政略結婚だと思われていたのですね。わかりました。婚約破棄してさしあげます。

「私が本当に愛しているのは、君だけだよ」

 伯爵家の嫡男であるニックが誰もいない校舎の裏でそう囁いたのは、婚約者であるラナではなく、ラナの親友のレズリーだった。

「でもごめんね。家のためには、公爵家の長女であるラナと結婚するしかないんだ」

 ラナは涙した。両思いだと信じていた。いつだって優しかったあなた。愛していると何度も言われた。なのに──。

 最初は哀しかった。胸が張り裂けそうなほど。でも。

「ラナと結婚するのは、お金のためだけだよ。信じて」

 泣きじゃくるレズリーを、ニックが必死に慰める。ラナのせいで。ラナがニックを好きにならなければと、陰口を言い合いながら。

 ラナはふと、胸の奥の何かがぷつんと弾けた気がした。

 ──ならば、お望み通りに。
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