上 下
19 / 19
土曜日

PM 21:00

しおりを挟む
「じゃあな。気ぃつけて帰れよ」

 見送りなどいらないという向晴を、コンビニに寄るからという理由で押し切って、俺は部屋着にパーカーという姿で、駅の改札前に立っていた。

「はい。だけど、むしろ舜さんのが気をつけてください」
「どういう意味だ?」
「そのまんまっすよ。なんか無防備だし」

 高い位置からの視線は、よく見るとどこかが優しげで、なんだか腹が立つ。

「なんだよそれ。おまえ、急に態度がでかくなりやがったな──?」
「……とにかく家に着いたら連絡くださいよ。マジで心配ですから」
「心配の意味も分からないが、ひとまず了解した」

 年下にここまで言われるのは心外だが、人通りの多い場所で、これ以上のこんなやりとりは不毛だった。ヘタをすれば、向晴が俺の保護者のように見られかねない。

「……あのな。俺も仕事でな、しばらくこっちに残ることになったんだよ、実は」
「──残るって、こっちの職場に、ってことっすか?」

 頷いてみせると、心なしか、その目はどこか輝いて見える。

「……じゃあ、舜さん。毎日とかは無理だろうし、タイミングが合ったときだけで構わないんで。たまには同じ電車で行きませんか──?」

 言われてみれば、このまま別れてしまえば俺たちは、とくに顔を合わせる必然性もなくなるわけだ。なんとなく、なにも変わらない毎日が続くような気がしていたが、そんなはずがあるはずもない。

「ああ……別にいいよ」
「よかった」

 向晴は正面から、ごく自然な動作で俺を抱きしめた。両腕が背中にまわされる意味を、俺はしばらく理解できずにいた。

「オレ、舜さんに会えてよかったっす……」

 混乱する俺を置き去りにして、向晴の姿は、改札の奥にある階段に消えた。ようやく我に返った俺は、思わずあたりを見渡して、誰もこちらを注視していないことに安堵あんどした。すると、いきなり頬が上気じょうきするのが分かる。

 なにを動揺しているんだ俺は。赤面して挙動不審なほうが、余計に怪しまれるに決まってるだろう。脳内の整理がつかないまま立ち尽くしていると、携帯スマホからメッセージの通知音があった。

『無防備の意味。わかりましたか?』
『知らねーよ。とりあえずおまえ、来週からは覚悟しとけよ?』

 短文のメッセージに、別にたいした意味はない。
 ただ来週以降の約束のような言葉には、俺なりのだけは込めたつもりだ。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話

みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。 数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品

それはきっと、気の迷い。

葉津緒
BL
王道転入生に親友扱いされている、気弱な平凡脇役くんが主人公。嫌われ後、総狙われ? 主人公→睦実(ムツミ) 王道転入生→珠紀(タマキ) 全寮制王道学園/美形×平凡/コメディ?

高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる

天災
BL
 高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる。

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

風紀“副”委員長はギリギリモブです

柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。 俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。 そう、“副”だ。あくまでも“副”。 だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに! BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。

プロデューサーの勃起した乳首が気になって打ち合わせに集中できない件~試される俺らの理性~【LINE形式】

あぐたまんづめ
BL
4人の人気アイドル『JEWEL』はプロデューサーのケンちゃんに恋してる。だけどケンちゃんは童貞で鈍感なので4人のアプローチに全く気づかない。思春期の女子のように恋心を隠していた4人だったが、ある日そんな関係が崩れる事件が。それはメンバーの一人のLINEから始まった。 【登場人物】 ★研磨…29歳。通称ケンちゃん。JEWELのプロデューサー兼マネージャー。自分よりJEWELを最優先に考える。仕事一筋だったので恋愛にかなり疎い。童貞。 ★ハリー…20歳。JEWELの天然担当。容姿端麗で売れっ子モデル。外人で日本語を勉強中。思ったことは直球で言う。 ★柘榴(ざくろ)…19歳。JEWELのまとめ役。しっかり者で大人びているが、メンバーの最年少。文武両道な大学生。ケンちゃんとは義兄弟。けっこう甘えたがりで寂しがり屋。役者としての才能を開花させていく。 ★琥珀(こはく)…22歳。JEWELのチャラ男。ヤクザの息子。女たらしでホストをしていた。ダンスが一番得意。 ★紫水(しすい)…25歳。JEWELのお色気担当。歩く18禁。天才子役として名をはせていたが、色々とやらかして転落人生に。その後はゲイ向けAVのネコ役として活躍していた。爽やかだが腹黒い。

悪役令息シャルル様はドSな家から脱出したい

椿
BL
ドSな両親から生まれ、使用人がほぼ全員ドMなせいで、本人に特殊な嗜好はないにも関わらずSの振る舞いが発作のように出てしまう(不本意)シャルル。 その悪癖を正しく自覚し、学園でも息を潜めるように過ごしていた彼だが、ひょんなことからみんなのアイドルことミシェル(ドM)に懐かれてしまい、ついつい出てしまう暴言に周囲からの勘違いは加速。婚約者である王子の二コラにも「甘えるな」と冷たく突き放され、「このままなら婚約を破棄する」と言われてしまって……。 婚約破棄は…それだけは困る!!王子との、ニコラとの結婚だけが、俺があのドSな実家から安全に抜け出すことができる唯一の希望なのに!! 婚約破棄、もとい安全な家出計画の破綻を回避するために、SとかMとかに囲まれてる悪役令息(勘違い)受けが頑張る話。 攻めズ ノーマルなクール王子 ドMぶりっ子 ドS従者 × Sムーブに悩むツッコミぼっち受け 作者はSMについて無知です。温かい目で見てください。

BL学園の姫になってしまいました!

内田ぴえろ
BL
人里離れた場所にある全寮制の男子校、私立百華咲学園。 その学園で、姫として生徒から持て囃されているのは、高等部の2年生である白川 雪月(しらかわ ゆづき)。 彼は、前世の記憶を持つ転生者で、前世ではオタクで腐女子だった。 何の因果か、男に生まれ変わって男子校に入学してしまい、同じ転生者&前世の魂の双子であり、今世では黒騎士と呼ばれている、黒瀬 凪(くろせ なぎ)と共に学園生活を送ることに。 歓喜に震えながらも姫としての体裁を守るために腐っていることを隠しつつ、今世で出来たリアルの推しに貢ぐことをやめない、波乱万丈なオタ活BL学園ライフが今始まる!

処理中です...