上 下
5 / 14

5

しおりを挟む
 デレクに何をされたのか。ようやく理解したルイザの身体が、暴力による恐怖からかショックからか、小刻みに震えだした。

「お……お前が悪いんだからな! お前のせいでぼくは、エセルに……っ」

 デレクが動揺しながらも、そんな言葉を吐き捨てた。ルイザが左頬をおさえ、泣き崩れる。

「…………っ」

 二人のやり取りに、気付けばエセルは、ルイザの肩を抱き寄せた。

「……エセル、様?」

 ルイザが滲む視界で、エセルを見る。エセルは「あなたは何も悪くありません」と、力強く言ってから、デレクに視線を移した。

「──あなたに全面的に落ち度があるにもかかわらず、暴力をふるいましたね。女性に……しかも、愛すると言った方に」

「だ、だって……それは」

「それは? 何ですか?」

 怒気の含まれた強い口調に、デレクが怯む。

「……ルイザが、ぼくだけが悪いみたいに振る舞うから……」

「実際、その通りでしょう? あなたは、わたしという婚約者がいることを、ルイザさんには隠していたのですから」

「……隠してはいた、けど! 平民の彼女が、貴族のぼくの妻になれるなんて、普通なら考えないだろ!? 何も言われずとも、察するべきことだ!!」

 デレクが息を吸うひまもなく、まくしたてる。エセルは、ぎりっと奥歯を噛んだ。

「……もう、いいです。黙ってください」

 デレクはエセルの低い声に、はっとした。

「エ、エセル、ごめん。ぼくが愚かだったんだ。そうだよね。母上がそうだからって、きみも愛人の存在を許してくれるなんて、甘い考えだった。ルイザとは別れるよ。愛人も、屋敷に住まわせたりしないし、作らないと約束する。こ、これで許してくれるよね……?」


 デレクが情けない声音で、眉尻を下げる。エセルはすうっと息を吸うと、馬車の外で待機している従者の名を叫んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

婚約者の座は譲って差し上げます、お幸せに

四季
恋愛
婚約者が見知らぬ女性と寄り添い合って歩いているところを目撃してしまった。

そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。

しげむろ ゆうき
恋愛
 男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない  そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった 全五話 ※ホラー無し

腹に彼の子が宿っている? そうですか、ではお幸せに。

四季
恋愛
「わたくしの腹には彼の子が宿っていますの! 貴女はさっさと消えてくださる?」 突然やって来た金髪ロングヘアの女性は私にそんなことを告げた。

父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました

四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。 だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!

私は身を引きます。どうかお幸せに

四季
恋愛
私の婚約者フルベルンには幼馴染みがいて……。

さようなら婚約者。お幸せに

四季
恋愛
絶世の美女とも言われるエリアナ・フェン・クロロヴィレには、ラスクという婚約者がいるのだが……。 ※2021.2.9 執筆

想い合っている? そうですか、ではお幸せに

四季
恋愛
コルネリア・フレンツェはある日突然訪問者の女性から告げられた。 「実は、私のお腹には彼との子がいるんです」 婚約者の相応しくない振る舞いが判明し、嵐が訪れる。

処理中です...