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土曜日

PM 16:20

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「改めて申し訳ない。マジでごめん──!」

 トイレの前で、所在なさげに待っていた向晴に、俺は腰を直角に曲げて頭を下げる。平身低頭ってやつだ。

「やめてください、ていうか声デカいっすよ──とりあえず、どっか落ち着けるところに行きませんか?」
「……どこ?」

 おそるおそる顔を上げると、向晴は困った表情だった。それでも、笑っている。

「二日酔いで、しかも走ってきたんすよね。いきなり動くのもキツそうだけど、もっと空気がよくて静かな場所でちゃんと休んだほうがいいのかなって」

「このあたりに、そんな場所あったっけ──?」
「首都高のすぐ向こうはオフィス街っすよ。土曜だから人も少ないし、そんなに距離もないし。この時間なら、どの店も空いてると思うんで」

 もちろん俺に断る理由などないが、冷静すぎる向晴が怖くもあった。というか、なぜこいつはこんなに池袋に詳しいのか。埼玉の高校生のポテンシャル、恐るべし。

「それとも、まだキツいっすか……?」
「いや。吐いたらだいぶスッキリしたから。けどさ、おまえ怒ってないの──?」
「許したとも言ってませんけど。オレ」

 心なしか冷たい目で見下ろされ、思わず背筋が伸びる。それを見て向晴は、また笑った。

「いや……冗談っすよ。もともと借りがあって、せっかくの休日に呼び出したのはオレですし。まあ、また次に同じようなことがあったら怒るかも、ですけど」

 どうしよう。こいつ、俺なんかよりぜんぜん大人だ。ついつい手を合わせてしまう。

「あの……いったい、なにをおがんでるんですか?」
「いや、なんか後光ごこうが差して見えた気がしたもんで」
「……まだ酔ってるんスね。とりあえず歩きませんか?」
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