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 思考に耽っていたセシリーが「は、はい」と、慌てて顔をあげる。サイラスは口を開きかけ、また閉じる。それを二度繰り返したのち、ようやく口火を切った。
 
「……どうか、わたしの婚約者になってくれないだろうか」

「え……?」

 驚愕するセシリーに、サイラスが焦る。

「もしかして、他に好きな人でもいるのだろうか。なら、流石に無理強いは出来ないが……このまま呪いが続くのなら、きみ以外と結婚などあり得ないんだ。父上の息子はわたしだけで……兄弟は姉と妹だけだから」

「そ、そうですね……確かに」

 考えてみれば、そうだ。王族以外との結婚が認められないのなら、唯一人間の顔に見えるセシリーを婚約者に選ぶしか、選択の余地はない。

「わたしに想い人はいませんが……恐らく、陛下をはじめとした王族の人たちは、わたしをサイラス殿下の婚約者としては、認めてくださらないのではないかと」

「? どうして……?」

「先ほども申したとおり、わたしの顔は王族では珍しく、醜いのです。それが理由です」

「そんな馬鹿な話し……いや、あいつらならあり得るか」

 ぶつぶつ呟き、サイラスは決意を宿した双眸をセシリーに向けた。

「なら、父上たちが了承してくれたなら、きみはわたしの婚約者となってくれるのか?」

「……そうですね。サイラス殿下が、本当にわたしでよいのなら」

「──セシリー嬢。誤解しないでほしいんだが、わたしがきみに婚約を申し込んだのは、顔のことだけが理由ではないよ」

 セシリーが「そうなのですか?」と目を丸くする。サイラスは、ああ、と口元を緩めた。

「きみはわたしの話しを真剣に聞いてくれた。一生懸命に考え、どうにかしてくれようとしたのが伝わってきた……久方ぶりに心が凪いだよ。ありがとう」

 サイラスが、ふわっと綺麗に笑った。どくん。セシリーの鼓動が一つ、大きく跳ねた。

 ──もしサイラス殿下が呪いになどかからなければ、きっと自分など、視界にすら入らなかっただろう。

 そう思うとセシリーは、何故だか少し、泣きたくなった。

 
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