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貞操帯 1

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貞操帯の話
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まだ夜が明けて間もない時間。
朝の静謐な空気が窓辺から漂ってくる。

本当だったら一日のなかで一番爽やかな時間帯なんだろうけど、豪奢な室内には湿った水音と淫靡な空気が流れていた。



「ヒル、ベルト……ぅあ、あ、あ゛っ!」


ベッドの端に座らされて大きく足を開かされ、その足の間にヒルベルトがうずくまっている。
床に膝を付き、私の股間に顔を突っ込んだヒルベルト。
もちろんそれだけじゃなくて、彼の少し厚い唇と長い舌で巧みに口淫をされ、じゅうと音を立てて座れるたびに内ももがびくびく震えた。

嫌だ嫌だと彼の頭を押すけれどその度に私の腰に回された腕がきつくなり、より一層深くまで咥え込まれる。
陰茎が全て飲み込まれてしまうほど深く吸われて、気持ちよさと、それからどうしようもできないもどかしさに涙声が出た。


「ほんとに、もう、出ない……!」


陰茎は緩く勃ち上がっているけれど昨晩だって散々甚振られたんだ。
年寄りではないがそれほど若くもない、しかも元々性的に淡泊だった私はもう射精することができなくて、それでもしつこく繰り替えされる口淫に体を震わせながら泣き声を上げた。

巧みな舌の動きも喉で扱かれることも気持ちいい。
だけど過ぎる快感と終わりのない行為は辛くてしょうがない。

首を何度も横に振っていると、ようやくヒルベルトが顔を上げた。


「そうみたいですね」


そう言いながら彼は至近距離で、じっと、まるで本当にもう出ないのか確かめるように私の性器を見つめた。
それから陰嚢を何度か指先で弄ぶと、立ち上がって濡れた手巾を持って帰ってくる。
少し冷たいそれで唾液に塗れた陰茎を拭われ、私はほっと息を吐いた。


__起きたばかりなのに体が疲れてしょうがない。

ヒルベルトを私の養子にしたのは、つい数週間前のことだ。

平民をいきなり王族に、なんて陰で反発があるかと思ったが、彼は上手くやっているらしい。
庶民の人気が高く、また騎士団でも慕われていて敵の少ない男だと噂で聞いた。

実際に日中に彼と接すると本当に好青年なのだと分かる。
穏やかで礼儀正しく、目上の人は敬い年下を導き、常に公平。
剣術だけが取り柄かと思ったら、教養もあり気遣いもできる。
数年前に出会っていたならローレリーヌに相応しいとすら思ったかもしれない。

だけど日が暮れてこの部屋に入ると……日中の彼はどこへ行ったのだ、あれは仮面だったのかと叫びたいくらいに変貌して私を嬲るのだから訳がわからない。

こんなことをされているなんて誰にも言えないし、『これ』以外には彼に全く不満もない。
夜、この部屋に居るとき以外は本当にこれ以上ないくらい良い青年なんだ。


私の方が年上なのに翻弄されっぱなしだ。

てきぱきと私の服を用意しているヒルベルトを恨みがましく見る。
すると私の視線に気が付いたのか、彼はにっこりと微笑んでこちらへ近づいてきた。



「ああ、そう言えばユーリス様。これが届いたんですよ」

「……これ?」


言いながら彼は小さな木箱を片手で掲げて見せる。
嬉しそうに微笑みながら小さな錠を開けて中身を取り出すと……出てきたのは、つやつやと銀色に光る金具だった。


「思いのほか早く出来上がって良かったです。これで日中も安心できますね」


どこかうっとりと陶酔した顔で笑いながらそう告げるヒルベルト。
だが私はとても微笑み返すことなんてできなかった。

なぜなら、その銀の物体は、もし私の思い違いでなければ……。


「待て、……それって」

「ええ、貞操帯です」


当たり前のように頷いてその貞操帯を指先で持ち上げて一層近寄ってくる。

男性器を包むような形でできたそれ。
陰茎部分は細い銀の檻のようになっていて、勃起をさせないためか下向きに形が固定されている。
陰嚢に通すためだろう輪っかが付いていてそれで体に取り付けるのだと分かった。
先端にはしっかりと穴が空いているから排泄には問題なさそうだが……いや、問題はそこじゃない。

確かに彼は以前『貞操帯を着けさせたい』と言っていた。
だけどまさか本当に用意するなんて普通じゃない。
おかしすぎる。


「さっそく今日から着けてください」

「わ、ちょ……やめ、!」


顔を蒼褪めさせて逃げようとする私にヒルベルトは無情に圧し掛かってくる。
嫌だ。
そんな変態みたいなこと絶対にしない。

だが必死に抵抗する私にヒルベルトはそっと唆すように囁いた。


「ユーリス様、毎晩俺にイかされるのが辛いって言っていましたよね?これを着けてくれたら俺も安心できますし、回数を減らせるかもしれません」


回数が減らせる。


その言葉に私は体の動きをぴたりと止めた。

彼と暮らしだしてから数週間。
当然のように毎晩この部屋にやってきて、私が少しでも射精できそうなら容赦なく搾り取っていく。
もともと自慰も週に1度ほどで十分だった私には今の生活は爛れ過ぎているように思えていて……。


「本当に……?」


唾を飲み込んだ喉が、ごくりと鳴った。









「なんかいやらしい、ですね」


ペニスケージに収められた私の陰茎を指でつつきながら、ヒルベルトは少しにやけたような顔で呟いた。
シャツを羽織り、だが下半身は貞操帯だけという情けない姿だ。


「痛くないですか?重い?」

「いや……少し変な感じはするが……」


ふるふると小さく揺れる陰茎を見ながらヒルベルトが尋ねてくる。
この貞操帯は特注らしくて普通のものよりもずっと軽量だと言っていたが、そもそも普通の貞操帯というものが分からない。
ひんやりとした銀の金具がただ異様な存在感を持って下肢を締め付けていた。


「じゃあ、これからは毎日俺が着けてあげます。もちろん外すのも俺ですからね」


指先ほどの小さな鍵を付けて嬉しそうにそう笑ったヒルベルトは、いつの間にか昼の顔に戻っているようだった。
いまだ夜の囚われている私を置いて。

















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