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序章 存在感トレードオフ
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体育の時間というのはオレにとっては地獄のようなものだ。というか地獄そのものだ。
球技なんかに特徴的だが、得点を決めたり目立つプレーをすれば視線を集める。なんならハイタッチとか、そういう「ちょっとしたスキンシップ」でさえ避けるオレは頼りない作り笑いを浮かべるだけで。まぁ何というか、そのうち誰もオレには近寄らなくなっていく。それもまた計画通りに進んでるわけなので、問題なんかない。
そう、これでなにも問題なんかあるわけないんだ……
そうこうしているうち、球技ではオレはパスをもらったら、誰かに即パスするだけの役立たずになって、コートに立っている資格があるかないかでいえば無価値な存在だ、資格なんてあるわけない。
だけど授業だから許されてしまう。たぶんクラスの連中には許してもらえていないだろうけど。
それでも虚しくて、未来が怖くなることはオレにだってある。
卒業して大学生活に逃れるまで残り一年半以上か、オレは本当に耐えられるのかなって。まあ耐えきって見せるけど──さすがに大学まで進んじまえばオレの「生き方」をどうこう言うヤツなんていなくなるはずだから。もっと広い世界では、きっとオレにだって「出会い」を求めることも許されるはずだ──。
そうこうしているある日、いきなりピンチは訪れた。
体育の授業でサッカーを中心にする時期が来て──それまでが「持久走」という苦行の日々だったから自然と同級生のテンションは上がりっぱなしだ。しかし一年生のときの球技大会で選手としては「まるで役立たず」だったオレは、なぜかゴールキーパーに抜擢された。なんなんだよクソ、普通のプレイヤーとしてならうまく距離を確保すれば得点の決定機だとか絶好のチャンスに巻き込まれないように、うまく逃げていられたのに。
よりによってゴールキーパーか……棒みたいに立ち尽くして、ただ失点を許したりでもしたら「最悪の目立ち方」をするわけだろーな。そしてオレをわざわざキーパーに指名してきたのは、なぜか相模だった。ふざけんなよ、おまえみたいな運動神経のカタマリみたいなヤツとは違うんだよ、オレはさぁ──! しかも一年のときのオレを相模は知ってるはずだ。それでもあえて選ぶってことに何か意味があるのか、ただ単に忘れているのか。
そんな相模のポジションは主にフォワードで、いわゆる点取り屋のポジション。キーパーであるオレと、フォワードである相模の位置は対極にあるといっていい。最前衛と最後衛、とでもいうか。
マジで相模、おまえは「好きなように」生きてやがんだなー、とオレは軽い尊敬すら覚えたくらいだった。
「なぁ、武蔵。守備はおれらサッカー部で固めてるからさ、あんま心配すんなよ……?」
「わかった。どうも」
棒読みのオレのセリフに、サッカー部員ふたりもやや不満というか、すでにオレにはなんの期待もしていなさそうな表情を浮かべる。オレはオレで、サッカー部員がディフェンスについたことで相対的に自分の責任が軽くなったな、という我ながら性格の悪いことを考えていた。
球技なんかに特徴的だが、得点を決めたり目立つプレーをすれば視線を集める。なんならハイタッチとか、そういう「ちょっとしたスキンシップ」でさえ避けるオレは頼りない作り笑いを浮かべるだけで。まぁ何というか、そのうち誰もオレには近寄らなくなっていく。それもまた計画通りに進んでるわけなので、問題なんかない。
そう、これでなにも問題なんかあるわけないんだ……
そうこうしているうち、球技ではオレはパスをもらったら、誰かに即パスするだけの役立たずになって、コートに立っている資格があるかないかでいえば無価値な存在だ、資格なんてあるわけない。
だけど授業だから許されてしまう。たぶんクラスの連中には許してもらえていないだろうけど。
それでも虚しくて、未来が怖くなることはオレにだってある。
卒業して大学生活に逃れるまで残り一年半以上か、オレは本当に耐えられるのかなって。まあ耐えきって見せるけど──さすがに大学まで進んじまえばオレの「生き方」をどうこう言うヤツなんていなくなるはずだから。もっと広い世界では、きっとオレにだって「出会い」を求めることも許されるはずだ──。
そうこうしているある日、いきなりピンチは訪れた。
体育の授業でサッカーを中心にする時期が来て──それまでが「持久走」という苦行の日々だったから自然と同級生のテンションは上がりっぱなしだ。しかし一年生のときの球技大会で選手としては「まるで役立たず」だったオレは、なぜかゴールキーパーに抜擢された。なんなんだよクソ、普通のプレイヤーとしてならうまく距離を確保すれば得点の決定機だとか絶好のチャンスに巻き込まれないように、うまく逃げていられたのに。
よりによってゴールキーパーか……棒みたいに立ち尽くして、ただ失点を許したりでもしたら「最悪の目立ち方」をするわけだろーな。そしてオレをわざわざキーパーに指名してきたのは、なぜか相模だった。ふざけんなよ、おまえみたいな運動神経のカタマリみたいなヤツとは違うんだよ、オレはさぁ──! しかも一年のときのオレを相模は知ってるはずだ。それでもあえて選ぶってことに何か意味があるのか、ただ単に忘れているのか。
そんな相模のポジションは主にフォワードで、いわゆる点取り屋のポジション。キーパーであるオレと、フォワードである相模の位置は対極にあるといっていい。最前衛と最後衛、とでもいうか。
マジで相模、おまえは「好きなように」生きてやがんだなー、とオレは軽い尊敬すら覚えたくらいだった。
「なぁ、武蔵。守備はおれらサッカー部で固めてるからさ、あんま心配すんなよ……?」
「わかった。どうも」
棒読みのオレのセリフに、サッカー部員ふたりもやや不満というか、すでにオレにはなんの期待もしていなさそうな表情を浮かべる。オレはオレで、サッカー部員がディフェンスについたことで相対的に自分の責任が軽くなったな、という我ながら性格の悪いことを考えていた。
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