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「ロッティ。それは、ジェフと別れるということなの?」

 ロッティの母親が戸惑いながら訊ねると、ロッティは弱々しくも「……はい」と頷き、ジェフと向き合った。

「……ごめんなさい。わたしもう、あなたのこと信じられないの」

「そ、そんな……嘘、だよね……?」

 ロッティは「……心が狭くて、ごめんなさい」と頭をさげた。その声は、震えていた。

「い、嫌だ! 私は絶対、別れないからな!」

 ジェフがロッティの両肩を掴む。ロッティは哀しそうに、小さく微笑んだ。

「……ジェフには苦労知らずのわたしよりも、あのリンジーという女性の方が、合っていると思うわ」

「く、苦労知らずだなんて思ったことない! そんなこと言わないでくれ……っ」

「ジェフは気付いていなかったかもしれないけど……何度か、わたしとあの人を比べていたことがあったわよね……?」

「そんなことしてない!」

「……そう。なら、やっぱり無意識だったのね。王宮に勤めるために、あなたは必死に努力してきたもの。そんなあなたを理解できるのは、同じように努力し、苦労してきたあの人……」

「やめて……やめてくれ。私は理解してほしいなんて考えたことなんかない……ただ、きみを愛しているから、だからきみに傍にいてほしいだけなんだ……っ」

 ジェフが血の気の引いた顔で、必死にロッティを説得する。けれどロッティの決意は揺るがない。それはまわりで見ている者にも、確かに見てとれた。

「──これまでだな」

 ため息と共に呟いたのは、ノイマン公爵だった。ジェフはノイマン公爵を振り返り、声をあげた。

「待ってください、父上! まだロッティとの話し合いは終わっていません!」

「……いいや。もう、終わりだ」

 呟いたローレンスが、背後からジェフの肩を掴み、強引にロッティから引き剥がした。ジェフが振り返り、ローレンスを睨み付ける。邪魔をするな。

 そう叫ぼうとしたジェフだったが──。

「……兄上……?」

 ローレンスがあまりに辛そうに顔を歪めているのが視界に入り、ジェフは言葉をなくしてしまった。

「……どんな言葉を紡ごうと、どう言い訳しようと、お前がロッティを裏切ったことにかわりはない──残念だ」

 ジェフはローレンスからロッティに視線を移した。二人は、似たような表情を浮かべていた。

 とても辛そうな。それでいて、すぐに泣いてしまいそうな。


 ──ああ。これが、愛する人に裏切られた者の……。


 ジェフは涙を流しながら、絶望するようにその場に膝をついた。

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