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土曜日

PM 17:20

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 現状で、できる範囲で身なりを整えて席に戻ると、向晴は定食をすでに完食したようだ。デザートは、白玉ぜんざいのようだった。

「ああ。だいぶ見違えましたね」
「棒読みで言われても嬉しくねえよ。それより、この後どうする。どこか行くか?」

 向晴は、スプーンにのせた白玉をじっと眺めながら、ぽつりと言った。

「……今日は、もう帰りませんか。また日を改めて、ってことで」
「俺に気をつかうなよ。もう大丈夫だから……」

 すると機嫌をうかがうような視線を、下から向けてくる。

「……だったら、舜さんの部屋に行ってみたいっす」
「はい──?」

 いや、向晴は最初から言っていたのだ。と。
 時間はもうすぐ、午後六時になろうかという頃合ころあい。店内は客足が伸びて騒がしくなりつつある。これ以上の長居はできないし、そもそも向晴の悩みというのは、おそらく「例の件」だろう。

 俺にも聞きたいことはあった。本当に故障なのか、その後どうなったのか、今後はどうするつもりなのか──しかし相談という以上は、まず話だけは、いくらでも聞いてやりたかった。
 簡単な話ならば、べつに電車の中でも、どこでも構わなかったはずだ。しかしそうではないからこそ向晴だって迷ったのだろう。だから「もう帰ろう」などという結論が出てくる。

 しょうもない理由で約束を破り、ボロボロの状態の男に話せるほど、これは簡単なことではないのだろう、きっと。それでも、あえて候補を上げるとしたら俺の部屋だという。
 向晴は、実のところ本当に追いつめられているのかもしれない。両親や監督、友人──ほかにも相談の相手候補はいるのだろう。俺のような第三者に意見を求めるというのは、やはり相応の理由があるのか。あるいは俺が信頼に足る相手だと、少なからず思ってくれたからなのか。理由はさっぱりわからないが……。

 ならば応じるしかない。俺にだってプライドがある──これ以上の失態を重ねるわけにはいかない。呆れられて、それで終わりだなんて。そんなのは無理だ。

「分かった。ここからなら地下鉄の方が近いかな……」
「行ってもいいんすか──!」

 向晴は目を輝かせた。俺は苦笑して伝票を手に取ると、席を立つ。

「言っとくけど、狭いし何もないぞ。マジで何にもねーからな?」

 何度も頷きながらデザートの残りを平らげるその姿は子供っぽくもあったが、ようやく普段の姿を取り戻したかのようで、ひどく安心できるものだった。
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