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第1章 アルカディア
05 アルカディア
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松居のことは昔からよく知っている。
俺が出会う前のあいつは家にこもってゲームやアニメばかりしていた。口髭はその当時はもっと伸びていて、だらしがなかった。
パソコンのあるデスクの横には食べ終わったカップラーメンのゴミが山のように積まれてあった。
しかし、ある意味では彼がパソコンに興味を持ち、それから色々な知識を持つようになったきっかけではあった。それが彼のその後の人生を大きく変えた。
「昔のゲームは良かった」
彼は俺にそう言った。まるで、オッサンが口にしそうな昔を恋しがり若僧には理解出来ないだろうと言わんばかりの、若い人からは嫌われそうな言葉を平気で口にしていた。しかし、それは俺の前だから抵抗なく言えたんだろう。
俺も昔の作品は好きだった。
それから、彼はなんと自分でゲームを作り始めた。友人も集め、大作を作り公開した。
そのクオリティーの高さから、彼は後に技術者への道を歩み始めた。
AIゼウスの開発者と知り合った松居は、俺と共にAIの研究を始めるようになる。
AI事態はその前から松居は興味があったようで、その時から俺より知識があった。
研究者としての地位も俺より早く上がっていったが、途中、あいつはまたしても俺よりも早くに美女に出会い結婚する。
今までたいした運動もせず、偏食だったあいつが結婚したと報告を受けた時は祝福よりもショックの方が大きかった。
いい仲だが、勝手にライバル視していた俺はまたしてもここで敗北を知った。
あいつは俺よりうまく人生を歩んでいただろう。
たいした努力もしたわけでもないのに、学力は優秀。ゲームも天才。研究者も俺より上。まさに、俺から見たら人生の成功者だった。
だが、それを言われるのをあいつは嫌った。
「もう一度口にしたら絶交だからな」
そんな簡単な理由で長い関係を断ち切るのか? と思ったが、奴は冗談で絶交という言葉を使う男ではないのを知っていたから、俺も気をつけるようにした。
多分、俺は松居以外に長い関係を持った人がいないから、人間関係のうまい付き合い方に鈍感になっていたんだろう。
なら、俺に女性がつかないのも納得か。
相手の女性は羨ましいぐらいに絶世の美女だった。大袈裟ではなく、事実だ。何故、あんな男にそんな女性を口説けたのか知りたかったが、数年後、あいつの口から「あちらから僕に声を掛けてくれたんだ。でなきゃ、付き合うこともなかったと思う。僕からいく勇気はなかったからな」と告げた。それには彼には失礼だが納得出来た。
松居は結婚した後、ダイエットを始めた。
あの、松居がダイエットを!? と驚いたが、彼は本当にダイエットを成功させた。
痩せた彼の肉体には筋肉までついていた。眼鏡もやめ、コンタクトにまでし、話し方も賢そうに早口になった。
その変化には流石に驚愕したが。
奥さんは、同じ技術者だった。職場は違うが、奥さんはAIゼウスの技術チームだった。
対して、松居はAIアースの研究チームだった。
同じAIの分野だが、そこには見えない溝、もしくは壁があるように俺は感じた。
だが、二人の関係は良好だった。
そのまま幸せにいくんだろうと思った。もう既に、俺も子供のようにやきもちやくことはなくなっていた。むしろ、見守る感じだった。
しかし、幸せは何故か続かなかった。
AIゼウスからアースにまだ移行していなかった古いタイプのAI介護用ロボットが事故を起こしたのだ。
松居の奥さんはショックを受けていた。自分が育ててきた我が子のようなゼウスが人を殺してしまったことに。
それから当然のようにゼウスから完全に社会はアースに切り替えを完了させた。
ゼウスは凍結されたが、AIの研究においてはまだ価値があると松居は説得し、研究を続ける許可を上に求めた。
しかし、アースの研究者である松居が同時にゼウスの研究を行うのは明らかに業務上手一杯だった。それを見て上の判断は松居の要請を許可しなかった。
アースも激務を推奨せず、上はそれに従って判断した。
確かに、健康状態、精神面を気遣えば、当然の判断だったのだろう。松居もアースの研究を降りるわけにはいかなかった。
松居は仕方なく、奥さんをとにかく支えることに集中した。
「なにも責任を全部抱える必要はない」
背中を擦る松居は立派な夫の姿だった。
確かに、自分達が育てたAIは自分の子供のように感じる者もいる。それだけ愛情を注いでいるし感じている。確かに、我々が相手にするのは生き物ではない。しかし、AIが成長していくのを子供が成長するようにとらえる者はいる。
自分の作品が我が子に感じるのは色んなジャンルでも言えるのではないのか。
だからこそ、ショックを感じるのは分かるし、自分の作ったものに対し責任を感じるのも分かる。
だが、奥さんは明らかに自分を追い詰め過ぎていた。
アースはそんな奥さんに精神的に鬱状態であり、病院に行くよう勧めた。私も勧め、夫である松居も勧めた。
奥さんが最終的に決断したのは、技術者をやめることだった。
実はAIアースのチームからは奥さんへ誘いの言葉があったのだが、それも断ることにした。
松居は奥さんの考えを尊重した。
それからは奥さんも精神面で回復する兆しが見えてきた。
それを見てホッとしたが、そんな中、あるニュースが飛び込んできた。
大規模なテロ、そして死者が報じられ、主犯の名前が出た。
橘楓。
それを聞いた時、私も松居もハッとした。
橘……聞いた苗字だ。忘れる筈がない。その名は、AIゼウスが起こした事故で死者が出たその被害者の苗字だったからだ。
橘楓の犯行動機は、AIアースを狙った犯行だった。
つまり、AIを彼女は憎んでいたわけだ。AIによって祖母が殺されたことが彼女のきっかけになったのは聞くまでもないだろう。
それが忘れようとした、乗り越えようとした、また、いつもの暮らしをしようとした、罪、罪、罪、罪罪罪罪罪……おそらく、奥さんの心が再び不安定になったのはそれがきっかけだったんだろう。
奥さんは夫に相談せず、自殺した。
「彼女は最後まで責任感を持った女性だった。優しい彼女のことだ、橘楓のことを考えたんだろう」
松居は研究に熱心になった。それでなんとか自分の心を騙そうとしていた。
だが、辛いという感情は此方からは見え見えだった。
彼が成功したダイエットも、気づけば元の体型に戻っていた。
「あれ、今日は眼鏡?」
「ああ、あれね……やはりコンタクトは合わなかったからやめたんだ」
元に戻った彼。やはり、相当なショックだったんだろう。
橘楓については、死刑が宣告され、あの若さで死刑囚となった。
彼女のしたことは許されることではない。
しかし、世間一般の感情と事情を知る我々とでは大きな差があった。
更にそれから数年後。
その橘楓がなんとアースが鍵人として選んだ。
どうも橘とは不思議な縁を感じる。
「本気なのか?」
俺は同じく知った松居に聞いた。内心、心配していた。
だが、奴は俺の想定外な返答をした。
「うーん、こればかしは不満がないわけじゃあない。ただ、イレギュラーなことが発生したのは事実だ。そして、その対処方法を我々は考えてはこなかった。しかし、例え考えていたとしても、最終的にこの決断に至ったと思うよ」
これが、あの事故を知らない者が答えるなら、それでも違和感はあるが、意外と冷静な答えとなるだろう。いや、ならないか。
正直、彼はショックで記憶喪失でもなったのか?
俺は確認の為に聞いてみた。まず、橘の犯罪の話しに触れた。
でも、まるで他人事のように、いち研究者として徹していた。
だから、俺もそれに付き合った。
あれが彼なりの自己防衛なのか。自分に嘘をつき演じることが。
普通なら、大抵戸惑う。何故アースが……と。因縁に感じる筈だ。
だが、最後に奴が俺に残したメッセージを見るからに、あいつは最後までゼウスについて、事故について知らべていたんだ。
俺の知らないところで、あいつは一人で…… 。
だが、それが結果として松居は何かにたどり着きそうなところまでいった。
それは確実だろう。
このやり方は一番松居が苦しかった筈だ。自分の奥さんとの辛いことまで思い出してしまうだろう。だが、あいつは裏では逃げなかった。
それは何故か?
信じていたからじゃないのか。自分を愛してくれた人を、自分が愛した人を。
◇◆◇◆◇
松居の葬式が終わった。
俺は悲しみで苦しかった。
まさか、こんなかたちでお前ともう会えなくなるなんて思いもしなかった。
出会いがあれば別れもある。
人は、色んな人と出会う。未来、どんな人に出会うか分からない。いい奴ばかりとも限らない。悪い奴も出てくるだろう。俺はもうお前以上の友人と出会えそうにない。だが、悪い奴とは会ってみたいものだ。
俺はお前を殺した奴を絶対に許さない。
俺が会いたい悪い奴はそいつだ。
◇◆◇◆◇
その頃、高層ビル最上階では派手な赤いスーツを着た男が苛立ちながら、つかえない男からの報告を受け、対応の指示を出し終えたところだった。
アースに現在エラーが出ている以上、そろそろあちらから連絡が入る筈だ。
そう男が予想していると、本当に連絡がきた。
直ぐに出た。
「もしもし」
「お久しぶり、諏訪氏。お元気?」
「お久しぶりです、エルさん。私は元気ですよ。エルさんは?」
「お互い、健康でなにより。やはり、不健康では満足な仕事は出来ないでしょ? だからこうして確かめに連絡をしたの。分かるでしょ?」
「問題ありません」
「いやいやいや、問題は山積みだ諏訪氏。此方はそちらの状況を逐一把握している。だからこうして連絡を入れている。諏訪氏、君の優秀さを買ってるんだ。あまり失望させるなよ」
「そのように全力を尽くしている」
「宜しい。では、また近いうちに。その時は直接会うことになるだろう」
それは例のユートピアの鍵人と同行してやってくる話しだ。
「その時をお待ちしております」
すると、電話は切れた。
分かっている、言われなくても。
米国は常に立場を上にしたいのだ。いつの時でも自分達がトップであることに拘る。プライドの高い国だ。だからこそ、此方にプレッシャーをかけるつもりで電話をよこしてきたことも、分かりやすい行動パターンだ。
だが、全然嬉しくない。
あの女が言うように問題は山積みだ。だが、必ずさばき切ってみせる。せっかくこの地位まで上り詰めたんだ。
「おい」
諏訪がそう言うと、開いていた窓から黒いローブ姿の魔女が現れた。
「お前が中途半端に仕事するせいで、処理が面倒になった。アースを使うわけにはいかない。後は分かるな」
魔女はコクリと頷くと、窓から姿を消した。
魔女、それは昔からその存在が確認されていた。歴史によって様々な姿をし、時には薬を調合し医者のように人々を治療し、時に占いをした。しかし、想像するようなファンタジーな世界ではなかった。
だが、諏訪が関係を持つ魔女はそのファンタジーな魔女だった。
彼女は魔法が使える。空を飛び、時に突然現れたり。姿が消えることも。
諏訪は日本で唯一、魔女とコンタクトがとれた。
そして、諏訪は知っている。あの魔女がどこから現れたのかを。そう、あの魔女は此方側の人間ではなかった。
地球は丸い。地球は青かった。では、何故地球は丸いのか? 宇宙はどんな形をしているのか? 地球も丸いのだから、宇宙も丸いのだろうか? では、その外側はどうなっているのか?
諏訪は知っていた。
宇宙は丸かった。宇宙の外側には別の宇宙が存在した。仮に此方の宇宙をAとすると、外側の宇宙はBと仮定する。AはBに干渉出来ないが、BはAに干渉することができる。
つまり、Bの外側がCと過程するならば、Aはどの宇宙にも干渉出来ないが、CはBとAに干渉できる。
問題は、Aが一番立場が弱いということになる。最弱な宇宙がAとなり、他の宇宙の奴隷化されるかもしれない。
しかし、宇宙と宇宙の境界は何らかの壁となり、容易には行き来が出来るわけではない。あくまでも繋がっているわけではない。
それでも何らかの手段で干渉がAに対しBもCも出来るということになる。
問題は最弱な宇宙がどれかになる。この宇宙がAと決まったわけじゃあない。しかし、B以上の宇宙からやってきた魔女は、魔女のいる世界から見ればこの宇宙の位は下に位置することになる。そして、我々の宇宙はまだ自分達より下の宇宙を見つけられないでいる。
今、分かっている世界は3つだ。魔女よりも上の宇宙。つまり、此方側からしてみれば二つ上の宇宙になる。
魔女のいる世界はその3つ目の世界から干渉を受ける被害が出ていた。
魔女はそれをどうにかしたく、我々の世界にコンタクトをとったのだ。干渉とは違うかたちで。
つまり、お互い助け合おうということだ。
AIアースによって自動化された社会を築けたのはその魔女の世界のおかげでもあった。AI事態は此方の世界の技術に間違いなかったが、それによって膨大な電力が必要になった。その電力を生み出しているのが、アルカディアやユートピアや他の理想郷の名がついた発電施設だった。その技術は此方側の世界の技術ではない。未だに謎の多い技術が使われており、いくら此方側が学ぼうにも、解明にはかなりの時間が必要だった。
無論、誰もこんなことは知らない。あちら側も、此方とのコンタクトは最低限にすることでリスク回避しようとしている為、私にしかコンタクトをとっていない。
むしろ、此方側もそうしてもらたい話しだ。
コンタクトと簡単に言っても、実際には壁をぶち破ってコンタクトをとるわけだから、その影響は地震や環境の変化など、様々な影響を及ぼしている。それは地球に関わらず、他の星、宇宙全体に影響を与えていた。
困った話しで、出来るだけ影響を及ぼさないよう安定したコンタクトを取る為に時間がかかった。
AIアースの情報処理能力とあちら側の技術のポットを利用して、安定化になんとかこぎつけたが、ある時、事故が発生した。
コンタクトの最中、アルカディアの電力が不安定になったのだ。
原因は直ぐに判明した。
初代アルカディアの女王、つまり鍵人の余命が近づいていた為に、電力が不安定化は続いてはいたが、それでも停電になる程ではなかった。が、その時に限ってアースの消費電力が高くなったタイミングとアルカディアの一番不安定なタイミングが重なり、電力供給が不足し、電力優先順位が低かったAIゼウスに不具合が生じてしまったのだ。
しかし、ほとんどはアースに移行していた為に当初は被害も少ないと想定されていた。
が、実際には死者が出てしまった。まだ、AIゼウスを使用していた介護用ロボットの不具合が一人の老人の命を奪ってしまったのだ。
それが、橘であった。
世間にはAIゼウスの問題として処理し、完全にAIアースへの移行を公約としてあげた。事実を知らない世間一般はその公約を支持し、実際に支持率が下がることはなかった。
まさか、その後で橘楓が大事件を起こすとは思わなかったが。
◇◆◇◆◇
宇宙人はいるのか? 実際には実在した。しかし、皆が想像するようなUFOに乗ってこの地球にやってくるのとは違った。この広い宇宙でどこかの星に生物がいる可能性はずっと否定出来ないでいた。だからこそ、可能性を考える人々が現れた。だが、実際にはこの地球がある宇宙とは違う宇宙にそれは存在した。いや、この宇宙にも生物が地球以外に存在しないと決まったわけではない。
宇宙人の可能性は考えても、この宇宙が他にも存在することまでは宇宙人のことを考えるよりも圧倒的に考えた人は少ないのではないのか。
まさか、そんな別宇宙から技術を教わることになるとは誰も想定出来なかっただろう。
だが、デジタルが進み人々は昔よりも効率よく、更には生産性を上げてきた今の社会では大量の電力を必要とし、その電力が我々人類にとって欠かせない存在になっていた。人間が食べ物を必要とするように電力も必要だった。
もし、電力が世界規模で失われたら人間はいったいどれだけの死者を出すことになるのだろうか。
災害で一時的に停電になった日本や他の国々では過去にあったが、日本の場合大抵は復旧作業が行われ、電力を取り戻すと、人はとりあえずは安心する。
だが、長期的に電力を失ったらどうなっていただろうか? それが、世界規模となれば。
世界で人口を増やし、長生き出来る社会になったのは、原始的な暮らしから人々が進化していったからだろう。
もし、人々が再び原始的な暮らしに戻るとしたら、いったいどれだけの人口を減らすことになるのか。
電力は必要不可欠だ。特に今の社会、ほぼ自動化、機械によって社会が動いているとしたら、それらが全てストップしたら、まず、食料や水に困ることになるだろう。治安も悪くなり、医療もストップすることになる。
その電力を補う発電施設は重要だが、環境問題から脱火力発電への方向性に各国が協力して動いても、再生可能エネルギーでは既に電気に依存した社会では到底足りなかった。よって、原子力発電の依存した社会になるのだが、原子力発電所の事故がトラウマとなっている人々にとって原子力に頼らない発電が求められていた。
その解決策がまさか、他の宇宙からの技術提供だったとは、誰も知らないだろう。
アルカディアや他の理想郷が機密であるのは、なにも安全保障上の理由だけではない。もっと単純な話し、我々の人類の技術ではないからだ。それを隠したかった為だ。
結局、理想郷の名がついた発電施設以上のものを我々人類は発明出来なかった。
そもそも、此方側の問題、電力不足の解決方法が宇宙人から技術援助されたものだったなんて、誰も信じたくはないだろう。
アルカディア内部にはコンタクトを安定化させる為に使ったポットと似たものがあり、それによって鍵人、アルカディアとリンクさせることができる。
アルカディアは此方の世界の技術ではない為、それを使うにはあちら側の人間でしか出来ない。鍵人はつまり、あちら側の人間になる為の変換である。
その為にはあちら側の大量の黒い液体、血液とのことらしいが、それを鍵人候補にプール一杯分を体に入れなければならない。
その際、適合者でなければその途中で死亡してしまう。
適合、不適合はAIアースが既に所有している個人データから選び出すようになっている。
抽選で勝ち取った最上階に住む諏訪は大きなため息をついた。
自分は幸運だと思っている。この時代に生まれたこと、人間に生まれたこと、そして自分の優秀さに、ここまでつかめた地位に。他の人よりかは明らかにトントン拍子にいった人生だ。そんな人生で挫折したことがあると言ったらそれは嘘になる。挫折というのは絶望だ。絶望はどう足掻いても這い上がれないからこそ絶望なのだ。
今後も挫折なく人生を謳歌したい。
その為ならなんだってするつもりだ。この地位を簡単には奪われたりするものか。
数の限られた椅子取りゲームで常に勝者で居続けるには、人を蹴落とす残虐性がなければ勝者であり続けることは出来ない。みすみす一度勝ち取った椅子をフェアに挑戦者と勝負する気はない。そこまで私の心は綺麗ではない。そして、どの人間の心も綺麗とは言えない。なら、私の行為を責められる人間はいないだろう。ボクシングのルールがなければ成立しない競技と違い、私の立っているリングでは私がルールだ。勝者がルールを決める。挑戦者は常に不利な戦いを強いられる。それが私の望んだ環境だ。誰にも、勝者にさせるわけにはいかない。常に、私がオンリーワンでなければならない。邪魔者は早々に退場してもらわなければ。それもミスなく徹底的に。
俺が出会う前のあいつは家にこもってゲームやアニメばかりしていた。口髭はその当時はもっと伸びていて、だらしがなかった。
パソコンのあるデスクの横には食べ終わったカップラーメンのゴミが山のように積まれてあった。
しかし、ある意味では彼がパソコンに興味を持ち、それから色々な知識を持つようになったきっかけではあった。それが彼のその後の人生を大きく変えた。
「昔のゲームは良かった」
彼は俺にそう言った。まるで、オッサンが口にしそうな昔を恋しがり若僧には理解出来ないだろうと言わんばかりの、若い人からは嫌われそうな言葉を平気で口にしていた。しかし、それは俺の前だから抵抗なく言えたんだろう。
俺も昔の作品は好きだった。
それから、彼はなんと自分でゲームを作り始めた。友人も集め、大作を作り公開した。
そのクオリティーの高さから、彼は後に技術者への道を歩み始めた。
AIゼウスの開発者と知り合った松居は、俺と共にAIの研究を始めるようになる。
AI事態はその前から松居は興味があったようで、その時から俺より知識があった。
研究者としての地位も俺より早く上がっていったが、途中、あいつはまたしても俺よりも早くに美女に出会い結婚する。
今までたいした運動もせず、偏食だったあいつが結婚したと報告を受けた時は祝福よりもショックの方が大きかった。
いい仲だが、勝手にライバル視していた俺はまたしてもここで敗北を知った。
あいつは俺よりうまく人生を歩んでいただろう。
たいした努力もしたわけでもないのに、学力は優秀。ゲームも天才。研究者も俺より上。まさに、俺から見たら人生の成功者だった。
だが、それを言われるのをあいつは嫌った。
「もう一度口にしたら絶交だからな」
そんな簡単な理由で長い関係を断ち切るのか? と思ったが、奴は冗談で絶交という言葉を使う男ではないのを知っていたから、俺も気をつけるようにした。
多分、俺は松居以外に長い関係を持った人がいないから、人間関係のうまい付き合い方に鈍感になっていたんだろう。
なら、俺に女性がつかないのも納得か。
相手の女性は羨ましいぐらいに絶世の美女だった。大袈裟ではなく、事実だ。何故、あんな男にそんな女性を口説けたのか知りたかったが、数年後、あいつの口から「あちらから僕に声を掛けてくれたんだ。でなきゃ、付き合うこともなかったと思う。僕からいく勇気はなかったからな」と告げた。それには彼には失礼だが納得出来た。
松居は結婚した後、ダイエットを始めた。
あの、松居がダイエットを!? と驚いたが、彼は本当にダイエットを成功させた。
痩せた彼の肉体には筋肉までついていた。眼鏡もやめ、コンタクトにまでし、話し方も賢そうに早口になった。
その変化には流石に驚愕したが。
奥さんは、同じ技術者だった。職場は違うが、奥さんはAIゼウスの技術チームだった。
対して、松居はAIアースの研究チームだった。
同じAIの分野だが、そこには見えない溝、もしくは壁があるように俺は感じた。
だが、二人の関係は良好だった。
そのまま幸せにいくんだろうと思った。もう既に、俺も子供のようにやきもちやくことはなくなっていた。むしろ、見守る感じだった。
しかし、幸せは何故か続かなかった。
AIゼウスからアースにまだ移行していなかった古いタイプのAI介護用ロボットが事故を起こしたのだ。
松居の奥さんはショックを受けていた。自分が育ててきた我が子のようなゼウスが人を殺してしまったことに。
それから当然のようにゼウスから完全に社会はアースに切り替えを完了させた。
ゼウスは凍結されたが、AIの研究においてはまだ価値があると松居は説得し、研究を続ける許可を上に求めた。
しかし、アースの研究者である松居が同時にゼウスの研究を行うのは明らかに業務上手一杯だった。それを見て上の判断は松居の要請を許可しなかった。
アースも激務を推奨せず、上はそれに従って判断した。
確かに、健康状態、精神面を気遣えば、当然の判断だったのだろう。松居もアースの研究を降りるわけにはいかなかった。
松居は仕方なく、奥さんをとにかく支えることに集中した。
「なにも責任を全部抱える必要はない」
背中を擦る松居は立派な夫の姿だった。
確かに、自分達が育てたAIは自分の子供のように感じる者もいる。それだけ愛情を注いでいるし感じている。確かに、我々が相手にするのは生き物ではない。しかし、AIが成長していくのを子供が成長するようにとらえる者はいる。
自分の作品が我が子に感じるのは色んなジャンルでも言えるのではないのか。
だからこそ、ショックを感じるのは分かるし、自分の作ったものに対し責任を感じるのも分かる。
だが、奥さんは明らかに自分を追い詰め過ぎていた。
アースはそんな奥さんに精神的に鬱状態であり、病院に行くよう勧めた。私も勧め、夫である松居も勧めた。
奥さんが最終的に決断したのは、技術者をやめることだった。
実はAIアースのチームからは奥さんへ誘いの言葉があったのだが、それも断ることにした。
松居は奥さんの考えを尊重した。
それからは奥さんも精神面で回復する兆しが見えてきた。
それを見てホッとしたが、そんな中、あるニュースが飛び込んできた。
大規模なテロ、そして死者が報じられ、主犯の名前が出た。
橘楓。
それを聞いた時、私も松居もハッとした。
橘……聞いた苗字だ。忘れる筈がない。その名は、AIゼウスが起こした事故で死者が出たその被害者の苗字だったからだ。
橘楓の犯行動機は、AIアースを狙った犯行だった。
つまり、AIを彼女は憎んでいたわけだ。AIによって祖母が殺されたことが彼女のきっかけになったのは聞くまでもないだろう。
それが忘れようとした、乗り越えようとした、また、いつもの暮らしをしようとした、罪、罪、罪、罪罪罪罪罪……おそらく、奥さんの心が再び不安定になったのはそれがきっかけだったんだろう。
奥さんは夫に相談せず、自殺した。
「彼女は最後まで責任感を持った女性だった。優しい彼女のことだ、橘楓のことを考えたんだろう」
松居は研究に熱心になった。それでなんとか自分の心を騙そうとしていた。
だが、辛いという感情は此方からは見え見えだった。
彼が成功したダイエットも、気づけば元の体型に戻っていた。
「あれ、今日は眼鏡?」
「ああ、あれね……やはりコンタクトは合わなかったからやめたんだ」
元に戻った彼。やはり、相当なショックだったんだろう。
橘楓については、死刑が宣告され、あの若さで死刑囚となった。
彼女のしたことは許されることではない。
しかし、世間一般の感情と事情を知る我々とでは大きな差があった。
更にそれから数年後。
その橘楓がなんとアースが鍵人として選んだ。
どうも橘とは不思議な縁を感じる。
「本気なのか?」
俺は同じく知った松居に聞いた。内心、心配していた。
だが、奴は俺の想定外な返答をした。
「うーん、こればかしは不満がないわけじゃあない。ただ、イレギュラーなことが発生したのは事実だ。そして、その対処方法を我々は考えてはこなかった。しかし、例え考えていたとしても、最終的にこの決断に至ったと思うよ」
これが、あの事故を知らない者が答えるなら、それでも違和感はあるが、意外と冷静な答えとなるだろう。いや、ならないか。
正直、彼はショックで記憶喪失でもなったのか?
俺は確認の為に聞いてみた。まず、橘の犯罪の話しに触れた。
でも、まるで他人事のように、いち研究者として徹していた。
だから、俺もそれに付き合った。
あれが彼なりの自己防衛なのか。自分に嘘をつき演じることが。
普通なら、大抵戸惑う。何故アースが……と。因縁に感じる筈だ。
だが、最後に奴が俺に残したメッセージを見るからに、あいつは最後までゼウスについて、事故について知らべていたんだ。
俺の知らないところで、あいつは一人で…… 。
だが、それが結果として松居は何かにたどり着きそうなところまでいった。
それは確実だろう。
このやり方は一番松居が苦しかった筈だ。自分の奥さんとの辛いことまで思い出してしまうだろう。だが、あいつは裏では逃げなかった。
それは何故か?
信じていたからじゃないのか。自分を愛してくれた人を、自分が愛した人を。
◇◆◇◆◇
松居の葬式が終わった。
俺は悲しみで苦しかった。
まさか、こんなかたちでお前ともう会えなくなるなんて思いもしなかった。
出会いがあれば別れもある。
人は、色んな人と出会う。未来、どんな人に出会うか分からない。いい奴ばかりとも限らない。悪い奴も出てくるだろう。俺はもうお前以上の友人と出会えそうにない。だが、悪い奴とは会ってみたいものだ。
俺はお前を殺した奴を絶対に許さない。
俺が会いたい悪い奴はそいつだ。
◇◆◇◆◇
その頃、高層ビル最上階では派手な赤いスーツを着た男が苛立ちながら、つかえない男からの報告を受け、対応の指示を出し終えたところだった。
アースに現在エラーが出ている以上、そろそろあちらから連絡が入る筈だ。
そう男が予想していると、本当に連絡がきた。
直ぐに出た。
「もしもし」
「お久しぶり、諏訪氏。お元気?」
「お久しぶりです、エルさん。私は元気ですよ。エルさんは?」
「お互い、健康でなにより。やはり、不健康では満足な仕事は出来ないでしょ? だからこうして確かめに連絡をしたの。分かるでしょ?」
「問題ありません」
「いやいやいや、問題は山積みだ諏訪氏。此方はそちらの状況を逐一把握している。だからこうして連絡を入れている。諏訪氏、君の優秀さを買ってるんだ。あまり失望させるなよ」
「そのように全力を尽くしている」
「宜しい。では、また近いうちに。その時は直接会うことになるだろう」
それは例のユートピアの鍵人と同行してやってくる話しだ。
「その時をお待ちしております」
すると、電話は切れた。
分かっている、言われなくても。
米国は常に立場を上にしたいのだ。いつの時でも自分達がトップであることに拘る。プライドの高い国だ。だからこそ、此方にプレッシャーをかけるつもりで電話をよこしてきたことも、分かりやすい行動パターンだ。
だが、全然嬉しくない。
あの女が言うように問題は山積みだ。だが、必ずさばき切ってみせる。せっかくこの地位まで上り詰めたんだ。
「おい」
諏訪がそう言うと、開いていた窓から黒いローブ姿の魔女が現れた。
「お前が中途半端に仕事するせいで、処理が面倒になった。アースを使うわけにはいかない。後は分かるな」
魔女はコクリと頷くと、窓から姿を消した。
魔女、それは昔からその存在が確認されていた。歴史によって様々な姿をし、時には薬を調合し医者のように人々を治療し、時に占いをした。しかし、想像するようなファンタジーな世界ではなかった。
だが、諏訪が関係を持つ魔女はそのファンタジーな魔女だった。
彼女は魔法が使える。空を飛び、時に突然現れたり。姿が消えることも。
諏訪は日本で唯一、魔女とコンタクトがとれた。
そして、諏訪は知っている。あの魔女がどこから現れたのかを。そう、あの魔女は此方側の人間ではなかった。
地球は丸い。地球は青かった。では、何故地球は丸いのか? 宇宙はどんな形をしているのか? 地球も丸いのだから、宇宙も丸いのだろうか? では、その外側はどうなっているのか?
諏訪は知っていた。
宇宙は丸かった。宇宙の外側には別の宇宙が存在した。仮に此方の宇宙をAとすると、外側の宇宙はBと仮定する。AはBに干渉出来ないが、BはAに干渉することができる。
つまり、Bの外側がCと過程するならば、Aはどの宇宙にも干渉出来ないが、CはBとAに干渉できる。
問題は、Aが一番立場が弱いということになる。最弱な宇宙がAとなり、他の宇宙の奴隷化されるかもしれない。
しかし、宇宙と宇宙の境界は何らかの壁となり、容易には行き来が出来るわけではない。あくまでも繋がっているわけではない。
それでも何らかの手段で干渉がAに対しBもCも出来るということになる。
問題は最弱な宇宙がどれかになる。この宇宙がAと決まったわけじゃあない。しかし、B以上の宇宙からやってきた魔女は、魔女のいる世界から見ればこの宇宙の位は下に位置することになる。そして、我々の宇宙はまだ自分達より下の宇宙を見つけられないでいる。
今、分かっている世界は3つだ。魔女よりも上の宇宙。つまり、此方側からしてみれば二つ上の宇宙になる。
魔女のいる世界はその3つ目の世界から干渉を受ける被害が出ていた。
魔女はそれをどうにかしたく、我々の世界にコンタクトをとったのだ。干渉とは違うかたちで。
つまり、お互い助け合おうということだ。
AIアースによって自動化された社会を築けたのはその魔女の世界のおかげでもあった。AI事態は此方の世界の技術に間違いなかったが、それによって膨大な電力が必要になった。その電力を生み出しているのが、アルカディアやユートピアや他の理想郷の名がついた発電施設だった。その技術は此方側の世界の技術ではない。未だに謎の多い技術が使われており、いくら此方側が学ぼうにも、解明にはかなりの時間が必要だった。
無論、誰もこんなことは知らない。あちら側も、此方とのコンタクトは最低限にすることでリスク回避しようとしている為、私にしかコンタクトをとっていない。
むしろ、此方側もそうしてもらたい話しだ。
コンタクトと簡単に言っても、実際には壁をぶち破ってコンタクトをとるわけだから、その影響は地震や環境の変化など、様々な影響を及ぼしている。それは地球に関わらず、他の星、宇宙全体に影響を与えていた。
困った話しで、出来るだけ影響を及ぼさないよう安定したコンタクトを取る為に時間がかかった。
AIアースの情報処理能力とあちら側の技術のポットを利用して、安定化になんとかこぎつけたが、ある時、事故が発生した。
コンタクトの最中、アルカディアの電力が不安定になったのだ。
原因は直ぐに判明した。
初代アルカディアの女王、つまり鍵人の余命が近づいていた為に、電力が不安定化は続いてはいたが、それでも停電になる程ではなかった。が、その時に限ってアースの消費電力が高くなったタイミングとアルカディアの一番不安定なタイミングが重なり、電力供給が不足し、電力優先順位が低かったAIゼウスに不具合が生じてしまったのだ。
しかし、ほとんどはアースに移行していた為に当初は被害も少ないと想定されていた。
が、実際には死者が出てしまった。まだ、AIゼウスを使用していた介護用ロボットの不具合が一人の老人の命を奪ってしまったのだ。
それが、橘であった。
世間にはAIゼウスの問題として処理し、完全にAIアースへの移行を公約としてあげた。事実を知らない世間一般はその公約を支持し、実際に支持率が下がることはなかった。
まさか、その後で橘楓が大事件を起こすとは思わなかったが。
◇◆◇◆◇
宇宙人はいるのか? 実際には実在した。しかし、皆が想像するようなUFOに乗ってこの地球にやってくるのとは違った。この広い宇宙でどこかの星に生物がいる可能性はずっと否定出来ないでいた。だからこそ、可能性を考える人々が現れた。だが、実際にはこの地球がある宇宙とは違う宇宙にそれは存在した。いや、この宇宙にも生物が地球以外に存在しないと決まったわけではない。
宇宙人の可能性は考えても、この宇宙が他にも存在することまでは宇宙人のことを考えるよりも圧倒的に考えた人は少ないのではないのか。
まさか、そんな別宇宙から技術を教わることになるとは誰も想定出来なかっただろう。
だが、デジタルが進み人々は昔よりも効率よく、更には生産性を上げてきた今の社会では大量の電力を必要とし、その電力が我々人類にとって欠かせない存在になっていた。人間が食べ物を必要とするように電力も必要だった。
もし、電力が世界規模で失われたら人間はいったいどれだけの死者を出すことになるのだろうか。
災害で一時的に停電になった日本や他の国々では過去にあったが、日本の場合大抵は復旧作業が行われ、電力を取り戻すと、人はとりあえずは安心する。
だが、長期的に電力を失ったらどうなっていただろうか? それが、世界規模となれば。
世界で人口を増やし、長生き出来る社会になったのは、原始的な暮らしから人々が進化していったからだろう。
もし、人々が再び原始的な暮らしに戻るとしたら、いったいどれだけの人口を減らすことになるのか。
電力は必要不可欠だ。特に今の社会、ほぼ自動化、機械によって社会が動いているとしたら、それらが全てストップしたら、まず、食料や水に困ることになるだろう。治安も悪くなり、医療もストップすることになる。
その電力を補う発電施設は重要だが、環境問題から脱火力発電への方向性に各国が協力して動いても、再生可能エネルギーでは既に電気に依存した社会では到底足りなかった。よって、原子力発電の依存した社会になるのだが、原子力発電所の事故がトラウマとなっている人々にとって原子力に頼らない発電が求められていた。
その解決策がまさか、他の宇宙からの技術提供だったとは、誰も知らないだろう。
アルカディアや他の理想郷が機密であるのは、なにも安全保障上の理由だけではない。もっと単純な話し、我々の人類の技術ではないからだ。それを隠したかった為だ。
結局、理想郷の名がついた発電施設以上のものを我々人類は発明出来なかった。
そもそも、此方側の問題、電力不足の解決方法が宇宙人から技術援助されたものだったなんて、誰も信じたくはないだろう。
アルカディア内部にはコンタクトを安定化させる為に使ったポットと似たものがあり、それによって鍵人、アルカディアとリンクさせることができる。
アルカディアは此方の世界の技術ではない為、それを使うにはあちら側の人間でしか出来ない。鍵人はつまり、あちら側の人間になる為の変換である。
その為にはあちら側の大量の黒い液体、血液とのことらしいが、それを鍵人候補にプール一杯分を体に入れなければならない。
その際、適合者でなければその途中で死亡してしまう。
適合、不適合はAIアースが既に所有している個人データから選び出すようになっている。
抽選で勝ち取った最上階に住む諏訪は大きなため息をついた。
自分は幸運だと思っている。この時代に生まれたこと、人間に生まれたこと、そして自分の優秀さに、ここまでつかめた地位に。他の人よりかは明らかにトントン拍子にいった人生だ。そんな人生で挫折したことがあると言ったらそれは嘘になる。挫折というのは絶望だ。絶望はどう足掻いても這い上がれないからこそ絶望なのだ。
今後も挫折なく人生を謳歌したい。
その為ならなんだってするつもりだ。この地位を簡単には奪われたりするものか。
数の限られた椅子取りゲームで常に勝者で居続けるには、人を蹴落とす残虐性がなければ勝者であり続けることは出来ない。みすみす一度勝ち取った椅子をフェアに挑戦者と勝負する気はない。そこまで私の心は綺麗ではない。そして、どの人間の心も綺麗とは言えない。なら、私の行為を責められる人間はいないだろう。ボクシングのルールがなければ成立しない競技と違い、私の立っているリングでは私がルールだ。勝者がルールを決める。挑戦者は常に不利な戦いを強いられる。それが私の望んだ環境だ。誰にも、勝者にさせるわけにはいかない。常に、私がオンリーワンでなければならない。邪魔者は早々に退場してもらわなければ。それもミスなく徹底的に。
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