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「ぼくの愛人にならない……?」

 リッキーの提案に、パティは最初、思っていた通りの反応を示した。

「ふざけてるの? 喧嘩を売っているの?」

「ふざけてなんかないよ。ぼくは、確かにきみを愛している。でも、さっきも言った通り、シャノンとは別れられない」
 
「だから?」

「──お金をあげる」

 リッキーの言葉に、パティはキョトンとした。

「……お金?」

「そう。ぼくの愛人になってくれるなら、お金をあげる。きみは魅力的だから、可能性は低いかもしれないけど、もし誰とも結婚できなくても、一生、ぼくが養ってあげる。ぼくがグルエフ伯爵家を継げば、可能な限り、望むだけお金をあげられるよ」

「で、でも……それじゃシャノンに負けた気がするし……」

 パティの心が揺れるのが見てとれ、リッキーは畳み掛けた。

「貴族の妻は、そんなに楽なものじゃない。母上を見ていればわかるけど、礼儀作法は完璧を求められるし、貴族同士の交流にも、常に気を張っていなければならない。ただ着飾って立っていればいいってものじゃないんだ」

「そ、そんなことあたしだって知ってるわよ!」

「うん、そうだよね。でも愛人なら、誰に気を使うことなく、好きな人生を送れるんだよ?」

「……そ、れはそうかもしれないけど」

「もしきみに、他に好きな人が出来たら、すぐに愛人をやめればいい。ぼくはそれを許すから」

「…………」

 リッキーは明らかに迷っているパティの腕を掴み、抱き寄せた。

「ち、ちょっと。あたしはまだ……」

「──ひと月後に、シャノンは隣国に留学する。三ヶ月間、帰ってこない」

「へ? そう、なの?」

「うん。だからその三ヶ月間だけ、ぼくは自由になれるんだ」

 パティは、ふうん、と口角をあげた。

「その間、リッキーの屋敷にも行き放題ってわけ?」

「……その通りだよ。ねえ、パティ。愛人の意味、わかってるよね?」

「デートでもしてあげたら満足?」

「それだけじゃ、お金は渡せない」

「さいってい」

「……何とでも言っていいよ。でも、こうするしかないんだ。シャノンに万が一にでも不貞行為がばれたら、終わりだ。だからどうしてもきみを、シャノンがいないときに、抱きたい」

「へえ。シャノンが帰国すれば、何もしなくても、お金をくれるんだ」
 
「……頻繁には無理でも、隙を見つけて、抱くよ」

 パティは愉快そうにクスクスと笑い出した。

「愛する人に抱かれるだけで遊んで暮らしていけるなら、悪くないかもね。それに本当に惨めなのは、シャノンな気がしてきたわ」

 だろう? 
 リッキーは答え、二人はしばらく笑い続けた。
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