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 それは、突然だった。

「あたし、ジェフ様のこと諦めようと思います」

 仕事の休憩中に呼び止められ、人気のない廊下の端へとジェフを連れてきたリンジーは、真剣な顔で言った。ジェフは絶句し、目を見張った。

「……本当に?」

「はい。あたし、決めたんです」

 ジェフにとってみれば、願ってもないことだった。関係を終わらせなければ。リンジーを傷付けずに、どう説得すればいい。ずっと悩んでいたから。だがいざこうなってみると、嬉しさや安堵よりも、哀しみや寂しさといった感情の方が大きい気がした。

 ──何と勝手な。

 ジェフは流石に自身に呆れたが、それらの想いはむろん、隠しながら小さく微笑んだ。

「……そうか。きみが決意してくれて、嬉しいよ」

「はい。あの、それで……最後にお願いがあるんです。聞いてもらえますか?」

 最後。その単語と見上げてくる潤む瞳に、ジェフは胸が締め付けられる思いがした。

「私にできることなら……」

 静かに答えると、リンジーは「あたしと、デートしてください」と震える声音で言った。

 ジェフはすぐに返答することができなかった。

 これまでリンジーとは──偶然を除いて──王宮外で会ったことは一度もない。それは誰かに、何よりロッティに、万が一にでも見られないようにするため。だからこれまでのリンジーとの逢瀬は、全て王宮の中だけだった。

「……あたし、一度でいい。好きな人とデートがしてみたいんです……っ」

「いや。しかし、妻に見られでもしたら……」

「デートのように見られなけばいいんです。あたし、ジェフ様と腕を組んだり、恋人らしいことしないと誓います。ただ一緒に食事をして、買い物をしたいだけなんです」

「……だが」

 リンジーが一歩、ジェフに近付く。

「父様への贈り物を、たまたま街で偶然出会ったジェフ様が一緒に選んでくれた。それならどうですか?」

 必死に説得しようとするリンジーの姿に、ジェフはとうとう折れた。

「……わかったよ。きみの案にのることにする。ただし、これが最後だからね」

 リンジーが「……はいっ」と、花が咲いたように明るく笑った。今まで見てきた中で、一番の笑顔だった。ジェフはたまらずそっとリンジーを抱き締めた。

「──今度は、きみだけを愛してくれる人を探すんだよ」

 リンジーは答えず、ただ、ジェフの背に腕をまわした。

 
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