20 / 20
20
しおりを挟む
グルエフ伯爵は、リッキーはもちろんのこと、パティにも慰謝料を請求した。両家の親たちはそれを代わりに支払ったものの、あくまでそれは立て替えただけだと。少しずつでも、働いて返していくようにと、それぞれの子どもにきつく命じた。
リッキーとパティは家族から縁を切られ、学園を辞めざるをえなくなり、街で働きはじめた。リッキーは小さな店の事務員として。パティも、シャノンどころかリッキーまで恨みながらも、仕方なく酒屋で働きはじめたのだが、長くは続かず。しばらくはリッキーがパティを養っていたのだが、只でさえ暮らしはきついのに、家事すらしてくれないパティ。加えて、浮気の現場を目撃したリッキーはついに怒りを爆発させ、パティを追い出したそうだ。
けれど、結局はパティを許してしまうリッキー。それから何度も、別れては付き合い、別れては付き合いを繰り返す二人。どうしてパティを見捨てることができないのか。悩んでも答えが出せないリッキーは、生涯、パティに振り回されることになる。
「そろそろ休憩にしましょう、ハーヴィー。コーヒーをいれてきたわ」
「ああ、ありがとう」
ハーヴィーが、机にある本をぱたんと閉じた。ここは、ハーヴィーの自室だ。机には閉じた本だけでなく、数十冊の本が重ね、置かれている。
「お父様から出された課題、どう? 難しい?」
将来、グルエフ伯爵家を継ぐハーヴィー。そんなハーヴィーに、シャノンの父親であるグルエフ伯爵は、定期的に課題を送りつけてくる。
「まあね。でも、やりがいはあるよ。それに、期待されている証拠だと思うしね」
シャノンは「それはその通りだと思うわ」と、苦笑した。少なくともリッキーに、父親が何か課題を送りつけてくるなんてこと、一度もなかった。
もしあのままリッキーが婚約者のままだったら。リッキーがグルエフ伯爵家を継いでいたら。グルエフ伯爵家は、どうなっていたのだろうか。
今さらながら、わたしが支えればいい、なんて。我ながら恐ろしくも短絡的に、楽観的に考えていたものだ。
「どうした?」
「え?」
「コーヒー、くれないのか?」
「え、ああ。ごめんなさい」
手に持ったままのシルバートレイを机に置いた──とたんに腕を引っ張られ、シャノンはハーヴィーの膝の上に座らされた。シャノンが目を丸くしていると、ハーヴィーはいたずらっぽく笑った。
「今日はまだ、構ってあげてなかったから、拗ねてしまったかと思ったよ」
「──ち、違……」
う、とは、言い切れなかった。考えていたことは違ったけれど、課題ばかりに集中するハーヴィーの背中に、つまらないと思っていたのは本当だったから。
「……コーヒー。わたしがいれたの」
「ありがとう。いい匂いだ」
「……飲んで、美味しくいれられてたら、褒めて」
ハーヴィーの首に腕をまわす。これじゃ飲めないな、とハーヴィーが笑う。
そっか。きっとこれが、甘えるってことなのね。リッキーのときは、よくわからなかったけれど。
「──愛しているわ、ハーヴィー」
耳元で囁くと、ハーヴィーは、わたしもだよ、と返してくれた。それがくすぐったくて、でも泣きたいほどに嬉しくて。
ああ。これがきっと、本当の──。
─おわり─
リッキーとパティは家族から縁を切られ、学園を辞めざるをえなくなり、街で働きはじめた。リッキーは小さな店の事務員として。パティも、シャノンどころかリッキーまで恨みながらも、仕方なく酒屋で働きはじめたのだが、長くは続かず。しばらくはリッキーがパティを養っていたのだが、只でさえ暮らしはきついのに、家事すらしてくれないパティ。加えて、浮気の現場を目撃したリッキーはついに怒りを爆発させ、パティを追い出したそうだ。
けれど、結局はパティを許してしまうリッキー。それから何度も、別れては付き合い、別れては付き合いを繰り返す二人。どうしてパティを見捨てることができないのか。悩んでも答えが出せないリッキーは、生涯、パティに振り回されることになる。
「そろそろ休憩にしましょう、ハーヴィー。コーヒーをいれてきたわ」
「ああ、ありがとう」
ハーヴィーが、机にある本をぱたんと閉じた。ここは、ハーヴィーの自室だ。机には閉じた本だけでなく、数十冊の本が重ね、置かれている。
「お父様から出された課題、どう? 難しい?」
将来、グルエフ伯爵家を継ぐハーヴィー。そんなハーヴィーに、シャノンの父親であるグルエフ伯爵は、定期的に課題を送りつけてくる。
「まあね。でも、やりがいはあるよ。それに、期待されている証拠だと思うしね」
シャノンは「それはその通りだと思うわ」と、苦笑した。少なくともリッキーに、父親が何か課題を送りつけてくるなんてこと、一度もなかった。
もしあのままリッキーが婚約者のままだったら。リッキーがグルエフ伯爵家を継いでいたら。グルエフ伯爵家は、どうなっていたのだろうか。
今さらながら、わたしが支えればいい、なんて。我ながら恐ろしくも短絡的に、楽観的に考えていたものだ。
「どうした?」
「え?」
「コーヒー、くれないのか?」
「え、ああ。ごめんなさい」
手に持ったままのシルバートレイを机に置いた──とたんに腕を引っ張られ、シャノンはハーヴィーの膝の上に座らされた。シャノンが目を丸くしていると、ハーヴィーはいたずらっぽく笑った。
「今日はまだ、構ってあげてなかったから、拗ねてしまったかと思ったよ」
「──ち、違……」
う、とは、言い切れなかった。考えていたことは違ったけれど、課題ばかりに集中するハーヴィーの背中に、つまらないと思っていたのは本当だったから。
「……コーヒー。わたしがいれたの」
「ありがとう。いい匂いだ」
「……飲んで、美味しくいれられてたら、褒めて」
ハーヴィーの首に腕をまわす。これじゃ飲めないな、とハーヴィーが笑う。
そっか。きっとこれが、甘えるってことなのね。リッキーのときは、よくわからなかったけれど。
「──愛しているわ、ハーヴィー」
耳元で囁くと、ハーヴィーは、わたしもだよ、と返してくれた。それがくすぐったくて、でも泣きたいほどに嬉しくて。
ああ。これがきっと、本当の──。
─おわり─
719
お気に入りに追加
3,106
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
私があなたを好きだったころ
豆狸
恋愛
「……エヴァンジェリン。僕には好きな女性がいる。初恋の人なんだ。学園の三年間だけでいいから、聖花祭は彼女と過ごさせてくれ」
※1/10タグの『婚約解消』を『婚約→白紙撤回』に訂正しました。
愛のゆくえ【完結】
春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした
ですが、告白した私にあなたは言いました
「妹にしか思えない」
私は幼馴染みと婚約しました
それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか?
☆12時30分より1時間更新
(6月1日0時30分 完結)
こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね?
……違う?
とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。
他社でも公開
想い合っている? そうですか、ではお幸せに
四季
恋愛
コルネリア・フレンツェはある日突然訪問者の女性から告げられた。
「実は、私のお腹には彼との子がいるんです」
婚約者の相応しくない振る舞いが判明し、嵐が訪れる。
女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜
流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。
偶然にも居合わせてしまったのだ。
学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。
そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。
「君を女性として見ることが出来ない」
幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。
その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。
「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」
大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。
そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。
※
ゆるふわ設定です。
完結しました。
彼が愛した王女はもういない
黒猫子猫(猫子猫)
恋愛
シュリは子供の頃からずっと、年上のカイゼルに片想いをしてきた。彼はいつも優しく、まるで宝物のように大切にしてくれた。ただ、シュリの想いには応えてくれず、「もう少し大きくなったらな」と、はぐらかした。月日は流れ、シュリは大人になった。ようやく彼と結ばれる身体になれたと喜んだのも束の間、騎士になっていた彼は護衛を務めていた王女に恋をしていた。シュリは胸を痛めたが、彼の幸せを優先しようと、何も言わずに去る事に決めた。
どちらも叶わない恋をした――はずだった。
※関連作がありますが、これのみで読めます。
※全11話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる