10 / 25
10
しおりを挟む
「──一年前。わたしは落馬し、頭を強打した。打ち所が悪かったのか、目の前がぼやけ、視力が日を追うごとに低下していくのがわかった。それを魔法で治癒してくれたのが、宮廷魔法士のオーエンだった……元、だが」
確かに同時期。三十代の若さで宮廷魔法士となった天才オーエンに代わり、五十代の男が、宮廷魔法士に任命されたとの話しは、聞いたことがあった。
理由は公表されておらず、当時は国がその話題で持ちきりになった。
「……そうだったのですね。わたしは失礼ながら、サイラス殿下がそのような大変な目に遭っていたことすら、存じませんでした」
セシリーが申し訳なさそうに謝罪する。サイラスは「いや。それは当然のことなんだ」と返答した。
「わたしが落馬したことは、世間には公表していないからな。怪我をしたことも、視力が低下していたことも……何も。いずれ王位を継ぐわたしの身に何かあったなどと、民に──特に貴族に知られたくなかったのだろう。王族は弱みを見せるのを、とかく嫌うからな」
セシリーは驚いていた。これまでの会話からも感じていたことだが、この第一王子からは、王族特有の驕りを感じなかったから。
「……そうですね。わかります。けれど、サイラス殿下を救ってくださったオーエンは、どうして宮廷魔法士の任を解かれてしまったのですか?」
そう。最もわからないのはそこだ。セシリーが問いかけると、サイラスはゆっくりと腕を組んだ。
「……それはな。オーエンがわたしに、呪いをかけたからだ」
予想外過ぎる答えに、セシリーは絶句した。サイラスが続ける。
「オーエンはわたしを眠りにつかせてから、目の治療をした。半日ほどしてから目覚めると、ぼやけはなくなり、視力も元に戻っていた。部屋の中も、窓から見える外の景色も、想い出の中にあるものと何一つ変わっていなかった。わたしは歓喜したよ──でも」
サイラスは「人の顔だけが、それまでとは違って見えたんだ。まるで、恐ろしい化け物のような……っ」と、両手で、両目を覆った。
確かに同時期。三十代の若さで宮廷魔法士となった天才オーエンに代わり、五十代の男が、宮廷魔法士に任命されたとの話しは、聞いたことがあった。
理由は公表されておらず、当時は国がその話題で持ちきりになった。
「……そうだったのですね。わたしは失礼ながら、サイラス殿下がそのような大変な目に遭っていたことすら、存じませんでした」
セシリーが申し訳なさそうに謝罪する。サイラスは「いや。それは当然のことなんだ」と返答した。
「わたしが落馬したことは、世間には公表していないからな。怪我をしたことも、視力が低下していたことも……何も。いずれ王位を継ぐわたしの身に何かあったなどと、民に──特に貴族に知られたくなかったのだろう。王族は弱みを見せるのを、とかく嫌うからな」
セシリーは驚いていた。これまでの会話からも感じていたことだが、この第一王子からは、王族特有の驕りを感じなかったから。
「……そうですね。わかります。けれど、サイラス殿下を救ってくださったオーエンは、どうして宮廷魔法士の任を解かれてしまったのですか?」
そう。最もわからないのはそこだ。セシリーが問いかけると、サイラスはゆっくりと腕を組んだ。
「……それはな。オーエンがわたしに、呪いをかけたからだ」
予想外過ぎる答えに、セシリーは絶句した。サイラスが続ける。
「オーエンはわたしを眠りにつかせてから、目の治療をした。半日ほどしてから目覚めると、ぼやけはなくなり、視力も元に戻っていた。部屋の中も、窓から見える外の景色も、想い出の中にあるものと何一つ変わっていなかった。わたしは歓喜したよ──でも」
サイラスは「人の顔だけが、それまでとは違って見えたんだ。まるで、恐ろしい化け物のような……っ」と、両手で、両目を覆った。
453
お気に入りに追加
5,027
あなたにおすすめの小説
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。
お飾り王妃の愛と献身
石河 翠
恋愛
エスターは、お飾りの王妃だ。初夜どころか結婚式もない、王国存続の生贄のような結婚は、父親である宰相によって調えられた。国王は身分の低い平民に溺れ、公務を放棄している。
けれどエスターは白い結婚を隠しもせずに、王の代わりに執務を続けている。彼女にとって大切なものは国であり、夫の愛情など必要としていなかったのだ。
ところがある日、暗愚だが無害だった国王の独断により、隣国への侵攻が始まる。それをきっかけに国内では革命が起き……。
国のために恋を捨て、人生を捧げてきたヒロインと、王妃を密かに愛し、彼女を手に入れるために国を変えることを決意した一途なヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:24963620)をお借りしております。

もう、愛はいりませんから
さくたろう
恋愛
ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。
王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

そんなに優しいメイドが恋しいなら、どうぞ彼女の元に行ってください。私は、弟達と幸せに暮らしますので。
木山楽斗
恋愛
アルムナ・メルスードは、レバデイン王国に暮らす公爵令嬢である。
彼女は、王国の第三王子であるスルーガと婚約していた。しかし、彼は自身に仕えているメイドに思いを寄せていた。
スルーガは、ことあるごとにメイドと比較して、アルムナを罵倒してくる。そんな日々に耐えられなくなったアルムナは、彼と婚約破棄することにした。
婚約破棄したアルムナは、義弟達の誰かと婚約することになった。新しい婚約者が見つからなかったため、身内と結ばれることになったのである。
父親の計らいで、選択権はアルムナに与えられた。こうして、アルムナは弟の内誰と婚約するか、悩むことになるのだった。
※下記の関連作品を読むと、より楽しめると思います。

お前は要らない、ですか。そうですか、分かりました。では私は去りますね。あ、私、こう見えても人気があるので、次の相手もすぐに見つかりますよ。
四季
恋愛
お前は要らない、ですか。
そうですか、分かりました。
では私は去りますね。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
婚約破棄を、あなたのために
月山 歩
恋愛
私はあなたが好きだけど、あなたは彼女が好きなのね。だから、婚約破棄してあげる。そうして、別れたはずが、彼は騎士となり、領主になると、褒章は私を妻にと望んだ。どうして私?彼女のことはもういいの?それともこれは、あなたの人生を台無しにした私への復讐なの?

さようなら、わたくしの騎士様
夜桜
恋愛
騎士様からの突然の『さようなら』(婚約破棄)に辺境伯令嬢クリスは微笑んだ。
その時を待っていたのだ。
クリスは知っていた。
騎士ローウェルは裏切ると。
だから逆に『さようなら』を言い渡した。倍返しで。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる