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「たとえ事実がどうであれ、聖女エリノアが、きみに命を狙われていると思っているのは、確かだ」
「……だから! そんなことはあり得ないと、直接会って誤解を解かせてくださいとお願いしているのです!!」
「きみは、彼女がどれほどきみに恐怖を抱いているか、理解していない。きっといま会っても、彼女はパニックになるだけだ」
「……そんなこと……っ」
「実際の彼女の態度を見て、言葉を聞いて、それはないと、きみは断言できるか?」
「…………っ」
肯定も否定もしないアントンに、クリフは更に続けた。
「彼女は、聖女の役目は続けたいと言ってくれている。だがそれは、きみが隊にいないことが条件だ」
「ま、さか……それが謹慎処分の理由とか言わないですよね? 冗談じゃない。そんなもの、隊のみなが納得するはずがありませんよ?!」
「──だ、そうだが。どうかな?」
クリフが、アントンの背後に話しかける。寄宿舎のすぐ傍で話す二人の会話に聞き耳を立てていた兵士たちの姿が、出入り口の扉の隙間から、ちらちらと見えていた。
気付かなかったアントンはぎょっとしたが、すぐに持ち直し、兵士たちみなに語りかけた。
「みんな、聞いていたなら話しは早い。確かに私は失態を犯したが、謹慎処分になるほどのものだろうか。なにより、隊長である私がいなければ、隊は機能しなくなってしまう。だよな?」
その通りです。との声がすぐに上がると思ったが、兵士たちは目線を泳がせるだけで、口を開こうとしない。
「クリフ殿下の前だから、本当のことを言えない気持ちはわかる。だがこのままでは、魔物の討伐に影響が出てしまう。そうなれば、誰より困るのは民だ」
ですが。と口火を切ったのは、魔物討伐部隊の、副隊長だった。
「隊長がいると、聖女様が来てくれないのですよね?」
「そう、だが。それは、エリノアが何か思い違いをしているだけだ。誤解はすぐに解ける。もし解けなくとも、聖女は他にもいる」
兵士たちに流れる空気が、ざわついた。
「……他にも、ですか」
呟く副隊長に、アントンは、そうだ、と答える。
「そんなに私が嫌なら、地方の聖女と代わればいい。それが無理でも、聖女候補は何十人といる。そこまでして、エリノアに固執する必要はないんだ」
「……それがお前の本音か」
吐き捨てたのは、クリフだ。アントンが兵士たちから、クリフに向きなおる。
「先に私を殺人者呼ばわりしたのは、エリノアです。それをお忘れなく」
睨み合う二人。そこに口を挟んできたのは、副隊長だった。
「……だから! そんなことはあり得ないと、直接会って誤解を解かせてくださいとお願いしているのです!!」
「きみは、彼女がどれほどきみに恐怖を抱いているか、理解していない。きっといま会っても、彼女はパニックになるだけだ」
「……そんなこと……っ」
「実際の彼女の態度を見て、言葉を聞いて、それはないと、きみは断言できるか?」
「…………っ」
肯定も否定もしないアントンに、クリフは更に続けた。
「彼女は、聖女の役目は続けたいと言ってくれている。だがそれは、きみが隊にいないことが条件だ」
「ま、さか……それが謹慎処分の理由とか言わないですよね? 冗談じゃない。そんなもの、隊のみなが納得するはずがありませんよ?!」
「──だ、そうだが。どうかな?」
クリフが、アントンの背後に話しかける。寄宿舎のすぐ傍で話す二人の会話に聞き耳を立てていた兵士たちの姿が、出入り口の扉の隙間から、ちらちらと見えていた。
気付かなかったアントンはぎょっとしたが、すぐに持ち直し、兵士たちみなに語りかけた。
「みんな、聞いていたなら話しは早い。確かに私は失態を犯したが、謹慎処分になるほどのものだろうか。なにより、隊長である私がいなければ、隊は機能しなくなってしまう。だよな?」
その通りです。との声がすぐに上がると思ったが、兵士たちは目線を泳がせるだけで、口を開こうとしない。
「クリフ殿下の前だから、本当のことを言えない気持ちはわかる。だがこのままでは、魔物の討伐に影響が出てしまう。そうなれば、誰より困るのは民だ」
ですが。と口火を切ったのは、魔物討伐部隊の、副隊長だった。
「隊長がいると、聖女様が来てくれないのですよね?」
「そう、だが。それは、エリノアが何か思い違いをしているだけだ。誤解はすぐに解ける。もし解けなくとも、聖女は他にもいる」
兵士たちに流れる空気が、ざわついた。
「……他にも、ですか」
呟く副隊長に、アントンは、そうだ、と答える。
「そんなに私が嫌なら、地方の聖女と代わればいい。それが無理でも、聖女候補は何十人といる。そこまでして、エリノアに固執する必要はないんだ」
「……それがお前の本音か」
吐き捨てたのは、クリフだ。アントンが兵士たちから、クリフに向きなおる。
「先に私を殺人者呼ばわりしたのは、エリノアです。それをお忘れなく」
睨み合う二人。そこに口を挟んできたのは、副隊長だった。
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