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「彼は、伯爵家の嫡男で。当然、綺麗な婚約者がいて。小さな頃に一目惚れしたのだけれど、叶わない恋だからと心の隅にしまって、いつしか忘れてしまっていたの」

 さきほどとは打って変わって、乙女のような表情になったナタリアに、オーブリーが唖然とする。

「……でも、数年前に彼の奥様が病死してしまって。新しい婚約者を探していたことを知ったお父様が、伯爵と顔見知りだったこともあって、わたしを紹介したの。もちろん、あなたに捨てられたわたしなんて、相手にもされないと思っていたけど──会ってみて、ああ、初恋のあの人だって気付いて、どんどん惹かれていって」

 かつて、婚約者だったころ。夫婦だったころ。こんなナタリアの顔を見たことがあったたろうかと、オーブリーは頭の隅で考えた。

「当たり前だけど、わたしのことは事前に調査されていた。わたしがあなたと離縁した理由も。でもね、商人の妻としてわたしなりに頑張って働いてきたこと、褒めてくれて、認めてくれて。他にもたくさん婚約者候補はいたはずなのに、彼はわたしを選んでくれたのよ」

 幸せそうに、綺麗に、ナタリアは微笑んだ。

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