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 お金はない。でも、なにか作る元気もなく、かといって腹が空きすぎて、このままじゃ眠れそうもない。

 オーブリーは重い身体を動かし、自分が知る限りで一番安い、街の居酒屋に出掛けることにした。


 日もすっかり暮れ、酒に酔い、盛り上がる店内。そんな中、一人寂しく、ビールを飲む金もなく、黙々と食事をするオーブリー。

「──ああ、ビアンコ商会な。ここ最近、すっかり弱体化しちまって。逆によかったじゃん。解雇してもらってさ」

「まあ、いまとなってはな。でも、あのときは、マジで会長に殺意がわいたよ。みんなのおかけでわりとすぐに立ち直れたけど」

 複数の会話に混じり聞こえてきたのは、自身の商会の名で。店内を見渡すと、壁際の席に座る男の二人組のうちの一人の顔に、はっとした。

(……リリアンをストーカーしていた従業員だ)

「馬鹿だなー、その会長。すげー優しい元貴族令嬢の奥さんを捨てたあげく、よりによって、あのリリアンと結婚するって宣言したんだろ?」

「そ。あの顔だけの女。こっちはお前の本性知ってるんだから、ストーカーどころか、嫌悪感しか抱いてないわ」

 だんっ。ビールが入ったコップを、男がテーブルに叩きつける。オーブリーの指が、ぴくりと動いた。

(……本性?)

 ごくり。唾を呑み込む。日が経つにつれ、リリアンへの熱が冷めていくのを自覚していくオーブリー。

 あのときは、彼の話に聞く耳を持っていなかった。でもいまは、逆だ。彼の話が聞きたくて、仕方がない。

 勝手だとはわかってる。でもいまはまだ、リリアンと正式に結婚したわけじゃない。同棲しているだけだ。

 引き返すなら、いまなんだ。

 オーブリーは勇気を振り絞り、自身が解雇した男の元に足を向けた。

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