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ワガママ 6. 飲みに行かないで
しおりを挟む腰が痛い。
目を覚まして初めて思ったのはそれだった。
その次に、腕も痛い、股関節もいたい。
なんなら、昨日弄られすぎた大事な部分も痛い。
体のあちこちが変な風に軋む。
薄暗い室内と体の痛みに、自分に何が起きたのか分からなくてぼんやりすると、静かにドアが開かれて灯が差した。
「エーク、起きたのか?」
シャワーを浴びていたんだろう。ふわりと良い香りが漂ってくる。
アルジオの長身が俺の傍により、ベッドに腰掛けると前髪をさらりと流される。
彼の指先に、ようやく俺はアルジオの部屋に来ていたことを思い出した。
「俺……寝てた?」
いつの間に。
最後の方、記憶がない。
そう思って尋ねると、アルジオは歯切れの悪い感じで「そうだな」と呟いた。
そのちょっと苦い顔に、急に後悔が胸に押し寄せる。
なにやってるんだ俺は。
アルジオはいつだって優しいから、俺のためを思って口を噤んでくれる。
セックスの後に、図々しく人のベッドで眠り込んだ俺を起こすに起こせなくて困っていたんだろう。
「ごめん、俺もう行くよ」
上体を勢いよく起こすと、下半身に鈍い痛みが走る。
でも別に泣き叫ぶほどじゃない。
床に足先を下ろすと、アルジオに腕を捕まえられた。
「行くって、今からか? もう深夜になるぞ」
瞳が剣呑に細められて、うっすらとした怒りをかんじた。
「そう言えば、この間も早朝から会っている“友人”がいたな。誰だ? これじゃあ、気が休まらない」
アルジオの空気がだんだん凍るように冷たくなっていく。
そのことに、鈍い俺も彼が怒っているのを理解した。
たしかに、散々ベッドを占領しておいて許して貰おうなんて、やっぱり俺の頭は緩いんだろうか。
今更 友人の家に行くと言って出て行っても、もう遅いということか。
騎士は朝早くから体を使う仕事だ。しかも危険も伴う。
『もう深夜』と彼が言うなら、俺は長いことベッドを使わさせてもらっていたみたいだ。
体が休まらないと怒られても仕方がない。
ちゃんと謝って、もうしないと誓って、それでも許して貰えなければ……。
そこまで考えて、ふと気が付く。
ちょっと待て。
俺はなんで彼に許してもらおうとしてるんだ。
彼が嫌がることをして、嫌ってもらうんじゃなかったのか。
アルジオが怒っている。好都合じゃないか。
彼に愛されていると信じてワガママに振る舞う恋人なら、こんな時になにをする?
「……別に誰でもいいじゃん」
「エーク、」
咎めるような声が響くけど、俺はベッドにまた身を沈める。
うつぶせに寝そべり、枕に顔を半分うずめてアルジオを見上げると、苛立ったような視線と目が合った。
そのことに俺はこの作戦がようやく上手くいっているのを感じる。
優しいアルジオでも、腹が立つくらい嫌な態度なんだろう。
「それに深夜って……アルジオさんだって、これくらいの時間まで飲んでることあるだろ?」
アルジオは休みの日の前はたまに騎士仲間と飲んでる。
体力が桁違いの彼らは、朝になっても飲み続けていることで有名だ。
「俺は、付き合いで、」
「俺だって付き合いとかあるかもだろ」
可愛げなくそう突っぱねると、アルジオの喉の奥から唸るような声が響いた。
ああ、あともうちょっと。
「アルジオさんが遅くまで飲みに行かないっていうなら、俺も今日は行かないであげるよ」
何様だ。
自分で自分に突っ込みたくなる。
だけどそれを抑えて、俺は「無理でしょ」と口を開きかけた時。
大きな影が、ベッドの上に覆いかぶさってきた。
「分かった。もう遅くまで飲むような事はしない」
何かを押し殺すような低い声でそう呟くと、アルジオは俺の首の後ろに唇を這わせる。
きつく吸い上げられて、ぴりりとした痛みがそこに走った。
そのまま大きな掌がゆっくりと俺の肩を掴んで、ベッドにあお向けられる。
至近距離で綺麗な瞳と目が合った。
「だから、エーク……もう1回しようか」
「……は?」
「俺が遅くまで飲みに行かないなら、お前は今日はここにいてくれるんだろう?」
「い、いるけど、」
これ以上は無理だ。
今迄だってこんなにしたことなかったのに。
いくら男相手で手加減しなくていいって言っても、限度があるだろ。
やばい。目に涙すら浮かんできた。
そう思って俺は首を横に振る。
だがアルジオはにやりと露悪的な笑みを見せた。
「安心しろ。どこにも行きたくなくなるくらい、ちゃんと満足させてやる」
俺の抗議の言葉もささやかな悲鳴も、噛みつくように重ねられた唇に吸い込まれてしまった。
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