上 下
20 / 20

20

しおりを挟む
 ──夕刻。

 学園から帰宅するやいなや、エノーラは紙とペンを用意した。机に座り、地方にいる父親とヴォルフ伯爵宛の手紙を書き、使用人に頼んで、早馬にこの手紙を託してもらった。

 内容はもちろん、ミッチェルのことについて。本日学園で、ミッチェルが語ったこと全て、覚えている限りのことを書き記した。


 エノーラの両親とミッチェルの両親は馬車を飛ばし、三日後には王都に来てくれた。身勝手にもほどがあるとミッチェルを叱りとばし、すぐさまミッチェルを除籍するとヴォルフ伯爵は言い捨てた。

「何故ですか?! エノーラ、ぼくを愛しているのなら助けてくれ!!」

 全員の視線がエノーラに注がれた。けれど、とっくにミッチェルへの愛などなくなってしまったエノーラは、

「いえ、もう愛していませんけど。それにあのときは、やむにやまれぬ事情があっただけです」

 と、あっさりミッチェルを見捨てた。



 学園からミッチェルの姿がなくなってから、ふた月経った頃のこと。エノーラに、想い人ができた。相手は、クラスメイトの伯爵令息。後に婚約者となる彼の姿を見かけると、身体が熱くなり、胸が高鳴ってしかたない。なるほど。ミッチェルが経験したのはこれかと、エノーラは妙に納得した。確かにこれは、ミッチェル相手ではなかった感情だ。


 余談ではあるが、伯爵令息と伯爵令嬢との婚約を破談にしたとの噂がたったアグネは、学園でも社交界でも居場所をなくし、学園を卒業後、年老いた貴族の元に嫁いだそうだ。


 それにしても。と、エノーラはふとあの日を思い返し、考えてみることがある。


 あの繰り返しは、実はミッチェルの本性を暴くために、神様が気紛れに与えてくれた奇跡だったのでは──なんてことすら、思えたりする。

 もしあの繰り返しがなければ、復縁を受け入れていた可能性も、なくはないと思えるからだ。

 あんなに大好きだったはずのミッチェル。けれどエノーラの中に残るミッチェルの印象は、もはや、ひたすら身勝手だったことしか残っていない。



 ──まあ。事実は、神のみぞ知る、といったところだろう。


              ─おわり─
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

【完結】愛することはないと告げられ、最悪の新婚生活が始まりました

紫崎 藍華
恋愛
結婚式で誓われた愛は嘘だった。 初夜を迎える前に夫は別の女性の事が好きだと打ち明けた。

【完結済み】私を裏切って幼馴染と結ばれようなんて、甘いのではありませんか?

法華
恋愛
貴族令嬢のリナは、小さいころに親から言いつけられた婚約者カインから、ずっと執拗な嫌がらせを受けてきた。彼は本当は、幼馴染のナーラと結婚したかったのだ。二人の結婚が済んだ日の夜、カインはリナに失踪するよう迫り、リナも自分の人生のために了承する。しかしカインは約束を破り、姿を消したリナを嘘で徹底的に貶める。一方、リナはすべてを読んでおり......。 ※完結しました!こんなに多くの方に読んでいただけるとは思っておらず、とてもうれしく思っています。また新作を準備していますので、そちらもどうぞよろしくお願いします! 【お詫び】 未完結にもかかわらず、4/23 12:10 ~ 15:40の間完結済み扱いになっていました。誠に申し訳ありません。

女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜

流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。 偶然にも居合わせてしまったのだ。 学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。 そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。 「君を女性として見ることが出来ない」 幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。 その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。 「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」 大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。 そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。 ※ ゆるふわ設定です。 完結しました。

そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。

しげむろ ゆうき
恋愛
 男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない  そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった 全五話 ※ホラー無し

婚約者の座は譲って差し上げます、お幸せに

四季
恋愛
婚約者が見知らぬ女性と寄り添い合って歩いているところを目撃してしまった。

どうやら婚約者が私と婚約したくなかったようなので婚約解消させて頂きます。後、うちを金蔓にしようとした事はゆるしません

しげむろ ゆうき
恋愛
 ある日、婚約者アルバン様が私の事を悪く言ってる場面に遭遇してしまい、ショックで落ち込んでしまう。  しかもアルバン様が悪口を言っている時に側にいたのは、美しき銀狼、又は冷酷な牙とあだ名が付けられ恐れられている、この国の第三王子ランドール・ウルフイット様だったのだ。  だから、問い詰めようにもきっと関わってくるであろう第三王子が怖くて、私は誰にも相談できずにいたのだがなぜか第三王子が……。 ○○sideあり 全20話

婚約破棄したので、元の自分に戻ります

しあ
恋愛
この国の王子の誕生日パーティで、私の婚約者であるショーン=ブリガルドは見知らぬ女の子をパートナーにしていた。 そして、ショーンはこう言った。 「可愛げのないお前が悪いんだから!お前みたいな地味で不細工なやつと結婚なんて悪夢だ!今すぐ婚約を破棄してくれ!」 王子の誕生日パーティで何してるんだ…。と呆れるけど、こんな大勢の前で婚約破棄を要求してくれてありがとうございます。 今すぐ婚約破棄して本来の自分の姿に戻ります!

処理中です...