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最後の恋
19-2. 後輩
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「体力とかやっぱり人間とは桁違いですよね! 俺、今まであんまり亜人の友達とかいなかったんでびっくりしました。重たい物持ってくれたりとか、俺男なのにドキドキしちゃいますよ」
はは、と笑い話として言っているだろう言葉に、内心ではざわざわと心が波打ってしまう。重い物? そんなの若い男の杜田相手に持ってなんてあげなくていいだろう。ゼンが優しいのは知ってるけど、やりすぎじゃないか。驚きと苛立ちが表に出てきそうになって、それをぎりぎりのところで飲み込んだ。
「杜田くんの同期にも亜人はいるだろ?」
「いるんですけど、なんかゼンさんとは違うんですよね~……。なんだか分からないんですけど」
「違う?」
「そうなんですよ。別にゼンさんが変わり者とかいうわけじゃないんですけど」
「へぇ、なんだろうな」
それって恋なんじゃじゃないか。
ゼンだけ違って見えるって、そういう意味なんじゃないか。
嫌な勘ぐりが頭をもたげてきてしまう。
いやいやそんな訳ないよな。だって男同士で亜人と人間だし。男同士の恋愛は一般的になってきているけど、異種族間の恋愛は相当珍しい。人間を相手にする亜人なんていないのだから。だから普通の人間は亜人のことを好きになったりなんてしないのだ。俺みたいに相当な変わり者でなければ。
杜田はいたって普通の青年だし、人間にモテそうだし、わざわざ亜人に恋をするなんてそんなことあり得ないだろう。だけど俺のそんな考えを追撃するように、杜田はすらすらと言葉を重ねた。
「ゼンさん、いっつも凄い優しいじゃないですか。新入社員の俺の話なんて普通はみんな聞かないのに、ちゃんと聞いてくれますし、分からないことは一緒に調べたりとかしてくれますし。忙しいのに俺の仕事の尻拭いもしてくれますし……なんかこう、普通の亜人より特別感あります」
話を聞いて、一緒に調べて。知っているよ。そんなこと。そうやって優しく対応しているから、ゼンがめちゃくちゃ忙しくなってるってことも。
だけどそれは杜田が特別なんじゃなくて、誰にでも優しいだけだよな。そう思いこもうとするのに、何にも考えていないんだろうか。杜田はニコニコとした笑顔のまま更に俺の気持ちを落ち込ませるようなことを呟いた。
「あんなに格好いいのに、恋人いないって言ってたんですよ。信じられないですよね」
「へぇ……」
恋人がいない? そう杜田に言ったのか?
なんで?
いるじゃないか。別に誰だとは言わなくても、付き合っている相手がいるってことは言えたじゃないか。
わざわざ杜田に隠す理由はあるのか?
それじゃあ……まるで杜田に恋人がいるって知られたくないみたいじゃないか。杜田のことを狙ってるから。
「悪い。……俺、ちょっと仕事思い出した。先に戻るわ」
「え? そうですか?」
ぴたりとその場で足を止めると、杜田は驚いたように俺のことを振り向いた。はっきりとした二重の大きな瞳がこちらを見つめてくる。俺よりも大きくてくりくりしていて可愛らしい瞳が。その瞳にどんな色が浮かんでいるのかを見たくなくて、俺は小さく頷くと急いで踵を返す。だけどその背中に、まるで追い打ちをかけるように杜田が声をかけてきた。
「あ、今度は差山さんも一緒にランチ行きましょう! 美味しいメキシカンがあるんですよ!」
メキシカン。どこかで聞いたような……と考えてふとゼンとの会話を思い出した。
『差山。明日の昼、近くに新しくできた店に行かないか? メキシカンの店ができたらしいぞ』
……それ、俺と行くって言ってたじゃないか。ゼン、俺と行くっていったのに、杜田と行ったのかよ。俺のこと誘わないで。
先に他の奴と行っていたからと言って文句なんて言えない。ガキじゃないんだし、他の奴と飯に行くななんて言えない。だけど俺よりも杜田のことを優先されている気がして……心の中の黒い靄がますます大きくなっていくのを感じた。
はは、と笑い話として言っているだろう言葉に、内心ではざわざわと心が波打ってしまう。重い物? そんなの若い男の杜田相手に持ってなんてあげなくていいだろう。ゼンが優しいのは知ってるけど、やりすぎじゃないか。驚きと苛立ちが表に出てきそうになって、それをぎりぎりのところで飲み込んだ。
「杜田くんの同期にも亜人はいるだろ?」
「いるんですけど、なんかゼンさんとは違うんですよね~……。なんだか分からないんですけど」
「違う?」
「そうなんですよ。別にゼンさんが変わり者とかいうわけじゃないんですけど」
「へぇ、なんだろうな」
それって恋なんじゃじゃないか。
ゼンだけ違って見えるって、そういう意味なんじゃないか。
嫌な勘ぐりが頭をもたげてきてしまう。
いやいやそんな訳ないよな。だって男同士で亜人と人間だし。男同士の恋愛は一般的になってきているけど、異種族間の恋愛は相当珍しい。人間を相手にする亜人なんていないのだから。だから普通の人間は亜人のことを好きになったりなんてしないのだ。俺みたいに相当な変わり者でなければ。
杜田はいたって普通の青年だし、人間にモテそうだし、わざわざ亜人に恋をするなんてそんなことあり得ないだろう。だけど俺のそんな考えを追撃するように、杜田はすらすらと言葉を重ねた。
「ゼンさん、いっつも凄い優しいじゃないですか。新入社員の俺の話なんて普通はみんな聞かないのに、ちゃんと聞いてくれますし、分からないことは一緒に調べたりとかしてくれますし。忙しいのに俺の仕事の尻拭いもしてくれますし……なんかこう、普通の亜人より特別感あります」
話を聞いて、一緒に調べて。知っているよ。そんなこと。そうやって優しく対応しているから、ゼンがめちゃくちゃ忙しくなってるってことも。
だけどそれは杜田が特別なんじゃなくて、誰にでも優しいだけだよな。そう思いこもうとするのに、何にも考えていないんだろうか。杜田はニコニコとした笑顔のまま更に俺の気持ちを落ち込ませるようなことを呟いた。
「あんなに格好いいのに、恋人いないって言ってたんですよ。信じられないですよね」
「へぇ……」
恋人がいない? そう杜田に言ったのか?
なんで?
いるじゃないか。別に誰だとは言わなくても、付き合っている相手がいるってことは言えたじゃないか。
わざわざ杜田に隠す理由はあるのか?
それじゃあ……まるで杜田に恋人がいるって知られたくないみたいじゃないか。杜田のことを狙ってるから。
「悪い。……俺、ちょっと仕事思い出した。先に戻るわ」
「え? そうですか?」
ぴたりとその場で足を止めると、杜田は驚いたように俺のことを振り向いた。はっきりとした二重の大きな瞳がこちらを見つめてくる。俺よりも大きくてくりくりしていて可愛らしい瞳が。その瞳にどんな色が浮かんでいるのかを見たくなくて、俺は小さく頷くと急いで踵を返す。だけどその背中に、まるで追い打ちをかけるように杜田が声をかけてきた。
「あ、今度は差山さんも一緒にランチ行きましょう! 美味しいメキシカンがあるんですよ!」
メキシカン。どこかで聞いたような……と考えてふとゼンとの会話を思い出した。
『差山。明日の昼、近くに新しくできた店に行かないか? メキシカンの店ができたらしいぞ』
……それ、俺と行くって言ってたじゃないか。ゼン、俺と行くっていったのに、杜田と行ったのかよ。俺のこと誘わないで。
先に他の奴と行っていたからと言って文句なんて言えない。ガキじゃないんだし、他の奴と飯に行くななんて言えない。だけど俺よりも杜田のことを優先されている気がして……心の中の黒い靄がますます大きくなっていくのを感じた。
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