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2.異世界
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ふ、と意識が浮上していく。
小鳥の囀る音と、肌に触れる清潔なシーツの感触。
それからどこか安心するような、それでいて蠱惑的ですらある甘い甘い匂い。
どうしてもその匂いがなんなのか見たくて、無理やり目を開く。
まぶしさに何度も瞬きをして、あたりをうかがう。
するとすぐ傍で、かたりと何かが動く音がした。
「……起きた、のか?」
低くて深い、男の声が響いて、大きな影が俺に覆いかぶさり、甘い匂いが一層強くなる。
その匂いをもっと嗅ぎたくて手を伸ばそうとすると、俺の腕は大きな掌に捕まえられた。
触れたところが、なぜか異様に熱い。
「まだ動いたら駄目だ。」
そう言いながら、男は掴んだ俺の腕をシーツに横たえる。
だけど彼の手は放れず、ゆるやかに俺の腕を何度も撫でる。
その手つきにぞくりとした刺激と、泣きたくなるほどの嬉しさを覚えて、俺はぼけたピントと必死に合わせた。
なぜだろう。
この目の前の人の顔をどうしても見たい。
どんな顔でも。
ヒキガエルみたいな顔でも、俺、この人なら……いや、この人がいい。
不思議だ。
まだ声しか聞こえてないってのに、まるで初恋の人に会ったかのように気持ちが高揚する。
なぜかこの人なら俺を大事にしてくれる気がする。
全然知らない人のはずなのに、安心して全部ゆだねたくなる。
俺は特に面食いだとは思っていなかったけど、彼の体温を近くに感じるだけで、どんな顔でも好きになってしまいそうだ。
だが。
徐々にクリアになる視界に、俺は息をのんだ。
目の前で心配そうな表情で俺の顔を覗き込む男が、__あまりにも美しかったからだ。
宝石のように輝く深緑の瞳。
光を反射して煌くグレーの髪。
すっと通った鼻筋に薄い唇。
大きく分厚い体は、圧倒的な雄としても魅力と男性美を感じさせる。
野性味と気品を兼ね備えた美丈夫に顔を覗き込まれて、思わず見とれそうになった。
俺と視線を合わせた彼は、どこかうっとりとしたような表情でこちらの顔を見つめている。
「俺……?ここ、は?」
掠れた声を呟きながら、彼から無理やり視線をひっぺがす。
意識して行わないと、いつまででも見つめてしまいそうだった。
俺は確か、彼氏と別れ話をして階段で滑ったはずだ。
その後ずっと意識をしいなっていて彼に助けられたんだろうか。
だとしたらここは病院かなにかか、と思って辺りを視線だけで見回すと、俺はやたらと広くて豪奢な部屋に寝かされているみたいだ。
寝ているベッドは、ホテルのスイートルームで見たものより遥かに大きく、幕は降ろされていないが天蓋まで付いている。
そのベッドが鎮座する部屋自体も無駄に広く、視線が届かないが続きの間もあるようだ。
柔らかな陽が差し込む窓は天井まで伸び、複雑な刺繍の施されたカーテンに彩られていた。
「ここは人間の王宮内だ。心配しなくていい。」
「おう、きゅう?」
「そう。王が住んでいるところだ。人間は周りに人がいる方が安心するんだろう?」
王宮という言葉にあまりに馴染みがなくて、脳内変換できないでいると、目の前の男は殊更ゆっくりと語りかけてくる。
いやいや、王って。
日本に王様はいない。
流暢な日本語を話しているが外国人だろうこの人に、からかわれているのか?
でもわざわざこんな豪華な部屋にまで寝かせて?なんのために?
言葉を紡げず、金魚のように口を開閉させていると、彼の大きな手がそっと頰に添えられた。
「俺は風竜のアスファー。名前を聞いてもいいか?俺の……愛しい番。」
蕩けるような笑み。
魂まで捧げたくなる魅力に、そのまま名前を告げそうになり、すんでのところで踏みとどまった。
男の口から、わけの分からない単語が出てきた気がするからだ。
ふ、と意識が浮上していく。
小鳥の囀る音と、肌に触れる清潔なシーツの感触。
それからどこか安心するような、それでいて蠱惑的ですらある甘い甘い匂い。
どうしてもその匂いがなんなのか見たくて、無理やり目を開く。
まぶしさに何度も瞬きをして、あたりをうかがう。
するとすぐ傍で、かたりと何かが動く音がした。
「……起きた、のか?」
低くて深い、男の声が響いて、大きな影が俺に覆いかぶさり、甘い匂いが一層強くなる。
その匂いをもっと嗅ぎたくて手を伸ばそうとすると、俺の腕は大きな掌に捕まえられた。
触れたところが、なぜか異様に熱い。
「まだ動いたら駄目だ。」
そう言いながら、男は掴んだ俺の腕をシーツに横たえる。
だけど彼の手は放れず、ゆるやかに俺の腕を何度も撫でる。
その手つきにぞくりとした刺激と、泣きたくなるほどの嬉しさを覚えて、俺はぼけたピントと必死に合わせた。
なぜだろう。
この目の前の人の顔をどうしても見たい。
どんな顔でも。
ヒキガエルみたいな顔でも、俺、この人なら……いや、この人がいい。
不思議だ。
まだ声しか聞こえてないってのに、まるで初恋の人に会ったかのように気持ちが高揚する。
なぜかこの人なら俺を大事にしてくれる気がする。
全然知らない人のはずなのに、安心して全部ゆだねたくなる。
俺は特に面食いだとは思っていなかったけど、彼の体温を近くに感じるだけで、どんな顔でも好きになってしまいそうだ。
だが。
徐々にクリアになる視界に、俺は息をのんだ。
目の前で心配そうな表情で俺の顔を覗き込む男が、__あまりにも美しかったからだ。
宝石のように輝く深緑の瞳。
光を反射して煌くグレーの髪。
すっと通った鼻筋に薄い唇。
大きく分厚い体は、圧倒的な雄としても魅力と男性美を感じさせる。
野性味と気品を兼ね備えた美丈夫に顔を覗き込まれて、思わず見とれそうになった。
俺と視線を合わせた彼は、どこかうっとりとしたような表情でこちらの顔を見つめている。
「俺……?ここ、は?」
掠れた声を呟きながら、彼から無理やり視線をひっぺがす。
意識して行わないと、いつまででも見つめてしまいそうだった。
俺は確か、彼氏と別れ話をして階段で滑ったはずだ。
その後ずっと意識をしいなっていて彼に助けられたんだろうか。
だとしたらここは病院かなにかか、と思って辺りを視線だけで見回すと、俺はやたらと広くて豪奢な部屋に寝かされているみたいだ。
寝ているベッドは、ホテルのスイートルームで見たものより遥かに大きく、幕は降ろされていないが天蓋まで付いている。
そのベッドが鎮座する部屋自体も無駄に広く、視線が届かないが続きの間もあるようだ。
柔らかな陽が差し込む窓は天井まで伸び、複雑な刺繍の施されたカーテンに彩られていた。
「ここは人間の王宮内だ。心配しなくていい。」
「おう、きゅう?」
「そう。王が住んでいるところだ。人間は周りに人がいる方が安心するんだろう?」
王宮という言葉にあまりに馴染みがなくて、脳内変換できないでいると、目の前の男は殊更ゆっくりと語りかけてくる。
いやいや、王って。
日本に王様はいない。
流暢な日本語を話しているが外国人だろうこの人に、からかわれているのか?
でもわざわざこんな豪華な部屋にまで寝かせて?なんのために?
言葉を紡げず、金魚のように口を開閉させていると、彼の大きな手がそっと頰に添えられた。
「俺は風竜のアスファー。名前を聞いてもいいか?俺の……愛しい番。」
蕩けるような笑み。
魂まで捧げたくなる魅力に、そのまま名前を告げそうになり、すんでのところで踏みとどまった。
男の口から、わけの分からない単語が出てきた気がするからだ。
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