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4. 仕事
しおりを挟む俺がこの国……ウィグテイル王国、というらしい……に来てから、もうどれくらいになるだろうか。もともと社会人としては少し長めだった黒髪を撫でつけて耳を隠すと、猫耳カチューシャを付けてフードをかぶる。狭い寝台にまだ転がっているレオンを軽く揺さぶると、うめき声が上がった。
「レオン、俺仕事に行ってくるね」
「んん……早いなー、サタは」
「俺は酔っ払いの相手は嫌だからな」
「酔っ払いはまぁ酒臭いけど、頭も財布の紐も緩んでるから気前いいぜ?」
「俺はレオンと違って体力ないから、勃ちが悪い奴も嫌なんだよ」
日が落ちた細い路地をすり抜けるように通ってスラムを抜けて、繁華街の近くまで進む。繁華街まで歩いてあと少し、という薄暗い路地にもたれかかってターゲットを探す。派手な街に辿り着くぎりぎりの、日常と非日常の間のようなところを俺は縄張りにしていた。
若すぎる男はダメだ。そこそこお金をもってそうで、小奇麗で、乱暴そうじゃなくて、できれば体が大きくない男。仕事帰りらしくのんびりと行きかう男たちを眺めていると、中年に差しかかるくらいの狐耳の紳士と目が合った。やや細身で金髪。汚れのないスーツを着ているし羽振りは悪くなさそうだ。
こいつでいいか。にこりと微笑むと、あっという間に声をかけられた。
「坊や。もう日も落ちたのに、1人で歩いてちゃ危ないよ?」
「俺も早く家に帰りたいんだけど、仕事が終わるまで帰れないんだ」
柔和な微笑みを浮かべる狐耳の紳士に、わざとらしく上目遣いで首をかしげる。すると目の奥にちらりと欲が灯るのが分かった。これならいける、と踏んで彼の手を取って路地裏に引っ張り込んだ。
「……こんなに可愛い子が、番も持たないでこんな所にいるなんて嘘みたいだな。いくつ? 成人はしてる?」
「俺もう16歳だよ。大人だよ。それより、5000ペルラで口で気持ちよくしてあげる」
この世界の獣人は総じて背が高くて、女性でも190センチ、男なら2メートル越えがざらにいる。さらに言うと彫りも深くてみんな恐ろしく逞しい。身長170ちょいで平坦顔、中肉中背の俺は12、3歳に見えるらしく、どこへ行っても子ども扱いだ。レオンも最初は俺の方が年下だと思っていたらしい。本当は16歳なんてとっくに過ぎてるけど、実年齢を言っても説明できないから派手にサバを読んでいる。
狐の紳士が少し目を瞬かせながらも、財布から金を取り出すのを見て、俺は彼に抱きつく。体を撫で回していると、彼がだんだん興奮してくるのが分かった。
「5000……でいいのかい?」
「うん、ありがと! あ、それと俺の体も触っていいけど、頭はダメだからね」
にっこりとほほ笑んで渡された金を仕舞い込む。5000ペルラあれば一日の食費と、レオンと折半している家賃ぐらいになる。できればもう一人くらいお客さんを見つけて、貯金に回せるようにしたい。夜更け前には帰れるといいなあ。
ぼんやりとそう思いながら、薄暗い路地で彼の下肢に手を伸ばした。
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