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 かつて。

 街で一、二を争うほど大きな商会だったビアンコ商会は見る影もなく。いまは倒産するか、しないかという、ギリギリのところでもがいていた。

 リリアンは懲りず、既婚者の男と不貞行為を繰り返し、また慰謝料を請求されていた。また都合よく、代わりに慰謝料を払ってくれる男が現れるだろうと、なぜか信じて疑っていなかったリリアン。しかし、そんな馬鹿で都合のいい男がそうそういるわけもなく。

 オーブリーの仕事場を訪れ、泣き落としをしたが、オーブリーは相手にせず。そもそもお前のせいで貯金なんてないと怒鳴ると、リリアンは舌打ちをして、帰っていった。

 その後、娼婦になったと風の噂で聞いた。


 両親とナタリアと住んでいた屋敷は、いまはもう、別の誰かのものとなっている。屋敷を売り、大金を手にした母親がどこにいるのか、オーブリーは知らない。贅沢な暮らしが忘れられず、借金をしていたと耳にしたこともあったが、事実はわからないし、もはや、知ろうとも思わない。




 ──そして、一年後。

 街中で。

 幸せそうに、知らない男と並んで歩くナタリアを目撃したことがあった。節約家だったビアンコ家に合わせるように、ろくなものを身につけていなかったナタリア。けれどいまは、綺麗な服と装飾品に包まれ、誰がどうみても、立派な貴族令嬢で。

 住む世界が違うと、思い知らされた。

「……ナタリアは、あんなに綺麗だったんだな」

 どうして気付かなかったんだろう。悔やむばかりで、涙が溢れる。

 幸せだったのに。ちゃんと愛され、満たされていたのに。これ以上ないほど深く傷付け、手放してしまった。

 もはや、近付くことさえ叶わない遠い人となってしまったかつての妻は、オーブリーの存在さえ認知していないだろう。



 その後。

 身勝手な理由で妻を捨てたという事実はいつまでもつきまとい、ついにオーブリーは、再婚することもないまま、生涯を終えたという。



              ─おわり─

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