するしかない。
 一度不正に手を出せば、引き返すことはもう出来ない。手を出した時点で、その手はもう引っ込められない。それでも、大勢がミケルセンの罠にまんまと引っ掛かるのだ。
 ミケルセンは賢く、相手を誘い込むことには長けている。高い酒、女、小道具は全て揃っている。じっくり相手を調理し、裏切った時には死体が皿に乗っかるだけだ。大切な人の頭部が乗った皿を当人に見せ、次はお前だと言えば、ようやく自分の立っている場所に相手は気がつく。
 そうやって人脈を築き皇帝へと徐々に上り詰める。サヤカの狙いはその玉座。全てを引きずり出し、闇を光のもとに照らす。その時、世間はサヤカをどう評価するのだろうか。



◇◆◇◆◇



 署長のスケルトンは嫌な汗を流していた。突然、連絡もなく本部から人が二人派遣されたからだ。こちらが呼んだわけではないので、本部判断で署長である自分に知らせずにされたとあれば何かあると思うのは当然だった。いや、むしろやましいことがあるからこそだが、なんとか冷静を装う必要があった。
「連絡ミスか?」
 スケルトンはその可能性を二人に訊いた。二人とも若く警部だ。一人は金髪の長身の男性、もう一人は同じく金髪の女性。当たり前だがスーツ姿に女性はオールバックで、男性は短髪だ。身長は男性の方が数センチ高い。男は180はあるだろう。
「いいえ、署長。連絡ミスではありません。私達が来ることは事前に知らせていません」
「どうしてそのような事を?」
 その時、デスクの上にあった電話が鳴り出した。
 すると、男はこう言った。
「恐らくは私の上司からかと」
 つまり、電話に出ろと。スケルトンは受話器を取り、それを耳に当てた。
 電話は彼の言う通り首都にある本部からだった。
 電話を終えたスケルトンは受話器を戻す。
「君の上司と話をした。ミケルセン逮捕の為、こちらも捜査協力をする」
「ありがとうございます」
「それと、電話にあった特殊対策機動捜査隊は君達の所属ということになるのか?」
「はい。私達の所属で間違いありません」
「しかし、君達が挨拶の時に言った所属は監察官だった筈……」
「私達の任務にそれも含まれます」
「兼任? そんなことあるのか? いや、それより特殊対策機動捜査隊なんて所属は聞いたことがないぞ」
「特殊対策機動捜査隊は異世界人の脱走や能力者の逮捕、捜査を目的に今年から導入された所属になります」
「能力者……例の日本人か」
「そうです。ご存知の通り、一つの国を滅ぼしたのも同じ日本人。人物は違いますが侮れないかと。懸賞金もフレッチャーとの抗争で上がっています。賞金首はその日本人を狙っていますが、全て返り討ちにあったと聞いています」
「分かっているなら話は早い。能力者を捕まえるのは我々では無理だ。君達でもね。唯一、能力者に対抗出来るとしたらそれは同等かそれ以上の能力者に限る。しかし、私達にはそんな真似は出来ないし、権限もない。君達もだ。いや、警察にそんな権限はない。それとも、私の知らない間に法律が変わったのかな?」
「大統領が許可しました」
「まさか!?」
 大統領ということはペックが!? しかし、そんな事があり得るのか?
「その所属はつまり、能力者を使って能力者を狩る組織ということか」
「はい」
「バカバカしい。能力者を私達一般人がどうやって従わせる? 裏切られるだけだぞ。それに国際的にはどうなんだ。理解されるのか?」
「むしろ、警察や政府が日本人を野放しにしていることに国際的非難があります。それにどう従わせるかと聞かれましたが」
 男はそう言いながら自分の首を指差した。
「協力的な能力者には首輪をつけます。裏切れば爆発します。無理に外そうとしても同じく爆発します」
「首輪か……まるでペットだな」
「ええ、彼らは従順なペットです。飼い慣らし訓練させた対能力者用警察犬だとお思い下さい」
「何か間違いでも起きたら私は責任を取れんぞ」
「その点につきましてはご心配に及びません。むしろ、私達のもう一つの目的、通報によればこの署内の警察官の中にミケルセンの組織メンバーと深い関わりがあるとか……そちらの責任についてご心配された方が宜しいかと」
 スケルトンは唾を飲み込んだ。
「通報だと?」
「はい。匿名の通報です」
「そのようなことは万に一つもない」
「私達もそう思いたいです」
 通報者は誰だ? 今すぐミケルセンに二人を消させるか? だが、そんなことをすれば本部はより怪しく見るだろう。本部が署の警官を疑っているのは間違いない。問題はその通報はどこまで喋られたものなのか。まさか、自分のことまで……そうなれば終わりだ。かと言って、あの二人が話せば分かるとは思えない。どうしたものか…… 。可能性としては、その出来たてホヤホヤの新部署がサヤカに返り討ちにあってその二人も死んでくれれば、時間稼ぎは出来る筈だ。確か、フレッチャーが雇った能力者を殺してから、他の能力者もサヤカを狙って現れては返り討ちにし殺してきたと聞いた。話が本当なら、問題はないか?



◇◆◇◆◇



 その頃、サヤカはナイフを持った20代くらいの男を相手にしていた。男のナイフを避け、ナイフは空を切った。そこにサヤカは銃で彼の腹を撃った。白いシャツが真っ赤になり、男は悲鳴をあげた。その時、ナイフが転がり落ちる。
「あんた死神って言われてるんだっけ? ターゲットを殺すまで自分は無敵状態になり、相手が死ぬまで強運はあんたに回ってくる。おかげで、私は沢山死んだよ」
「お、お前……死なないとか卑怯だろ、それ」
「私が死ぬまであんたは無敵状態のまま。どうしようかって思ったけど、あんたが私を殺したと認識した時点であんたの無敵状態が解けるなら、攻略のしようがある」
 サヤカのそばには同じサヤカの遺体が転がっていた。
「あんたも、もう少し長生きできたら、その能力ももっと強くなってたと思うよ。でも、残念」
「よ、よしてくれ……」
「ダメ」

 パンッ!

 地下道で銃声が響いた。遺体が増えサヤカは現場から早歩きで去った。
 近くでコナーズが待機していて「大丈夫か?」と訊いたので、サヤカはそれに頷いた。そこからコナーズがミケルセンに報告する。
「終わった」
「ご苦労。これで何人目だ?」
 何人と言うのは能力者を殺った数のことだ。
「8人目」
「意外に多いな」
「少し違和感がある。いくら能力者が脱走して私を狙うにしても多すぎる。誰かが糸を引いているようにしか思えない。一週間前は三人同時だった。頻度も異常」
「何かある……軍か?」
「分からない」
「こちらも探りはいれているが情報屋が役立っていなくてね。あと数日はかかるだろう」
「分かった」
 コナーズは受話器を戻した。
「最近能力者が多いな。何かあるのか?」
「さぁ? ……ただ、それとは関係ないけど、私が初めて能力者を殺した時」
「フレッチャーに雇われた女か。それがどうした?」
 サヤカは頷いた。
「あの人を殺した時にだけ、あの女の過去を夢で見なかった。他の能力者なら夢に出たのに」
「殺した人間の過去を見てたら気がおかしくならないか? 一度カウンセリングを受けた方がいい」
「私は大丈夫。精神科医が出す薬に頼りたくない」
「別に薬に頼らなくたっていいだろ」
「私はまだおかしくない。それよりどう思う?」
「遺体を確認したんだろ?」
 サヤカは頷いた。
「なら、死んだんだろ」
「……」
「まさか、あの女が君みたいに生き延びてるとか言うんじゃないだろうな」
「可能性がある」
「……なら、その女はまた君を殺しに来るのか?」
「分からない。でも、フレッチャーは死んだ。あの女はフレッチャーの命令に従ってただけなら、もうないと思うけど……」
 それは正直分からなかった。



◇◆◇◆◇



 二日後。ミケルセンはサヤカとコナーズを呼び出した。能力者が連続してサヤカを襲いに来た原因を突き止めたのだ。流石はミケルセン。仕事が早い。
 書斎でミケルセンはマッチに火をつけ葉巻にじっくり火を通す。煙草と違い葉巻に火をつけるにもやり方があるようで、それによっても味が微妙に変わるんだとか。葉巻を知らない私達にはよく分からないことだが。
「署長に訊いたら直ぐに吐いたぞ。どうやら本部から面倒なのが派遣されたらしい。そいつらは俺を捕まえたがっている。ついでに署長の首もだ。本部では物騒な部隊まで出来たそうだ。サヤカ、お前に対抗すべく能力者を使った部隊だそうだ」
「……」
 コナーズは「しかし、どうやって」と訊いた。
「首輪さ。爆発する首輪で命令違反や逃亡したら首がドカーンといくらしい」
 コナーズはサヤカに「殺した能力者の首に何かついてたか? 爆弾の首輪がされていたと言うが」と訊いた。
「ああ……確かに殺した女性は首にマフラーしたり襟のある服で首が隠れてたかも。あと、長い髪とか。殺した死神の男の首も何かついてた。あまり気にしなかったけど、あれ爆弾なんだ。そうまでして私を殺したいってこと?」
「君は有名人だからな。この国でも懸賞金は一番だ。だが、そうなると一つ心配事が」
 コナーズはミケルセンの方を向く。
「警察は賞金首を匿っている理由でその本部が逮捕状を持ってここに現れに来たりするんじゃないのか?」
「先生、心配には及ばないよ。ここは要塞だ。それなりの武装で覚悟持って来なきゃ逮捕状はここまで届かない」
「それは逆に、いざとなったら警察と戦争でもするということか?」
「どうだろうな。そうはならないと思うが? 署長もあの市警の警官達も俺に弱みを握られている以上、ここへの突入は避けようとするよな」
「本部の連中はどうするつもりだ?」
「お帰りいただく」
「何か考えが?」
 ミケルセンは答えなかった。その沈黙をコナーズは悟った。
「もう、何かしたんだな」
「家族の目玉を送った。写真と一緒に」
 酷いと思った。と同時にそれがミケルセンでもある。それを忘れてはならない。
 サヤカは何かを悟り、ミケルセンの裾を引っ張り「行くよ」と言った。コナーズはそれに返事をした。
 葉巻の臭いからとりあえず私達は離れた。
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