無聊

のらねことすていぬ

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俺は薬箱を手元に引き寄せると、寝台に座った彼に視線を合わせるように跪く。
この王子のための薬箱がいやに大きい理由が分かった気がする。
前の小姓は、この自分のことに無関心な王子にさぞ苦労したんだろう。

有無を言わせず包帯を取り去り傷口に薬を塗り込むと、彼が眉間に皺を寄せた。


「痛みますか?」

「い、いや、手当してもらって悪い、小姓でもないのに」

「当たり前のことです。たとえ小姓でなくてもそれぐらいはします」


未だに薄っすらと血を滲ませる傷口にきつく包帯を巻きつけていく。
できるだけ丁寧に、肌と同じくらい白い包帯で傷口を覆うと、最後に固く結び目をつくった。


「ありがとう。すごいな。手際もいいし、包帯もこれほど固く結べるのか」

「ご自身で結ぼうとするからです。あれでは馬に乗っていたら解けてきたでしょう」

「そうなんだ、おかげでなかなか血も止まらなかったし……助かったよ」


彼はなぜか嬉しそうに俺の巻きつけた包帯を何度も指先で触る。
そして俺にその綺麗な顔で微笑みかけた。


「…っ、当然のことです」


他意のない笑顔だと分かっているのに、心臓が高鳴る。
この儚げな王子は本当に自分のことが分かっていない。
そんな風に笑いかけられたら___勘違いしてしまう男が後を絶たないだろう。
たとえ彼にその気がなくても、まるで自分に気を許したような、そんな笑顔を見せられたら。

心の中で毒づいて視線を逸らすが、彼はそんな俺の内心に気が付くはずもなく。
それどころか俺を更なる混乱の渦に叩きこんできた。



「その………私も君に触れてもいいか?」


触れる。
その繊細そうな指で、俺の体に?
それは一体どういった意味で?

驚きに固まっている俺の沈黙を了承と捉えたのか、王子がゆっくりと俺の体に腕を伸ばした。


「すごいな。さすがシェイファの男だ。私とは体の造りが違う」


そっと肩から腕をなぞられてぞくぞくとしたものが体を這う。
黙りこくった俺を不機嫌だとでも思ったのか、彼は子供のように無邪気に笑った。


「ああ済まない。鍛え方が違うと言うべきだったかな?」

「いえ……その、王子、」


彼の戯れを止めなければ。
止めなければまずいことになる。
そう思うのに体が動かない。

胸元の筋肉を確かめるように掌が撫で、腹筋を辿る。

そして彼の掌が視線とともに下肢に向けられて___そしてぴくりと跳ねて固まった。




「エリオス、君は……溜まっている、のか?」


彼の視線の先には、欲望に押し上げられた下衣。
明らかに屹立が分かるその姿に、俺は唇を噛んだ。

俺は馬鹿か。
何をやっているんだ。
彼が俺を選んだ理由を忘れたのか。

亡くなった小姓を偲んで、ベッドに潜り込まれたくないからと俺を隠れ蓑に呼んだんじゃないか。
もとより俺のような大男なんて彼の好みじゃない。

なのに勝手に懸想して、少し撫でられただけで欲情して。
最悪だ。
最悪すぎる。

明日から呼ばれなくなるのなら、彼の細い背中を見ることすらできなくなる。
そう分かっていたから今まで気持ちを押し殺してただ彼の側で眠れない夜を過ごしてきたというのに。

なのに欲が出た。
彼の指先が俺の体に触れることに興奮して、夢に見るほど欲しかった彼の体温を振り払うことができなかった。
愚かな自分を殴り殺してしまいたい。


だが王子は押し黙る俺に、信じられないことを口にした。


「だったら発散していけばいい」

「な、王子、……!?」


言うが早いか、王子の細い指が俺の下肢に伸びる。
そのままズボンの前立てを指が外していくのを見て、俺はひっくり返ったような声を上げた。

慌てる俺を気にする様子もなく、彼は着々と俺の服を脱がしにかかってくる。


「そう深く考えるな。なに、ちょっと欲を処理するだけだよ」

「しかし……!」

「戦場ではよくあることだし、私相手だからって気にしなくていい。後から面倒なことなんて言わないから安心してくれ」


下穿きから引っ張り出された性器がまろび出て、反り返るそれを握り込まれた。
彼が俺のものを握っている。
たったそれだけのことで暴発してしまいそうで、俺は奥歯を噛みしめて視線を逸らした。


「ほら、……目を瞑っていたら、女と同じだろう?」


どこか嘲笑にも似た吐息が彼から吐き出されて、俺の耳元を擽る。
だけどその意味を問うこともできずに、手の動きを早められて俺は低く呻いた。
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