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第一章
06 裏
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山奥にひっそりと佇む城がある。タロン・ミケルセンは邸宅をフレッチャーの部下達に襲撃をされた以降、新たな拠点をそこに移した。元々は狩猟に適した場所を求めた貴族が建てた城であり、完成する前にこの国が民主主義国家となって貴族達に与えられた特権も廃止され、主がこの城に住むことは結局叶わなかった。故に『主なき城』とも呼ばれたりしたが、後に売りに出された城をタロン・ミケルセンは買い取り、この城の主となっていた。
その城にはコナーズとサヤカも一緒だった。ミケルセンが二人をこの城に招待したからだ。理由は3つある。1つは、フレッチャーが持っていた縄張りを手に入れ範囲拡大に成功したことのお祝いパーティ。2つ目は、コナーズに戦い方を教える為に格闘戦術と、銃の扱い方を叩き込む為。そこでは色んな銃を持たせたり、例えば今日なんかは5.56mm小銃を使って森の奥で撃ちまくっている。3つ目はミケルセンの個人的な用事、サヤカはその護衛としてだった。
ミケルセンは香りの立つお茶を飲みながら目の前に座るスーツ姿にサスペンダーの太った男を見た。彼の額には汗が流れており、それを何度もハンカチで拭っている。よっぽどミケルセン相手に緊張しているのだろう。そのそばにサヤカとアール・リップとレイフ・アボットが壁際に立って彼をじっと見ていた。来客の男は大統領選出馬のノーブルの秘書だった。正直、彼はこの仕事を断りたかった筈だ。彼が来たのは言うまでもなく選挙結果についてだ。大統領選、何が起こるか分からないと言われる一大イベントで終盤接戦を繰り広げた結果、ペックが当選した。最初はリードしていたノーブルだったが、最後の最後にペックに大逆転を許してしまったのだ。
「正直に言いますと私は信じておりませんが、ノーブル氏は選挙に負けた一因があなたにあるのではないかと疑っているようでして。ノーブル氏に不都合な情報がいきなりマスコミが報じた点、あなたなら息のかかったマスコミを抑え込むことが出来た筈だと言っていまして」
「それから?」
「ノーブル氏には分からない点が一つだけあると。ペックは銃規制派であり、あなたにとっては不都合な筈だと。ノーブル氏は銃規制には否定的な立場です。だからこそ、あなたが裏切る理由が分からないと。私達は互いに利害関係で一致していた筈です」
「そうだな……銃規制は正直意味がないと思う。現に銃の違法改造は今に始まった話ではない。昔から続いていることだ。例えば、最近ではフルオートに改造された銃をぶっ放して遊ぶのが流行っているらしいが、フルオートだって昔からあった。銃規制がどこまで出来るかは懐疑的だ。選挙戦でも銃規制についてより経済についての方が国民に響いていた」
「しかし、あなたがフレッチャーと銃撃戦をした結果、銃規制に対する関心が高まったのは事実です」
「あれはフレッチャーが仕掛けたことだ」
「では、マスコミにアレが流れたのは何故です?」
「ああ、アレか。未成年とやっちまった件か?」
そう言いながらミケルセンは微笑する。
「俺が一番嫌いなことを教えてやる。卑怯者とロリコンだ」
「では最初から!?」
「ああ、そうだ。選挙で最初にリードを見せ、夢を見せてから逆転出来るギリギリまで接戦に持ち込み、最後は逆転。ロリコンは落選というわけだ。分からないなら教えてやる。この国のトップにロリコンは不要だ。死んでもゴメンだね」
「最初からそのつもりで我々に接触してきたと言うんですか」
「そうだ。奴には大統領の椅子より刑務所がお似合いだ」
「店を紹介したのはあなただ。外に決して漏れないと」
「ああ、そうだったか?」
「約束と違う。それも証拠をつくる為の罠だって言うなら、あなたも終わりだ」
「いいや。トカゲの尻尾切りと同じだ。俺には届かない。決してな」
「信用を失ってもか」
「あの店の信用か? 気にするな。そもそもやる気なんてなかった。それにフレッチャーの部下が店を襲ったおかげで店仕舞いのタイミングも早くについたしな」
「あなたはロビイストにはなれない」
「なるつもりはない。俺の居場所はここだ。ここがホームだ。それに、お前達はどうせ俺を裏切る。方法は単純だ。フレッチャーを使う。奴にとっては俺は不都合だからな。勝手に潰し合ってくれれば直接手を汚す必要もない。フレッチャーの連中が俺達の持っているルート以外で銃を持ち込めたのは何故だ? 連中が現れたのはノーブルが市長をしていた市の港からだ。偶然か? 情報屋が簡単に我々を裏切ったのは何故か? 情報屋は私ではなくフレッチャーに乗り換えたのはフレッチャーを裏で支えてるのが次期大統領だったらどうだ?」
「考え過ぎでは?」
「そう思うか?」
「想像でしかない」
「証拠はある」
「そんな!?」
「警察は驚くだろうな。フレッチャーがどうやって武器を持ち出せだか」
「わ、私は止めた。でも」
「でも、止められなかった」
「……」
「単純な話、自分の邪魔をする者を排除する。気に入らない者もだ。それは変わらない。今もな。奴もそうだった。それだけの話だ。大統領になったら、自分の弱点は潰しておきたいだろう」
「私は殺されるのか?」
「仲間が何人も死んだ。ノーブルを止められなかったのは秘書として失態だ」
そう言って立ち上がり銃口を彼に向けた。そして、額にむけ引き金を引いた。
銃声は一発。彼の額からは血が流れ出た。
◇◆◇◆◇
たまに、終わらない夜が来るんじゃないかって思う時がある。ミケルセンは油断出来る相手ではない。今日味方でも明日敵になるかもしれない。あれを見てしまっては。
数日後、逮捕され拘留中だったノーブルが死亡した。死因は不明。何故なら公表された死因はアテにならないからだ。そして、世間はそれを知ることはない。表にいる限りは。知らないほうがいいこともある。知った時は、自分は既にそっち側に踏み込んだことになるからだ。
その城にはコナーズとサヤカも一緒だった。ミケルセンが二人をこの城に招待したからだ。理由は3つある。1つは、フレッチャーが持っていた縄張りを手に入れ範囲拡大に成功したことのお祝いパーティ。2つ目は、コナーズに戦い方を教える為に格闘戦術と、銃の扱い方を叩き込む為。そこでは色んな銃を持たせたり、例えば今日なんかは5.56mm小銃を使って森の奥で撃ちまくっている。3つ目はミケルセンの個人的な用事、サヤカはその護衛としてだった。
ミケルセンは香りの立つお茶を飲みながら目の前に座るスーツ姿にサスペンダーの太った男を見た。彼の額には汗が流れており、それを何度もハンカチで拭っている。よっぽどミケルセン相手に緊張しているのだろう。そのそばにサヤカとアール・リップとレイフ・アボットが壁際に立って彼をじっと見ていた。来客の男は大統領選出馬のノーブルの秘書だった。正直、彼はこの仕事を断りたかった筈だ。彼が来たのは言うまでもなく選挙結果についてだ。大統領選、何が起こるか分からないと言われる一大イベントで終盤接戦を繰り広げた結果、ペックが当選した。最初はリードしていたノーブルだったが、最後の最後にペックに大逆転を許してしまったのだ。
「正直に言いますと私は信じておりませんが、ノーブル氏は選挙に負けた一因があなたにあるのではないかと疑っているようでして。ノーブル氏に不都合な情報がいきなりマスコミが報じた点、あなたなら息のかかったマスコミを抑え込むことが出来た筈だと言っていまして」
「それから?」
「ノーブル氏には分からない点が一つだけあると。ペックは銃規制派であり、あなたにとっては不都合な筈だと。ノーブル氏は銃規制には否定的な立場です。だからこそ、あなたが裏切る理由が分からないと。私達は互いに利害関係で一致していた筈です」
「そうだな……銃規制は正直意味がないと思う。現に銃の違法改造は今に始まった話ではない。昔から続いていることだ。例えば、最近ではフルオートに改造された銃をぶっ放して遊ぶのが流行っているらしいが、フルオートだって昔からあった。銃規制がどこまで出来るかは懐疑的だ。選挙戦でも銃規制についてより経済についての方が国民に響いていた」
「しかし、あなたがフレッチャーと銃撃戦をした結果、銃規制に対する関心が高まったのは事実です」
「あれはフレッチャーが仕掛けたことだ」
「では、マスコミにアレが流れたのは何故です?」
「ああ、アレか。未成年とやっちまった件か?」
そう言いながらミケルセンは微笑する。
「俺が一番嫌いなことを教えてやる。卑怯者とロリコンだ」
「では最初から!?」
「ああ、そうだ。選挙で最初にリードを見せ、夢を見せてから逆転出来るギリギリまで接戦に持ち込み、最後は逆転。ロリコンは落選というわけだ。分からないなら教えてやる。この国のトップにロリコンは不要だ。死んでもゴメンだね」
「最初からそのつもりで我々に接触してきたと言うんですか」
「そうだ。奴には大統領の椅子より刑務所がお似合いだ」
「店を紹介したのはあなただ。外に決して漏れないと」
「ああ、そうだったか?」
「約束と違う。それも証拠をつくる為の罠だって言うなら、あなたも終わりだ」
「いいや。トカゲの尻尾切りと同じだ。俺には届かない。決してな」
「信用を失ってもか」
「あの店の信用か? 気にするな。そもそもやる気なんてなかった。それにフレッチャーの部下が店を襲ったおかげで店仕舞いのタイミングも早くについたしな」
「あなたはロビイストにはなれない」
「なるつもりはない。俺の居場所はここだ。ここがホームだ。それに、お前達はどうせ俺を裏切る。方法は単純だ。フレッチャーを使う。奴にとっては俺は不都合だからな。勝手に潰し合ってくれれば直接手を汚す必要もない。フレッチャーの連中が俺達の持っているルート以外で銃を持ち込めたのは何故だ? 連中が現れたのはノーブルが市長をしていた市の港からだ。偶然か? 情報屋が簡単に我々を裏切ったのは何故か? 情報屋は私ではなくフレッチャーに乗り換えたのはフレッチャーを裏で支えてるのが次期大統領だったらどうだ?」
「考え過ぎでは?」
「そう思うか?」
「想像でしかない」
「証拠はある」
「そんな!?」
「警察は驚くだろうな。フレッチャーがどうやって武器を持ち出せだか」
「わ、私は止めた。でも」
「でも、止められなかった」
「……」
「単純な話、自分の邪魔をする者を排除する。気に入らない者もだ。それは変わらない。今もな。奴もそうだった。それだけの話だ。大統領になったら、自分の弱点は潰しておきたいだろう」
「私は殺されるのか?」
「仲間が何人も死んだ。ノーブルを止められなかったのは秘書として失態だ」
そう言って立ち上がり銃口を彼に向けた。そして、額にむけ引き金を引いた。
銃声は一発。彼の額からは血が流れ出た。
◇◆◇◆◇
たまに、終わらない夜が来るんじゃないかって思う時がある。ミケルセンは油断出来る相手ではない。今日味方でも明日敵になるかもしれない。あれを見てしまっては。
数日後、逮捕され拘留中だったノーブルが死亡した。死因は不明。何故なら公表された死因はアテにならないからだ。そして、世間はそれを知ることはない。表にいる限りは。知らないほうがいいこともある。知った時は、自分は既にそっち側に踏み込んだことになるからだ。
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