11 / 20
11
しおりを挟む
「ちょ、ちょっと待ってくれ。ここじゃ、誰に聞かれるか……」
「誰もいないわよ。それに、別に聞かれてもいいじゃない」
パティが腰に手をあてる。リッキーはぐっとこぶしを握ると、パティの手を引き、歩きだした。
「な、なに?」
「いいから。ちゃんと返事はするから、お願いだから今は黙ってついてきて」
パティは渋々といったように、大人しくついてきた。リッキーは前を向きながらも、その事実に、ごくりと生唾を呑んでいた。
一階の一番端にある、今は使用されていない教室前の廊下で足を止めるリッキー。きょろきょろとあたりを見回し、誰もいないことを確認したリッキーは、パティの手を離した。
「……パティ。ぼくはね、まだ子どもだったんだ」
くるりと振り返り、不思議そうな顔をするパティに向かって、リッキーは続けた。
「ぼくは長男じゃないから、爵位は継げない。約束された未来なんかない。でもシャノンと結婚すれば、その不安もなくなる」
パティが不快そうに眉を寄せる。
「何が言いたいの? まさか、あたしをふるつもりじゃないわよね?」
「……きみと付き合うためにシャノンと別れるなんて言ったら、父上からどんな罰を与えられるかわからない」
「……っ。信じられない。あなたのあたしへの愛って、その程度のものだったの?!」
「そうは言うけど、考えてもみてよ。ぼくがチェルニー伯爵家から除籍されたら、どうする? ぼくは伯爵令息じゃなくなるんだよ? それでもいいの?」
パティが言葉に詰まる。それは困ると、顔に書いてあった。
「だから、ぼくはシャノンとは別れない。別れられない、と言った方が正しいのかな……わかってくれるよね?」
パティのこぶしが震える。目尻が下がり、目に涙を浮かべはじめた。
「……じゃあ、あたしはどうしたらいいの? 女どころか、男すら、あたしを避けるの。ストーカー女って……あたしそんなんじゃないのに……みんなひどいの……っ」
しくしくと泣きはじめたパティに、リッキーはこそっと笑みを浮かべ、手を差し伸べた。
「あのね、パティ。一つ、提案があるんだけど──」
「誰もいないわよ。それに、別に聞かれてもいいじゃない」
パティが腰に手をあてる。リッキーはぐっとこぶしを握ると、パティの手を引き、歩きだした。
「な、なに?」
「いいから。ちゃんと返事はするから、お願いだから今は黙ってついてきて」
パティは渋々といったように、大人しくついてきた。リッキーは前を向きながらも、その事実に、ごくりと生唾を呑んでいた。
一階の一番端にある、今は使用されていない教室前の廊下で足を止めるリッキー。きょろきょろとあたりを見回し、誰もいないことを確認したリッキーは、パティの手を離した。
「……パティ。ぼくはね、まだ子どもだったんだ」
くるりと振り返り、不思議そうな顔をするパティに向かって、リッキーは続けた。
「ぼくは長男じゃないから、爵位は継げない。約束された未来なんかない。でもシャノンと結婚すれば、その不安もなくなる」
パティが不快そうに眉を寄せる。
「何が言いたいの? まさか、あたしをふるつもりじゃないわよね?」
「……きみと付き合うためにシャノンと別れるなんて言ったら、父上からどんな罰を与えられるかわからない」
「……っ。信じられない。あなたのあたしへの愛って、その程度のものだったの?!」
「そうは言うけど、考えてもみてよ。ぼくがチェルニー伯爵家から除籍されたら、どうする? ぼくは伯爵令息じゃなくなるんだよ? それでもいいの?」
パティが言葉に詰まる。それは困ると、顔に書いてあった。
「だから、ぼくはシャノンとは別れない。別れられない、と言った方が正しいのかな……わかってくれるよね?」
パティのこぶしが震える。目尻が下がり、目に涙を浮かべはじめた。
「……じゃあ、あたしはどうしたらいいの? 女どころか、男すら、あたしを避けるの。ストーカー女って……あたしそんなんじゃないのに……みんなひどいの……っ」
しくしくと泣きはじめたパティに、リッキーはこそっと笑みを浮かべ、手を差し伸べた。
「あのね、パティ。一つ、提案があるんだけど──」
361
お気に入りに追加
3,088
あなたにおすすめの小説
婚約解消は君の方から
みなせ
恋愛
私、リオンは“真実の愛”を見つけてしまった。
しかし、私には産まれた時からの婚約者・ミアがいる。
私が愛するカレンに嫌がらせをするミアに、
嫌がらせをやめるよう呼び出したのに……
どうしてこうなったんだろう?
2020.2.17より、カレンの話を始めました。
小説家になろうさんにも掲載しています。
どなたか私の旦那様、貰って下さいませんか?
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
私の旦那様は毎夜、私の部屋の前で見知らぬ女性と情事に勤しんでいる、だらしなく恥ずかしい人です。わざとしているのは分かってます。私への嫌がらせです……。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
政略結婚で、離縁出来ないけど離縁したい。
無類の女好きの従兄の侯爵令息フェルナンドと伯爵令嬢のロゼッタは、結婚をした。毎晩の様に違う女性を屋敷に連れ込む彼。政略結婚故、愛妾を作るなとは思わないが、せめて本邸に連れ込むのはやめて欲しい……気分が悪い。
彼は所謂美青年で、若くして騎士団副長であり兎に角モテる。結婚してもそれは変わらず……。
ロゼッタが夜会に出れば見知らぬ女から「今直ぐフェルナンド様と別れて‼︎」とワインをかけられ、ただ立っているだけなのに女性達からは終始凄い形相で睨まれる。
居た堪れなくなり、広間の外へ逃げれば元凶の彼が見知らぬ女とお楽しみ中……。
こんな旦那様、いりません!
誰か、私の旦那様を貰って下さい……。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完】ある日、俺様公爵令息からの婚約破棄を受け入れたら、私にだけ冷たかった皇太子殿下が激甘に!? 今更復縁要請&好きだと言ってももう遅い!
黒塔真実
恋愛
【2月18日(夕方から)〜なろうに転載する間(「なろう版」一部違い有り)5話以降をいったん公開中止にします。転載完了後、また再公開いたします】伯爵令嬢エリスは憂鬱な日々を過ごしていた。いつも「婚約破棄」を盾に自分の言うことを聞かせようとする婚約者の俺様公爵令息。その親友のなぜか彼女にだけ異様に冷たい態度の皇太子殿下。二人の男性の存在に悩まされていたのだ。
そうして帝立学院で最終学年を迎え、卒業&結婚を意識してきた秋のある日。エリスはとうとう我慢の限界を迎え、婚約者に反抗。勢いで婚約破棄を受け入れてしまう。すると、皇太子殿下が言葉だけでは駄目だと正式な手続きを進めだす。そして無事に婚約破棄が成立したあと、急に手の平返ししてエリスに接近してきて……。※完結後に感想欄を解放しました。※
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」
不実なあなたに感謝を
黒木メイ
恋愛
王太子妃であるベアトリーチェと踊るのは最初のダンスのみ。落ち人のアンナとは望まれるまま何度も踊るのに。王太子であるマルコが誰に好意を寄せているかははたから見れば一目瞭然だ。けれど、マルコが心から愛しているのはベアトリーチェだけだった。そのことに気づいていながらも受け入れられないベアトリーチェ。そんな時、マルコとアンナがとうとう一線を越えたことを知る。――――不実なあなたを恨んだ回数は数知れず。けれど、今では感謝すらしている。愚かなあなたのおかげで『幸せ』を取り戻すことができたのだから。
※異世界転移をしている登場人物がいますが主人公ではないためタグを外しています。
※曖昧設定。
※一旦完結。
※性描写は匂わせ程度。
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載予定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる