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 それからラナは、いつもはニックと、ときにはレズリーを交えて歩く帰路を、一人で帰った。涙はすでに、止まっていた。

「ただいま戻りました。お母様」

「お帰りなさい、ラナ。あら、今日はニックと一緒ではないの?」

 ぴくり。ラナは指を小さく動かしただけで、すぐに笑みをつくった。

「はい。少し具合がすぐれなくて……ニックに迷惑をかけたくなくて」

「あらあら。そんなときこそ、婚約者のニックに頼らなくてはなりませんよ? あなたは甘えるのがあまり上手くないですからね」

「けれどお母様。顔色のよくないわたしを、ニックに見せたくなかったのです。だからもしニックがわたしを訪ねてきても、お部屋に入れないで下さいね」

「仕方のない子ね。わかったわ。それよりも、お医者様をお呼びした方がよいかしら。あなた、確かに顔色が悪いもの」

 心配そうに、母親がラナの頬に手を添える。ラナは「少し横になれば、治りますよ」と笑った。


 それから少しして。予想した通りにニックが屋敷を訪ねてきた。付き合い出してから、ニックは欠かすことなくラナを家まで送ってくれていた。愛されている。そんな勘違いをしていたが、実際のところ愛などはなく、お金のためだったのだ。

 二階の自室の窓から、去っていくニックの背を見つめる。お金のためにご苦労だこと。そんな風にしか、もう思えなかった。それにしても。

(……あの人には、わたしの顔がお金に見えていたのかしら)

 考えるだけで腹が立ち、ラナは別のことに考えを巡らせることにした。

「──さて。穏便に婚約破棄するには、どうしたらよいかしら?」

 ラナは椅子に座り、顎に手を当てた。


 翌朝。
 いつもはニックが家まで迎えに来てくれるのを待っていたが、ラナは一人で屋敷を出た。家族には用事があると嘘をついて。

 見聞きしたことを、そのまま両親に伝えようか。思ったが、お金のためだけにあんなに優しい婚約者を演じていたニックが、どんな言い訳をするかわからない。下手をすれば、ニックの演技力に騙された両親に、結婚を押しきられるかもしれない。何か決定的な証拠がほしかった。

「……ニックは役者になれるわね」
 
 ラナはぽつりと、染み渡る空に向かって呟いてみた。
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