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──夕刻。
学園から帰宅するやいなや、エノーラは紙とペンを用意した。机に座り、地方にいる父親とヴォルフ伯爵宛の手紙を書き、使用人に頼んで、早馬にこの手紙を託してもらった。
内容はもちろん、ミッチェルのことについて。本日学園で、ミッチェルが語ったこと全て、覚えている限りのことを書き記した。
エノーラの両親とミッチェルの両親は馬車を飛ばし、三日後には王都に来てくれた。身勝手にもほどがあるとミッチェルを叱りとばし、すぐさまミッチェルを除籍するとヴォルフ伯爵は言い捨てた。
「何故ですか?! エノーラ、ぼくを愛しているのなら助けてくれ!!」
全員の視線がエノーラに注がれた。けれど、とっくにミッチェルへの愛などなくなってしまったエノーラは、
「いえ、もう愛していませんけど。それにあのときは、やむにやまれぬ事情があっただけです」
と、あっさりミッチェルを見捨てた。
学園からミッチェルの姿がなくなってから、ふた月経った頃のこと。エノーラに、想い人ができた。相手は、クラスメイトの伯爵令息。後に婚約者となる彼の姿を見かけると、身体が熱くなり、胸が高鳴ってしかたない。なるほど。ミッチェルが経験したのはこれかと、エノーラは妙に納得した。確かにこれは、ミッチェル相手ではなかった感情だ。
余談ではあるが、伯爵令息と伯爵令嬢との婚約を破談にしたとの噂がたったアグネは、学園でも社交界でも居場所をなくし、学園を卒業後、年老いた貴族の元に嫁いだそうだ。
それにしても。と、エノーラはふとあの日を思い返し、考えてみることがある。
あの繰り返しは、実はミッチェルの本性を暴くために、神様が気紛れに与えてくれた奇跡だったのでは──なんてことすら、思えたりする。
もしあの繰り返しがなければ、復縁を受け入れていた可能性も、なくはないと思えるからだ。
あんなに大好きだったはずのミッチェル。けれどエノーラの中に残るミッチェルの印象は、もはや、ひたすら身勝手だったことしか残っていない。
──まあ。事実は、神のみぞ知る、といったところだろう。
─おわり─
学園から帰宅するやいなや、エノーラは紙とペンを用意した。机に座り、地方にいる父親とヴォルフ伯爵宛の手紙を書き、使用人に頼んで、早馬にこの手紙を託してもらった。
内容はもちろん、ミッチェルのことについて。本日学園で、ミッチェルが語ったこと全て、覚えている限りのことを書き記した。
エノーラの両親とミッチェルの両親は馬車を飛ばし、三日後には王都に来てくれた。身勝手にもほどがあるとミッチェルを叱りとばし、すぐさまミッチェルを除籍するとヴォルフ伯爵は言い捨てた。
「何故ですか?! エノーラ、ぼくを愛しているのなら助けてくれ!!」
全員の視線がエノーラに注がれた。けれど、とっくにミッチェルへの愛などなくなってしまったエノーラは、
「いえ、もう愛していませんけど。それにあのときは、やむにやまれぬ事情があっただけです」
と、あっさりミッチェルを見捨てた。
学園からミッチェルの姿がなくなってから、ふた月経った頃のこと。エノーラに、想い人ができた。相手は、クラスメイトの伯爵令息。後に婚約者となる彼の姿を見かけると、身体が熱くなり、胸が高鳴ってしかたない。なるほど。ミッチェルが経験したのはこれかと、エノーラは妙に納得した。確かにこれは、ミッチェル相手ではなかった感情だ。
余談ではあるが、伯爵令息と伯爵令嬢との婚約を破談にしたとの噂がたったアグネは、学園でも社交界でも居場所をなくし、学園を卒業後、年老いた貴族の元に嫁いだそうだ。
それにしても。と、エノーラはふとあの日を思い返し、考えてみることがある。
あの繰り返しは、実はミッチェルの本性を暴くために、神様が気紛れに与えてくれた奇跡だったのでは──なんてことすら、思えたりする。
もしあの繰り返しがなければ、復縁を受け入れていた可能性も、なくはないと思えるからだ。
あんなに大好きだったはずのミッチェル。けれどエノーラの中に残るミッチェルの印象は、もはや、ひたすら身勝手だったことしか残っていない。
──まあ。事実は、神のみぞ知る、といったところだろう。
─おわり─
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