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「ちょ、ちょっと待ってくれ。ここじゃ、誰に聞かれるか……」

「誰もいないわよ。それに、別に聞かれてもいいじゃない」

 パティが腰に手をあてる。リッキーはぐっとこぶしを握ると、パティの手を引き、歩きだした。

「な、なに?」

「いいから。ちゃんと返事はするから、お願いだから今は黙ってついてきて」

 パティは渋々といったように、大人しくついてきた。リッキーは前を向きながらも、その事実に、ごくりと生唾を呑んでいた。


 一階の一番端にある、今は使用されていない教室前の廊下で足を止めるリッキー。きょろきょろとあたりを見回し、誰もいないことを確認したリッキーは、パティの手を離した。

「……パティ。ぼくはね、まだ子どもだったんだ」

 くるりと振り返り、不思議そうな顔をするパティに向かって、リッキーは続けた。

「ぼくは長男じゃないから、爵位は継げない。約束された未来なんかない。でもシャノンと結婚すれば、その不安もなくなる」

 パティが不快そうに眉を寄せる。

「何が言いたいの? まさか、あたしをふるつもりじゃないわよね?」

「……きみと付き合うためにシャノンと別れるなんて言ったら、父上からどんな罰を与えられるかわからない」

「……っ。信じられない。あなたのあたしへの愛って、その程度のものだったの?!」

「そうは言うけど、考えてもみてよ。ぼくがチェルニー伯爵家から除籍されたら、どうする? ぼくは伯爵令息じゃなくなるんだよ? それでもいいの?」

 パティが言葉に詰まる。それは困ると、顔に書いてあった。

「だから、ぼくはシャノンとは別れない。別れられない、と言った方が正しいのかな……わかってくれるよね?」

 パティのこぶしが震える。目尻が下がり、目に涙を浮かべはじめた。

「……じゃあ、あたしはどうしたらいいの? 女どころか、男すら、あたしを避けるの。ストーカー女って……あたしそんなんじゃないのに……みんなひどいの……っ」

 しくしくと泣きはじめたパティに、リッキーはこそっと笑みを浮かべ、手を差し伸べた。


「あのね、パティ。一つ、提案があるんだけど──」

 
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