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運命の番?

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「……え、あ?風、なに?つがい?」

「エアと言うのか、愛しい人。」

「、っいや、違う。俺の名前は宇一だ。」

「ウィチ……。愛らしい君にぴったりの名前だな。」


大きな手がベッドに寝そべったままの俺の頬をさらりと撫でる。

……俺はもしかして口説かれているのか?

こんな美形の色男に?

いやいやありえない。

俺は地味で暗そうで痩せてて、ゲイのなかでも人気なんてなかった。外国人相手にもそうだった。
お世辞を真に受けてどうする。

そう思って冷静になろうとするのに、頬はどんどん上気してきっと俺は真っ赤だろう。


「ウィチ、もっと君のことを教えてくれ。今までずっと探していたのに……どこに隠れ住んでいたんだ?誰かに囚われていた、とかじゃないよな?」

「え、隠れ住んでたつもりはないんだけど。普通に、俺の家は武蔵野市だったし。」

「ムサシノシ?」

「あ、分かんないかな?吉祥寺じゃないんだけど、そっから結構近いとこで、」


俺はあれこれと頭の中で地図を描いて説明するけど、彼は微妙な顔をしたまま押し黙っている。
え、どうしたんだ。
そう思って視線を合わせると、まだ微妙な困ったような顔でほほ笑まれた。


「ウィチ。君の住んでいたところのことは、ゆっくり話したほうがいいかもしれない。」

「うん?そうか?まぁ、分かりました。」

「疲れただろう?もう少し眠ったら食事を持ってくる。そうしたら、これからのことを話さないと。」

「なんか色々ありがとう、ございます。その、確かに俺は、どれくらい眠ってたのかな……?職場に連絡しないと」


そういえば、この全然知らないはずの彼は、おそらく倒れていたであろう俺を助けてくれた恩人だ。
あわててお礼を言って、そういえばと職場のことを思い出す。
まだ体は怠いけど、とにかく電話だけさせてもらって、せめて今日は休みをもらおう。
頭の中であれこれ算段をつける。

だけど俺の言葉に、目の前の秀麗な男は眉をはね上げた。


「職場……?ウィチはまだ若いのに働いているのか?」

「いや、若いって俺もう29歳だし」


もう、いいおっさんだよ。
働いてなきゃヤバいって。
笑ってそう言おうと思ったら、目の前で蕩けるような笑みを見せていた男が、ぴしりと固まった。


「…………29、歳?ああ、うん。そうか。」


彼はしきりに口の中でもごもごと言葉を紡いでいる。
だが視線は泳ぎ、手で口元を覆った様は明らかに動揺している。
さっきまで柔らかく俺を撫でていた手が遠ざかる。

え、もしかして俺って……もっと若いと思われてたのか。
まあ日本人って若く見えるらしいしな。

彼の明らかにショックだとでも言いたげな態度に、胸がツキリと痛んだ。
出会ったばかりの相手におかしいと思うけど、彼がこれで俺にまったく興味をもってくれなくなったらと考えるだけで心の底が冷たくなる気がする。
こんな美形相手になに考えてるんだって自分でも思うけど、この人に好かれたくてたまらない。
彼に触れたくて触れられたくて堪らない。
嫌われたらと考えるだけでゾッとする。

彼が29歳が嫌だって言うんだったら、19歳だとでも嘘をついておけばよかったと頭の中で馬鹿な考えすらよぎる。
そんな嘘ついてバレたら痛い奴だ。


「あの、アスファーさん、」

「アスファーと呼んでくれ。」

「アスファー……。俺、」


なんて言っていいのか分からない。
思ってたより年上でごめん?
いや、謝ることじゃない。
それに謝ったってどうしようもない。
頭では分かってるけど、頭の中でいろんな言葉が巡ってぐるぐるする。

出てこない言葉に俯くと、柔らかい声が降ってきた。


「まだ疲れているだろう?少し寝た方がいい。大丈夫、そばに居る。」

「すみ、ません……、」


顔を上げられない俺の髪を彼がそっと撫でる。

胸に釈然としない、重たいものを抱えたような気持ちのまま。
俺はアスファーの言葉に導かれるように眠りに落ちた。

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