上 下
1 / 25

1

しおりを挟む
「──お前はその顔で、本当に王族なのか?」

 真剣な顔でそう問いかけてきたのは、この国の第一王子──サイラスだった。



 セシリーはいま、国王が住まう宮廷の広間にいた。豪華に飾り付けられた部屋。テーブルにところせましと並べられた数々の料理。

 使用人たちを除けば、この場にいるのは、王族の年頃の娘たちのみだ。セシリーと合わせれば、全員で二十二人いる。

 はあ。
 セシリーは壁に背をあずけ、窓から空を見上げた。いい天気。こんなところで陰口を聞きながらの昼食より、一人でかたくなったパンでも食べている方が、よほど美味だろう。そんなことを考える。

「まあ、あの方。いらしたのね」

「ねえ。わたくしなら、とてもじゃありませんが来れませんわ」

 クスクス。クスクス。
 少し離れた場所から、王族の令嬢がこちらを見て笑い合う。顔だけはやけに美しい女たちが。

「そんなこと、言わないであげてくださいな。妹は、自身の顔のことはよく理解しております。それでも王命だから、仕方なくなのです」

 セシリーの姉であるカミラが、憐れみの双眸を向けながら、それでも他の令嬢たちと同じように口角をあげる。


 この国では、王族は王族の者としか結ばれてはならないという、絶対的な掟がある。例え何があっても、他の血を混ぜてはならないという掟だ。それさえ守られるのなら、相手は誰であろうと認められる。

 第一王子は今年、十七歳となった。にもかかわらず、婚約者どころか、恋人すらいない。未来の国王がこれでは将来が不安だと、設けられたのがこのパーティーだ。

 つまり、ここに集められた娘たちはみな、第一王子の婚約者候補というわけだ。


 それから間もなく。

 王族の中でも特に美しいと評される第一王子のサイラスが、国王と共に、広間に姿を現した。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫で王子の彼には想い人がいるようですので、私は失礼します

四季
恋愛
十五の頃に特別な力を持っていると告げられた平凡な女性のロテ・フレールは、王子と結婚することとなったのだけれど……。

本を返すため婚約者の部屋へ向かったところ、女性を連れ込んでよく分からないことをしているところを目撃してしまいました。

四季
恋愛
本を返すため婚約者の部屋へ向かったところ、女性を連れ込んでよく分からないことをしているところを目撃してしまいました。

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。……これは一体どういうことですか!?

四季
恋愛
朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。

私は身を引きます。どうかお幸せに

四季
恋愛
私の婚約者フルベルンには幼馴染みがいて……。

婚約破棄されたので実家へ帰って編み物をしていたのですが……まさかの事件が起こりまして!? ~人生は大きく変わりました~

四季
恋愛
私ニーナは、婚約破棄されたので実家へ帰って編み物をしていたのですが……ある日のこと、まさかの事件が起こりまして!?

必要ないと言われたので、元の日常に戻ります

黒木 楓
恋愛
 私エレナは、3年間城で新たな聖女として暮らすも、突如「聖女は必要ない」と言われてしまう。  前の聖女の人は必死にルドロス国に加護を与えていたようで、私は魔力があるから問題なく加護を与えていた。  その違いから、「もう加護がなくても大丈夫だ」と思われたようで、私を追い出したいらしい。  森の中にある家で暮らしていた私は元の日常に戻り、国の異変を確認しながら過ごすことにする。  数日後――私の忠告通り、加護を失ったルドロス国は凶暴なモンスターによる被害を受け始める。  そして「助けてくれ」と城に居た人が何度も頼みに来るけど、私は動く気がなかった。

婚約者の座は譲って差し上げます、お幸せに

四季
恋愛
婚約者が見知らぬ女性と寄り添い合って歩いているところを目撃してしまった。

処理中です...