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「……ロッティ? どうして、ここに」

 声が震えるのがわかる。背中に冷たい汗が流れる。ジェフはロッティを愛していた。心から。だからジェフがこのとき何より恐れていたのは、ロッティを失うことだった。

「…………っ!!」

 あまりによすぎるタイミングに、ジェフはリンジーに殺気のこもった双眸を向けてから、ロッティに向き直った。

「ロッティ、違うんだ。きみがリンジーから何を吹き込まれたかは知らないが、それは全て彼女の妄想なんだ……っ」

「……妄想?」

「そうだよ。私は、彼女があまりにも憐れだったから、仕方なく相手をしていたに過ぎない」

 ロッティが「……相手って、どんなことをしていたの?」と静かに返す。ジェフが言葉に詰まる。リンジーがロッティに何を吹き込んだのか。そもそも、リンジーは本当にロッティに会っていたのかさえ、この時点では何もわからなかったから。

「そ、それは」

「……ねえ、ジェフ。全て正直に話して。今ここで、また嘘をつかれたら、わたしはもう、あなたを一生信じられなくなってしまうわ」

 滲む瞳で。それでもロッティが真っ直ぐにジェフを見てくる。ジェフは迷ったが、やがて心を決めた。

 ──全て。全て話そうと。

「……彼女と、何度か身体を重ねたことがある」

 ロッティが息を呑むのがわかった。ジェフはこれまでの自分の行いを振り返り、血が滲むほどに強くこぶしを握りしめた。

 どうしてあんなことをしてしまったのだろう。もうリンジーに対する情など欠片もなくなってしまったジェフは、ただただ後悔に押し潰されそうになっていた。

「──でも、これだけは信じてくれ。私が愛しているのはきみだけだ。生涯、ロッティだけだよ。リンジーがあまりに憐れに泣いてすがるから、私はそれを邪険にできなかっただけなんだ」

 リンジーが「……ジェフ様?」と静かに涙を流すが、ジェフはもう、見向きもしない。

「私は何度も言った。愛する妻がいるから、もう終わりにしたいと。けれどリンジーは、私を諦めてはくれなかった。今日の誘いにのったのも、これで最後だと言われたからだ」

 ロッティはジェフの言葉を、ただ静かに聞いている。

「そうだ。きみも見ていたなら、わかってくれたんじゃないかな。あの口付けは、無理やりされたものだ。そもそも私は、リンジーと一度も口付けをしたことがない。だってそれは、ロッティとだけの特別なものだから」

 ジェフは必死にまくし立て、そこでいったん、言葉を切った。ロッティが、ゆっくりと口を開く。ごくん。ジェフは緊張から、生唾をのんだ。
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